第三百七十六話
「これが劉備ちゃん達の片棒を担いだ恩恵、かしらね?」
「そうだな。もっともあまり利になっているとは言いづらいがな」
孫策は以前と比べると停留している数が増えている船を見てボヤキ、周瑜がそれに言葉を返した。
劉備達が得た豫章と会稽から孫策達が眺める河はもちろん、海の港にも多くの船が訪れていて物資が流れてきているのは事実だ。しかし、周瑜は頭痛がするかのように眉間に皺を寄せている。
「物が増えたのと同時に人も増えたことで治安の悪化、それに加えて港(海も河も)が渋滞、宿泊施設の不足、使用頻度の増加で道が荒れて整備も必要……出費が多いにも関わらず実入りが少ないのがなんとも……」
目的地は劉備の本拠地である益州だと決まっているため、宿泊や関税などで収入があってもそれ以外はほぼなくて素通り。
「特に道の整備が問題だ」
なぜなら積み荷の殆どは食料である。メインは船による輸送だが、ルートによっては河から海へと移動する際に陸上を長距離移動する必要があったり、そうでなくても全く陸上を使わないルートはない。更に食料を主とした輸送となるとその規模は当然大規模となる。
重い積み荷と大規模な輸送となれば道が荒れて当然だ。そして、道は当然彼らだけが使うものではなく、一番使うのは近隣の村や街である。となれば苦情が来るのは必定で、そうなったら周瑜の仕事が増える。
「それにお酒の種類が減ってるのも問題よ!」
孫策的にも問題が発生していた。
せっかく酒の都を作ろうと誘致していたのに旅のお供と商品として大量に購入していくのだ。
周瑜的には数少ない収入源なので万々歳なのだが、孫策にとっては限定モノを買い占めていく悪質転売ヤーにしか見えない。
ちなみに孫策は知らないことだが人が増えたことで消費される食料も増えたことによって酒の原料が値上がりして生産に影響が出ていたりもする。
もちろん太守である孫策の手元には酒蔵があり、各種絶えることない量と満足できる質が揃えている。だが、孫策としては街で飲み歩く方が解放的で民と飲む事ができて好きなのだから重要な問題だ。
実際、飲み友から飲みたい酒が買い占められたと愚痴を聞いたりするのだからなおさらだ。
「買い占めを規制したところで別の方法を取られるだけだから、対策が難しいぞ」
買い占めを権力で規制したところで大人数で少量ずつ購入してしまえば結局は買い占められる。それに権力を使うにしては小事過ぎる。
「ハァ、外で飲む時はいくらか持ち出しするようにしようかしら」
「私としては少し外で飲むのを控えてほしいんだが?」
「それは聞けない相談ね!」
「…………ハァ」
ただ、この問題は割とすぐに解決することになる。
なぜなら酒の購入者が豫章、会稽へ向かう者達だけになったからだ。益州に行く者達は自身で消費する量だけとなった。
その理由は……益州があまりに貧しく、交易品として成立しなかったからだ。一応豪族がいくらか買ったが、金払いがあまり良くなかったことから上客とは言えず、贅沢品は売れないと判断されたわけだ。