第三百八十一話
「ふむ、孫策達の領地から劉備達の領地へと大規模交易……か。もしや内密に不戦条約でも結んでおったんじゃろうか?」
「さすがにこれほどの規模となると裏でなにか取引があったのは間違いないでしょう」
「ですねー。でもでも劉備さん達にこれほどの交易……というか食料を買うだけのお金があったんでしょうね?私達がほとんど押さえてすっからかんにして、強奪だって上手くいかなかったはずなんですけどねぇー。美味しい果物とかあるにはありますけど日持ちしませんし」
「私達が撤退した後に備蓄した程度の鉱石や木材、塩は交易する以前に自分達で消費してしまっているはず……確かに何を提供したのでしょうね」
魯粛と七乃は首を傾げる。
ふむ~、劉備のところにはまだ諜報員がおるんじゃが、どうも重要な情報が手に入らん。もしやバレたか寝返ったか?劉備の魅了と諸葛亮の観察眼と張飛の直感力という三重奏相手に長いこと潜り込ませたのはやはり無理があったかのぉ。
諜報員はこちらの重要な情報を持っておらんはずじゃし、偽情報を流されておる感じでもないがそのうち何か工作に使われそうじゃ……いっそ始末するか?
「それでどうします?お嬢様?放置ですか、それとも……」
「戦争は物資的にも書類的にも無理じゃからとりあえず邪魔だけするとしようかの。手始めに孟獲達を煽ってみるかの」
「孟獲……ですか?」
「うむ、奴らはある意味使いやすいかのぉ」
孟獲達、獣人もどきは今、労働力として益州のあっちこっちに広がっておるが、その性質上、かなり問題が多いからの。
まず食事量が多いこと、しかも多産、そしておつむの足り無さ、それを上手く使えれば――
「つまり食料を運んでいる地域の孟獲の仲間達にそれを上手く伝えれば勝手に襲ってくれる、と」
「うむ。吾等はそれほど手間が増えず劉備達に負担を強いれるじゃろ?」
「お嬢様はあくどいでねぇ~。貴重な労働力である孟獲さん達ですから多少暴れただけでは追い出すこともできないですよ。でもでも食べ物の恨みは根深いですからねー。表面的に抑えれても燻り続けること間違いなしですよ」
「そもそも今までの恨みもあるからのぉ。ひょっとすると内乱まで発展する可能性まであるぞ」
「とは言っても孟獲が劉備を破って益州を統治するなんてできるわけもありませんから結局は今のような形に戻るだけですね」
「ですねー。それにしても劉備さんも天下なんてよく狙いますよねぇ。お嬢様ですらこれだけ苦労してるのに劉備さんで務まるわけがないのに」
「まぁやってみんとわからんのじゃろうな」