第三百八十五話
「美羽ちゃんと!」
「七乃の!」
「「三日間クッキング!」」
脳内で――ではなく、リアルにQPの曲が楽団によって演奏されておる。やはりこの音楽がないと締まらんのじゃ……まぁ他の者にとっては逆効果じゃろうがな。七乃は安定のスルー力じゃけども――
「くっきんぐ?」
「お嬢様がよくお使いになる外国語の一つで調理という意味ですねー」
見るからに?を浮かべておる楽進に簡単な説明をする七乃。まだここに来てから短いから仕方ないの。
「さて、本日の目指すのは――カトルカール、じゃ!」
「発音的に外国のものですねー。それはどういうものなんですか?」
「簡単に言えば甘い麺麭(パン)みたいなもんじゃな」
「言われてみれば材料が似ていますねー。分量が異なりますけど」
ケーキが食べたくなったんじゃが、あいにくケーキなんて作ったことがない上に、普通のケーキ……スポンジケーキを素人が焼くのはハードルが高い……らしい。前世で知り合いが言っておったから電化製品が進歩した現代でそれなんじゃからこの不便な時代で、しかもレシピ無しで作ろうと考えると難易度はルナティックじゃ。
というわけで突然ふと思い出した前世で読んでおったラノベ、本好きで下剋上なやつを再現しようというわけじゃ。
材料の割合も簡単じゃったから覚えておるしの。小麦粉、砂糖、バター、卵を全て同量じゃからな。秤さえ用意できれば難しくはないのじゃ。確かカトルカールという名前そのものが四分の一という意味……じゃったと思うからの。
「それでどうやって作るんです?」
「わからん!」
「え?」
いや、小説に出てくるレシピとか一々全部覚えておるわけないじゃろ。
「ああ、だから三日も掛かるんですね」
「正解じゃ楽進」
とは言っても三日間もまるまる休みになるほどの時間が取れるなどという夢幻の世界でしかありえないことじゃから、三日の間の休みを調理にあてるということじゃな。
「さて、まずは三人で手分けしていくつもの種類を作るぞ!」
「はい」
「了解しました」
おそらく全材料を同量使うということはパンと同じように混ぜ合わせて焼くんじゃと思うんじゃが、問題は混ぜ方じゃな。
お菓子作りは手順を間違えると失敗することが多いそうじゃからの。特に洋菓子は。和菓子ならそれなりに食べられるイメージなんじゃが。
とりあえずお菓子作りの基本である小麦粉や砂糖は篩いにかけて、バターも混ぜるなら溶かして使うことが多いので溶かし……問題は卵じゃよなぁ。
卵はマジで色々な使い方をするから大変なんじゃよ。
混ぜることだけ考えても、卵そのもの、卵白のみ、黄身のみ、分けてから両方、更にはどの程度混ぜるのかもわからん。
……これって――
「うむ。ムズいのじゃ」
「ですねー」
「袁術様の要望では麺麭のようなものということでしたが、膨らみませんね」
「もしかしなくても三日でも無理じゃないですか?」
「やはりそう思うか?」
「ええ、それに私達ではなく料理人に任せた方が早いですよ。絶対」
「まぁそうなんじゃけど、たまには変わったことがしたくなったのじゃ。巻き込んだお主等には悪いがの」
「お嬢様と一緒なら問題なしです。むしろご褒美ですよ」
「私のことも気にしないでください。息抜きにはなりましたから」
「と楽進が気を使うのがわかっておったから、おぬしの好きな激辛料理を用意させておるから遠慮なく食べてたも」
「ありがとうございます」
にしても、やはりケーキってムズいのぉ。