第三百七十七話
「そういえば冥琳、蓮華に会ったのよね。どうだった?」
「随分遅い質問だな」
「だって今まで忙しかったし~」
「別に今も暇な訳では無いが……まぁそうだな」
先に述べた通り劉備達の無謀に振り回されて忙しかった……いや、現在進行系で忙しいのだが、少し落ち着いたのは確かだ。
ちなみに袁術勢から言わせると――「それで忙しい?……ハッ!」――と鼻で笑われるもしくは失笑されるレベルのものでしかないということ明言しておく。
「一言で言えば……雪蓮は会わない方がいいだろうな」
「やっぱりまだ怒ってるの?随分と根に持つわねぇ。袁術ちゃん本人ならまだしも」
置いていった上に出奔した家族を許せないというのはわかるが、周瑜が会わない方がいいとまで言うほどに根に持つというのは限度が過ぎているように思えた。しかし、孫策自身の直感も頷いている以上、周瑜の勘ぐりというわけではない。
「……あれは怒っていると言い表していいものか」
ただし、周瑜は孫権の思いはもっと別次元の何かだと感じていた。
それは世にいう病んでいると言われる状態である。……世にいうではなく、後世で言われていると言ったほうが正しいか。
笑みを浮かべている。それは間違いない。しかし、目はどこまでも無……ハイライトが抜けて落ち、瞳孔が開いて何を考えているのか、周瑜でも汲み取れなかった。
(あれが中央での交渉術というやつなのか?それにしては……薄気味悪い表情だった。だが、交渉なんてできないだろう……袁術様は権力を握られて変わられたのだろうか?)
蜂蜜を手に無邪気に笑っていた袁術、チューリップをくれた袁術を思い浮かべる。
(袁術様にはあのままで居てほしいと思うのは身勝手な思い……だろうな)
いや、袁術はどこまでも袁術のままなのでご心配なく。むしろ劇的に変化……独自進化を爆走中の孫権のみである。
「もしかすると雪蓮が会うと斬りかかってくるかもしれないぞ」
「そこまで?!」
「そこまで、だ」
あの孫権が簡単に剣を抜くとは思えないが念には念を入れておいた方がいいだろう、と考えた周瑜だったが――
「それはそれで楽しそうね!」
周瑜は忘れていた。自身の主が根っからの戦闘狂であることを。
舌舐めずりする孫策をみて、痛みが走る頭を押さえる周瑜。
「あちらには劉備ちゃん達のことは伝わってないの?」
「その件は問題ないようだ。どうやら劉備達の陽動が随分と効いているみたいだ」
正確には孫策達を信用して諜報員を引き上げているのだが、本人達は知る由もない。もっともその代わりにというわけではないが、現在は関羽と孫権の諜報員が入り込んでいる。ただしまだそれほど時が経っていないためそれほどの情報を得られていないが。
「今回のことで私達が劉備ちゃん達に協力したことが知れれば……」
「今すぐにでも蓮華様が乗り込んでくるかもしれないな」
「その展開もいいわね!」
「……」
周瑜はかんがえることをほうきした!
その代わり――
「雪蓮。もしかすると何処かで今回得たことになっている領地のことを聞かれるかもしれないからこの資料を暗記しておくように」
「えええーーー!」
少し罰を与えた。