第三百五十三話
さて、孫権は迷惑な新人達に対してどう対処したのかというと――
「プハァ~!いや~、孫権様は大器であらせられる!我らに英気を養うためとこのような豪華絢爛な宴を開いて頂けるとは!」
無能を戦場に連れて行くと面倒なのでテキトーに宴会を開いて慰撫しておくこととした。
彼らを連れて行って兵士を失うよりも安上がりで、面倒を見る必要もないと考えたのだ。事実面倒は少なかった。
「全くだ!孫堅様は武勇に優れておったが、人の機微疎いところがあったが孫権様は正しく孫堅様の跡継ぎよ!」
権力的な意味では孫堅などよりも上であるため跡継ぎと言っていいのかは微妙なところだ。
「孫権様に我らが味方すれば都を牛耳る袁術某を排して孫権様を宰相あたりの官位へと押し上げることも夢ではないぞ!」
夢は夢でも悪夢である。もちろん悪夢を見るのは孫権だ。
それに何より排しなくてもお願いすれば嬉々としてそれこそご祝儀袋を付けてくれことだろう。いや、むしろ大丈夫か心配して譲らない可能性もある。
「おお!それはいい考えだ!」
誰にとってのいい考えなのか十分ほど問い詰めたい。むしろこのまま孫権が政権を手にした場合、馬車馬が如くなんてヌルい働きを強制されるというのに……知らぬが仏とはよく言ったものだ。
とはいえ、孫権の下に集った者はこんな無能or脳筋の集まりばかりではない。
「足手まといを置いていくだけのために、ここまでの物を用意するとは……孫権様は剛毅な方よな」
ちなみにこの宴は孫権の自腹だ。しかし、勤め人でしかない孫権であるがその財力は上から数えた方が早いぐらいにはある。もちろん上位は袁術自身をトップに、側近達が占めている……が、イコールして残業時間ランキングの上位も占めているという現実。戦わなくちゃ、現実と(書類の山)。
「あまり大きな声で申されるな。あやつらに聞こえては揉め事必至ぞ」
「すまん。しかし、これほどの財力ともなれば天子様に覚えめでたいという噂は本当やもしれぬ」
帝とはデスクを横に並べるぐらいには覚えめでたい……むしろ並べて一緒にデスマーチを歩んでいる仲、戦友だ。しかし、帝と仲がよくても現状、メリットは何もない。お互い愚痴を言い合ったり、たまに仕事を手伝い手伝われる程度である。
余談だが、帝の財力は袁術ならびに側近よりも下だったりするが……まぁ十常侍に横領されまくっているから仕方ないね。一応お小遣い(州の予算級)は貰っているので貧しいわけではないが。ついでにいえば、宮殿内に建っている倉は知らぬ者が見た場合、だいたいは帝の所有物だと勘違いされる。
「では……」
「うむ、孫権様のお手伝いをして差し上げれば、それ相応の見返りは間違いなかろう。上手く運べば中央に呼ばれるやもしれん」
むしろ中央に呼ばれて泥沼に嵌められるぞ。
「となれば切っていい奴らの情報をお渡しするとしましょうか」
「うむ、こちらも手配しておく」
彼らはこの蜂起に対して、中立……と見せかけて裏で繋がっていた。いや、彼らだけではなく、この場にいる者いる三割ぐらいはそうだ。
しかし、あまりにも粛清が厳しいため、孫権の下に身を寄せて急場を凌ごうと試みたのだ。