第三百六十七話
「というわけで楽進さんをお取り寄せしたのじゃ!」
「ヨ、ヨロシクオネガイシマス」
「どうしたんじゃ楽進。今更緊張するような者はおらんじゃろ?いつもの顔ぶれじゃろうに」
「お一人致命的に違う方がいらっしゃいますから!ご尊顔を拝するだけでも烏滸がましい存在が!」
そういえば楽進は外回りが多くて政庁にはあまり顔を出しておらんかったか。それに加えて楽進は農民出身じゃからか帝に慣れておらんようじゃ。権威って偉大じゃの。今となっては政庁で働いておる文官の間では帝の権威はブラック企業の同僚程度しかないというのに……。
そうじゃよな。民衆にとって帝は特別じゃよな……北側の乱が収まったら日本の祝賀御列の儀みたいなことをしても良いかもしれんの。即位してからそんなことしておらんから民衆は立て札や商会が発行しておる新聞などでしかお知らせしておらんかったな。
……それにしては民衆から吾が帝を蔑ろにしておるという話などはあまり上がってきておらんな。
把握しておらんだけか、影が忖度をしておるだけか、もしくは別の要因があるのか……今度話を聞いておくとしよう。
「朕のことは気にせんでよい。ここに来たなら戦友である」
「し、しかし……」
そうそう、その簡単に受け入れられん生真面目さが今吾等に求められておるんじゃ。
「体裁を気にしておったら仕事の効率が落ちるからの。巡り巡って朕にも悪影響が出るのだ。だから気にしなくてもいい」
「ハ、ハイ。御心のままに」
久しぶりに帝扱いされて逆に戸惑っておる帝萌え、なのじゃ。
「さて、楽進はこのあたりの仕事を任せようと思う」
どの程度仕事ができるかわからんので小山一つを任せて、得意不得意をチェックして得意なものを任せる予定じゃ。長所を伸ばして活かす、これがブラック企業を少しでも改善させるための秘訣じゃ。短所なんぞ得意な誰かに任せておけば良いのじゃ。
「……聞いてはいましたが、こんなに多いんですか」
「いやいや、これを見てそのようなことを言われてもの」
と言って吾等の机を指差す。
「あ、あれは一年分ですか?」
「いいえ、半日分です」
なんか英会話の受け答えみたいな会話内容になってしもうたの。
あ、楽進!魂が抜けておる場合ではないぞ!
「ちなみに増えることはあっても減ることはないからの……ほれ」
使用人が山を持って急ぎ足でやってきて吾の机の上にドサッと乗せられた……ふむ、手で持って急ぎ足ということは急ぎの書類か。通常ならカートに載せられて運ばれてくるからの。
あ、後机がギシッって音がなったから近い内に新調せねばならんな。以前机が真っ二つに割れて書類に生き埋めされてから定期的に変えるようにしておるんじゃ。丈夫な机を作っても丈夫な分だけ書類が置かれるからのぉ。
「早く仕事に掛かった方が良いぞ?慣れておらんじゃろうから失敗はしても責めんから頑張るのじゃ」
元々馬超の上司として原作同様に治安維持……警邏隊の責任者兼武官をしておったから仕事内容が違いすぎて大変じゃろう。下手をすると漢字すら読めん。というか名門の出である吾でもたまに読めなかったりするからの。
専門用語ってかなりむずいんじゃぞ。ちなみに官職に就く場合必ず補佐からになる理由がこれじゃの。専門用語を補佐の間に全部覚えるんじゃよ。……おかげで他の官職の者は何を書かれているか読めなかったりするがの。