第三十四話
むう、まだ頭がいたいのじゃ〜。
まさかあんなマヌケな負け方をするとは思いもせんかったぞ。
やはりアレだけフラグを立てれば負けてしまうものなんじゃろうか……いや、吾の油断が招いたことじゃな。
実戦でなかったことは幸いじゃが……まぁ実戦ならば孫策が酒を呑むこともなく、吾の兵は魯粛や紀霊などが軍を率いて出ておったとしても近衛隊三千と民兵二万はほぼ確実に徴兵できるのであくまで演習は演習ということじゃな。
それにしても……あの演習をレポートにするというのはなかなか難しいのぉ。
……うむ、敗因は『だいたい孫策のせい』でよいか。間違っておらんし。
「駄目に決まってるでしょう」
「む、孫権か。いつの間に?!」
「最初から居たでしょ!」
うむ、やはり孫権はツッコミ属性じゃな。
華琳ちゃん以来、吾等に足りなかった念願のツッコミ属性じゃ。これは手放してはならんな。
関羽?楽進?あやつらの真面目さはツッコミよりは説教や忠言という形で言ってくるのでツッコミとは少し違うんじゃよ。もっとも楽進とは触れ合う機会が少なかったから上司に対しての対応なだけかもしれんが……ツッコミをする楽進はあまり思い浮かばんな。
「……ところで姉様を追い詰めたというのは本当なの?」
「うむ、もう少しで勝てたんじゃがな」
改めて言われると悔しいのぅ。
今度機会があれば連弩や投石器、騎馬隊などを容易してやるから首を洗って……あ、やっぱりいいのじゃ。平和が一番じゃから演習なんぞ無い方が嬉しいぞ。
「あの姉様を……」
む?孫権はどうやって吾が戦ったか興味があるようじゃな。
これはやはりアレか、優れた()姉を持つがゆえのコンプレックスというやつかのぉ。
何度も言うが吾は孫策よりおぬしを評価しておるのじゃぞ?仕事もきちんと熟すし、酔って吾に絡んで来んし、仕事をサボらぬし、酔って吾をひん剥こうとせんし……危うく男とバレるところであった。
李典に痴漢撃退道具でも開発してもらうか?
「姉様とどうやって戦ったの?」
「戦い自体は普通じゃぞ。善戦できたのは吾のおかげであるという自信があるがの」
野戦で簡易籠城しただけじゃから奇策などを用いたわけではない。
戦う前に少し策略は巡らしたがの。
「どういうこと?」
「ようは金じゃな」
「お金?」
「うむ」
金があれば士気が上がり、装備が整えられる。
今回の演習で改めて金の力は凄いことがわかったのじゃ。
「食料から始まり、剣、弓、矢、鎧、盾……それらを万全に揃えることこそ肝要じゃ」
「それはそうでしょう。その程度は私でもわかるわ」
本当かのぉ?戦争でどれだけの兵がなくなり、どれぐらいの軍需物資が消費されるのか、本当にわかっておるのじゃろうか。
まぁそのうち知ることになるじゃろうから吾からは深くツッコまんがの。
「ならば簡単じゃ。今回吾は孫策達より千倍の資金を投入した。ただそれだけじゃよ」
「千倍……?」
「うむ、吾に掛かればその程度七日で稼げるのじゃ!」
む、なんじゃ、その疑うような眼差しは。本当じゃぞ?自分で言っておいて胡散臭いなぁ、とは思うが本当のことじゃから仕方なかろう。
「ど、どうやって増やしたの」
「色々やったが一番楽しかったのは……これじゃな」
ドンッとテーブルの上に例のものを置く。
「……なんで麻雀なのよ!」
まぁ、麻雀に関しては稼ぐ、というよりたまには遊びたかっただけだったりするがの。
……ただ、地和三連発、天和二連発した時は他の者達も吾自身も苦笑いするしかなかったがな。
ちなみに麻雀は吾が広めたものではなく、元々あったものじゃぞ。どうやら孔子が広めたという話がこの世界では正解のようじゃの。
「おお、そうじゃ。せっかく出したのじゃから一緒にやらぬか?吾の実力を魅せつけてくれようぞ!」
「……そう言って仕事を疎かにしていては姉様と変わりませんよ」
「失敬な!吾は太守じゃぞ。多少仕事せんでも問題無いわ!」
どうせこの後徹夜確定じゃからな。
演習のために仕事が滞っておったから物凄い書類の山が執務室に形成されておるはずじゃ。
魯粛も頑張ってはくれておるが限界があるというものじゃ。
最近、商会券なるものを発行してまたてんてこ舞いしておるのじゃ。
実は吾が周りの貨幣を集め過ぎて既存の貨幣では絶対数が足りなくなってしまったのじゃ。
そこで考えたのが造幣なんじゃがそれは利権の問題で許されぬからどうするかとなったが商会独自の商品券ならいいのではないかと思い至ったのじゃ。
漢王朝が保証しておる貨幣じゃから勝手な造幣をすると偽造になってしまうが吾等が勝手に別の貨幣を生み出してはいけないという法はないことは確認済みじゃぞ。
「そうじゃ、せっかく出したから一緒にやらぬか?」
「それは、その……」
いつもなら間髪入れずに駄目だしされるが今回は揺らいでおるな。
どうやら吾のことが気になっておるようじゃ。
「よし、やるぞ。影も参加するのじゃ」
「「ハッ」」
返事は聞かずにこちらで決定しておく。こうすれば孫権は——
「ハァ、一局だけですからね」
「ふっ、吾の凄さは一局でわかるというものじゃ」
やはりOKしてくれたのぉ。
これが関羽じゃと一刀両断……これ、一刀(かずと)両断って読めるの……コホン。
さて、じゃらじゃらじゃら〜っと。
カッ!カッ!カッ!……バラバラバラッ!
……孫権が牌積みミスった!顔が赤くなっておるのぉ。めっちゃカワユス。
親は吾じゃ。
さて、まずは配牌は……うむ、相変わらず悪くないのぉ。
とりあえずツモった牌を切る。
次が孫権、影一、影二が切り、吾がツモる。
「ツモ、ドラちゃん……じゃなくてドラ三、純正九連宝燈じゃ」
「「「なっ?!」」」
え?リーチ?そんなものやるとインパクト薄くなるじゃろ?
・
・
・
・
「どうじゃ、吾の凄さがわかったか!」
「…………」
「…………」
「…………」
ん?孫権はともかく影まで真っ白に燃え尽きておるぞ。
なぜじゃ……軽く役満とダブル役満をコンプリートしただけじゃろ。
まぁこうなることがわかっておったから点棒無しでやっておったんじゃがな。こうでもせんと早々に箱ってしまうからのぉ。
「……これは既に強いとかそういう話とは別の話よ」
「「激しく同意」」
あ、やっぱりそう思うかや?吾ながらちょっとどうかと思うんじゃよ。
「大体金に絡むことはこんな感じじゃのぉ」
ただ、金額が大きくなればなるほど労力が伴うようじゃがな。
百倍あたりまではそれほど苦労せんかったが、それを超えると途端に労力が跳ね上がった気がするのじゃ。
もしや、吾等の書類地獄は金と等価交換じゃったのか?……ハハッ、まさかそんなはずは……もしこれが当たっておったらやばいのじゃ。商品券の発行をするようになれば一体どれだけの利益が出るかわからんぞ。
くっ、なぜ赤字が増えぬのじゃ!
「良かったの。これが賭け事ではなくて、いい加減孫堅の借金返済で多く天引きされておるのに更に天引きされるところじゃったぞ」
「……母上の、借金?」
……え、なんじゃ。その反応は?
まさか……孫権は知らぬのか?
「う、うむ、孫堅は吾から金を借りておったぞ。具体的な額は魯粛に聞かねば分からぬが……」
「嘘……」
あ、なんか吾、いらんこと言ったっぽいぞ。
もしや……孫策達も知らぬのでは?いや、契約書にちゃんと書いておるはずじゃからこういうことにはしっかりしておる周瑜ならば知っておるはずじゃ。つまり孫策も知っておるはず……つまり孫権だけ知らぬのか?
「し、新興勢力であったからの。資金が足らなくて当然じゃよ」
「……時期から考えて袁術様も太守になって間もない頃でしょう」
むぅ、まさかこの状態で冷静にツッコミを入れてくるとは……
「しかし吾は郡じゃ、孫堅は州を治めておったから掛かる費用が違うのじゃよ」
「……太守にお金を借りる州牧……」
ええい、面倒なやつめ!
なぜそう察しが良いのじゃ!こんな時ぐらい有能さも鈍ればいいものを。
「が、頑張ってたも」
「……袁術様に励まされた」
今、孫権は吾のことを袁術様と呼んでおるが、最初は紀霊の教育でお嬢様と呼ばれておったが、色々な事情に酔って様付けで落ち着いたのじゃ。
……まさか七乃からクレームが来るとは思わなかったぞ。
「ちょっと待つのじゃ。その言い方はなんじゃ、ん?吾を軽く扱い過ぎじゃないかや?朝昼晩蜂蜜尽くしにして高カロリーで太らせてやろうか!」
「申し訳ありませんでした!」
高カロリーの部分はわからんかったじゃろうが乙女としては太らされるなどと拷問じゃろうから効果てきめんじゃな。……決して三食蜂蜜を嫌がったわけではないはずじゃ。蜂蜜は万能食じゃからな!