今日は忙しくて時間がとれず、短くなりました。
第三十五話
商会券。
吾等の商会が発行し始めた通貨。
実はこれ、あまり深く考えずに発行を始めたのじゃが……どうもやばいのではないかと気づいた。
吾以外誰も気づいておらん……魯粛すらも気づいておらんようなんじゃが……期待通り通貨に成り代わって経済を支えるようになってきた。
洛陽ではまだまだ既存の貨幣が根強いが、商会が進出しておる近辺の地域では商会券の方が喜ばれるぐらいになってきたのじゃ。
その影響を受けて豪族達まで貨幣を商会券に換金する者まで出てくる始末。
それら自体は予測されておったからいいが……これって商会が潰れたり吾が金を持ち逃げしたりすればどうなるんじゃろ……商会券が紙切れになってしまう……うん、大混乱必死じゃな。
どうじゃ?やばいじゃろ?どう間違っても倒産させたらいかんのじゃ。下手をすると黄巾の乱以上の混乱を生み出すことになるぞ。
本来なら国と連携して調整するところなのだがそれが無理だからこんなことになっておるんじゃよ!
ああ、軽はずみに大変なことをしてしまった気がするのじゃ。責任問題になったら……当然吾が責任を取らねばならんじゃろうなぁ。
うむ、絶対破産しないようにするのじゃ。
とりあえず対策として商会券の刷る量の半分の貨幣は保険として常時確保しておこう。
魯粛など幹部達にも知らせてより一層気を引き締めて励まなければなるまい。
しかし、貨幣の信用が落ちておるということはやはり漢王朝自体の威信が落ちておることを示しておる。
特に首都から離れれば離れるほどその傾向が強くなる……のは当然か、なにせ日本と違って中国の国土は広いからのぉ。
……うむ、破産せんことももちろんじゃが商会自体が調子に乗りすぎんようにせねばならんな。
「となると監事を設置した方が良いか」
となると人選じゃな。
……よし、表の顔は楽進、裏の顔を文聘に任すとしよう。
本来は関羽に任せたいところであるが客将という身分がそれを許さぬ。ならば次点として関羽と並ぶぐらい公明正大で知られる楽進であれば立派に果たすじゃろう。
しかし、楽進だけでは権謀術数の海を泳がせるにはキツかろうから文武両道の文聘に補佐してもらうとする。
文聘も潔癖なところがあるが清濁併せ呑む器量がある。実際私兵として諜報部隊を有しておるのは把握しておる……と言うかうっかり影達と衝突して踏み潰しかけたことがあったのじゃ。あちらの被害が少なかったのは幸いじゃったがな。
それに文聘は計算に強い。一度見た演習で魯粛が言っておったが彼女の用兵は過去から学ぶ知識や感覚的に振るう本能的なものではなく、計算によるものなんじゃそうじゃ。
どう計算したらそうなるのかは知らんが同数を率いた甘寧や関羽と互角に渡り合った実力は間違いない。
関羽は学問に励んでおるが何処か本能的なところがある、甘寧は元河賊であるため部隊が大きくなると指揮能力が低下する……ようは二人共経験不足なんじゃな。
それに比べ文聘は…………おや?もしかして吾の臣下の中で一番仕官歴が長いのは文聘か?
…………今まで雑用係のように使っておったが後で謝るとしよう。
「それにしても……あの貨幣の山どうしてくれよう」
商会券が流行って貨幣が山のように貯まる一方じゃ。
このままでは貨幣価値が下がってしまう……が、まぁ朝廷にテキトーに献金すれば代わりに豪華絢爛の品々で返ってくるじゃろうから問題ないか。
皮肉じゃな。朝廷が商会に返礼する限りは貨幣の価値が保証されるが返礼されなくなれば貨幣はただの銅合金と成り下がる。
まぁ、その将来までにはまだまだ時間が掛かるじゃろうがな。
「袁術様、荊州に支店を出すことが出来たため、もうすぐ益州の支店も開けそうです」
まだまだ、か?割りと時間は掛からんかもしれん。
「久しぶりの街じゃ〜!!」
「……三日前に来たばかりでしょう」
「三日も経てば人も街も変わるのじゃぞ」
「…………不本意ながらその通りですね」
今日は孫権と共に城下に来ておる。
最初は渋っておったが吾の上目遣い攻勢の前に屈したのじゃ。やはり吾は最強じゃな!
ダイヤモンドぐらい固い関羽から比べると柔らかくて嬉しいぞ。
「南陽は商人の出入りが多い上に老朽化しておる建物は次々新しい物に建て替えておるからのぉ」
「本当に……よくこれだけの人が集まりますね」
「吾の善政のおかげじゃな」
「……ヨッ、サスガオ嬢様ッ!他人ノ手柄モ自分ノ物ニシテシマウナンテ凄イデス!」
「も、もっと褒めてたも……褒めてたも」
……七乃、孫権に何を仕込んでおるのじゃ。
棒読みすぎてテンションダダ下がりではないか?!……この吾の気持ちも含めた上での仕込みであろうがその楽しみにしておる本人がおらんでは吾が疲れるだけではないか。
「さて、今日は何をするかのぉ……よし、孤児院に行ってみるとするか」
「孤児院、ですか」
「うむ、吾が出資しておる孤児院での。子は宝、子は未来、子は国……と魯粛が言っておったからの。実践してみたのじゃ」
なんというか……吾、何処かの眠りのなんたらという寄生主を利用しておる高校生から小学生になった探偵のような言い回しをしておるのぉ。
「おお、そうじゃ。吾が袁術であることは内緒じゃぞ?」
「……元々お忍びなのですから当然です……でもなんでですか?」
「将来大人になって吾に仕えたり会ったりすることもあるじゃろ?その時にバラせば……面白かろう?」
「なるほど」
(まさかそのためだけに出資しているんじゃ……いや、民のためになっているのだからこれはこれでいいのか?)
「お、早くも発見されたようじゃな」
……さすがに子供とはいえ、三十人を超える人数がこちらに向かってくると怖いものがある。
「蜂蜜の姉ちゃんまた来たのか!蜂蜜くれ!」
「蜂蜜姉さんに会って早々それは失礼ですよ!」
「おい、蜂!今度こそ将棋で勝ってやるからな!」
「蜂蜜——」
「——蜂!」
見事に蜂という単語ばかりである。
まぁ吾が来る度に蜂蜜をやっておったからこういう反応になったんじゃがな。
孤児院の責任者は吾のことを知っておるから戦々恐々としておるらしいが別に子供のやることじゃから問題なかろう。そもそも吾も子供じゃからの。
もちろん今回も蜂蜜を持ってきておるから安心するのじゃ。
「……何処行っても蜂蜜なのね」
「誰だ!このいやらしい姉ちゃんは?!」
「ポンポン出してお腹冷えない?」
「桃色だぜ桃色、やらし〜」
「おっぱい大きい……蜂蜜姉ちゃんぺったんこ」
「…………」
プッ……孫権も子供に掛かれば沈黙するしかないか……それと最後のやつ、吾が男の娘で良かったの。そうでなかったら処刑されておるところじゃぞ。