第三百六十六話
「むぅ……運が良い者というのは本当におるもんじゃのぉ」
ある情報が舞い込んできた。
その情報を運んできたのは西から訪れた商人であった。
「張遼と呂布と戦って生きておるとはのぉ」
商人がこちらに来る道中にある存在を見かけたようじゃ……重傷を負った姜維と残党達を、の。
いや、本当にしぶと過ぎるじゃろ。北郷は主人公補正で死に難いのは納得できるが、なんで姜維まで……やはり主人公がおる勢力は死に難いんじゃろうか?その割に原作では孫策も周瑜も死んでおったが……原作者は呉に恨みでもあったのかのぉ。
それはともかく、商人の話では更に西を目指しておったらしいし、更にはしばらくして北郷らしき人物にも同じ情報を話したらしい。
というかさすが主人公じゃな。話を聞く限り、北郷が流浪を始めてからそれほど間を置かずに話しているようじゃ。そんなピンポイントでよく情報が拾えたのぉ。
しかし、そもそも姜維を見かけた位置というのは随分離れた場所だったようじゃからこちらに帰って来るつもりがあるかは不明ではあるが、少なくともすぐに帰ってくることはなかろうな。残党の数も千程度とそれほどではないようじゃし、北郷の手勢を含めても大したことは出来まい。できれば永久にどっかに……海外旅行でも楽しんでもらいたいところじゃな。
「簡単に帰って来られぬように関所でも敷くかのぉ」
「お嬢様ぁ。それだとせっかく減らした仕事がまた増えちゃいますよ」
「西のことは西におる者に任せるに決まっておろう!」
「なるほど!董卓さん達ですね」
「いっそ、馬超と馬岱をあちらに返してもいいかもしれんがの」
「それは問題ありませんか?北郷さん達の備えなのに」
まぁ馬超達が再び北郷達と盟を結ぶというのは無きにしもあらずじゃな。一応躾けたが脳筋は肝心なことを感情で決めるからのぉ。
「それに公孫賛さんが泣きますよ」
「むっ、それは困るのぉ」
馬岱を引き抜いてしまうと公孫賛のところの武将が減ってしまうか。貸し出しておるだけなんじゃから引き上げるのに問題はないが……さすがに可哀想じゃの。洛陽で治安維持に努めておる馬超は別に良いがの。
「更に更にそもそも馬超さん達……特に馬超さんは政ができるんでしょうか?」
「むむむ?」
そういえば事務仕事なんて仕込んでおらんかったな。いや、治安維持の報告書が上がってきておったはず……いや、あれは代理が上げておったような?
「……もう少し余裕ができたら仕込んでおくかの。どこかの太守ぐらいにはしておく方がよかろうな」
使えるものはなんでも使うものじゃろ。それに馬超の武は騎兵がおってこそ発揮されるからの。涼州以外の地なら大して脅威にもならんじゃろう。もっとも一番の強みである武が活かせぬが、それは目を瞑るとしよう。
「でしたら楽進さんをもう少し引き上げてもいいと思いますよ。貴重な武力要員ですし、生真面目さんですから孫権さんや関羽さんの代わりにいいかもです」
「ふむ、そうじゃの。いいツッコミ役になるかもしれんの」
ここのところ思うのは吾等に足らんのは官僚でも武人でもなく、ツッコミ役なのではないかと思っておったところじゃ。……まぁ一番足らんのは睡眠時間なんじゃが、それは言わぬが花か。