第三百六十三話
「しかし、孫権と関羽が長期的に抜けるとなると手が回らんなるな。いよいよ死人が出るかもしれん」
「確かに最近予定時間になって起き上がれない人達が増えているみたいですねぇ。最初は死んでいると騒ぎが何度か起きましたから……ただ死んだように寝ていただけですけど」
と、七乃は軽く言っておるが、死にかけていたらしいがの。どうやら疲労回復に良いとされる薬を飲んでおったようなんじゃが、用法用量を守らんかったとか。気持ちはわかるがほどほどにの。現代でもエナジードリンクを飲み過ぎてカフェイン中毒で死んだ者も居たそうじゃし、改めて注意喚起しておく必要があるの。
ただ、仕方ないこととはいえ識字率が低いので一々情報伝達に時間を喰うことに加えて正確性も乏しいのじゃからのぉ。字が読めます!(正しく読めるとは言ってない)が結構あるから困る。
「というわけで少し事業を縮小しようと思うのじゃ」
「大丈夫でしょうか、正直今動くと更に混乱を招くだけな気もするんですけど」
「それは吾も思うたが、どちらにしても死人が出るのも時間の問題じゃ。なら先に死が少なくなる方法を取ろうではないか」
「なるほどなるほど、どちらにしても混乱が起こるなら、先が楽になるだろう混乱の方がまだ救いになりますね~」
「というわけで――」
ブラック企業ならぬブラック国家に鋭くメスを入れるのじゃ!
まずは延々と膨大な黒字のせいで集まり過ぎた金を地方へばら撒くためにやっておった過剰な事業を圧縮から始めるんじゃ。
例えばほぼ空荷なのに往復する船や使用者が少ない道路整備、馬屋などじゃな。
実はこれらはバラマキ以外にも情報収集の役割を担っておったんじゃが、その情報量の多さが吾等を苦しめておるんじゃよ。だから少し情報更新の頻度を落とそうと思うんじゃ。情報は大事、それはわかっておるがよくラノベとかでアカシックレコードに触れて情報が多すぎてアボンするって話があるが、それに近いかの。
というわけでそちらを絞るついでに事業も絞るってことじゃな。
それでは地方で金が落ちなくなると思うじゃろ?よくよく考えると今一番金を持っておるのは……まぁ吾じゃろうが、例外としたなら間違いなく中央の文官達じゃろう。そしてその文官達は肝心の金を使う時間がない。つまり吾が浪費しても文官達のお金が動かんのじゃよ。
ならば文官達の自由な時間が増えれば経済効果が見込めるのではないかと思うたわけじゃ。ブラック国家ではあるが給料だけはいいからの!給料だけは!具体的に言えば何進や十常侍が争っておった時の腐敗して豪遊しておる者達の十倍以上じゃぞ。
その代わりに――
「洛陽から便のいい観光地を開発するのじゃ!」
あまり文官達を放し飼いにしてサボるぐらいになら良いが逃走(ガチ)されたら困るので洛陽からそう離れぬ場所が良いの。あ、でも連帯責任制度を導入するのもアリかの?相互監視って便利じゃよな!(明らかにやばい匂い)
「遠方の工事を縮小して中央近郊の工事を増やせば吾等の仕事もグッと少なくなるのじゃ!」
普通に考えれば吾の管轄内で工事なんてすれば書類が増えると思うじゃろ?じゃが違うんじゃ。吾の管轄内の方が、洛陽近郊の方が書類が減るんじゃよ。
いやー、本当に無能と欲望はどこにでもおるもんじゃの。距離が離れれば離れるほど統制というのは難しくなるというのは重々承知なんじゃが、道路を理由もなく変更したり労働者を自身の畑を耕すために横領したり建材を横領したり、いい加減タイムラグが酷い上に仕事が遅いというのに報告を怠ったり、かと思えばまとまって報告書がドサッと届いたりと本当に面倒なんじゃよ。
だからと言って挿げ替えるにも人がおらんしのぉ。そうでなければ畑の肥料か魚の餌にしてやるところなんじゃがの。
まぁ、これも一重に優秀な者を中央に集めすぎておる弊害というやつじゃの。中央から少し離れると無能が多くなる……せめて普通にやってくれるだけでいいのじゃが……普通が難しいんじゃよなぁ。最初は大丈夫でも少し経つと欲に溺れてしまう。
……もっともこれも優秀な文官を吾等が独占しておるから。と言ってしまえばそれまでなんじゃが。
それに縮小かによって生まれる失業者の仕事にはちょうど良かろう。
「んー……渡し船の利用者が多いところには橋を建設するか?」
「それだとあまり効率的じゃなさそうですよ?それより関所の数を減らす方が効率的ですけど」
「関所か……さすがに無防備過ぎるじゃろうな」
「ですねー」
俗に言う楽市楽座の楽市の方じゃな。正確に言えばもう少し他にもあるんじゃがだいたいはこれでいいじゃろ。
確かに関所を減らせば関所に配置しておる人員が浮くが……さすがにそれをやれるほどこの時代は甘くない。日本の戦国時代はある種のルールに基づいて戦争をしていたから楽市楽座をしても問題は少なかった(ないわけではなかったようじゃがの)が、ここではルール無用の虐殺がまかり通るからのぉ。楽市なんぞしたら権力はもちろん吾の金目当てだけでも攻めてきそうじゃ。関所は足止め用の砦兼物見櫓じゃからの。