第三百八十六話
「うむ、さすが宮廷料理人というだけはあるの。見事な仕上がりじゃ」
目の前に並べられるカトルカール……なんじゃが……どこからどうみてもパウンドケーキにしか見えん。
もしかして同じものなのかや?それとも吾の覚えておったレシピがパウンドケーキのものだったんじゃろうか?
ま、ケーキができたらから細かいことは気にしないのじゃ!
「それと要望にはございませんでしたが、こちらもご用意いたしました」
「ふむ……おお、この香りは蜂蜜じゃな!」
「ご明察にございます」
「うむうむ、吾の嗜好がよく把握しておるようじゃな。褒美を与えるのじゃ」
「ありがとうございます」
金一山程度でいいじゃろうか?いっそ一倉ぐらい与えるか?いや、さすがに嫉妬される……はず。
最近、少し仕事量が減ったことで皆の休暇が増えてきたんじゃが、その余裕がある取引を生み出すこととなったんじゃ。
それは、休みの売買、じゃ。
今まではどれほど金を積み上げても買えなかった休みが、供給が増えたことで今まで需要過多で取引が成立しないほどだったのに売る者が現れたのじゃ。
そうなると金の価値が以前よりも生まれた……うん、普通なら政権が維持されておるなら金の価値がなくなるなどということはないはずなんじゃが、本当に欲しい物が買えぬ金に価値はないのはわからんでもない。
しかし、その取引金額がまた凄い額での。高級官僚でも個人で動かせる金では躊躇う額になっておるんじゃよ。
だからこそ、以前まで倉一つ与える褒美をやっても問題なかったんじゃが、今じゃと下手をすると命を狙われるかもしれん。
何事もほどほどにせねばならんの。
「では、早速いただくのじゃ!」
ハムッ……うむ、うむ。
「美味い。美味いぞ。よくやったのじゃ。褒美を上乗せしておくのじゃ」
「ありがたき幸せ」
堅苦しいと思いつつもう一口ハム。
「ンー!美味しいですね!これ!」
「本当に美味しいですわね」
「美味」
「これ絶対流行ると思います!」
「いくらでも食べられる」
「モクモクモクモクモク…………」
「パクパクパクパクパク…………」
(((孫権(さん)(殿)に刺されそうです)))
うむ、皆の舌にもあったようで安心したのじゃ。
ちなみに最後の台詞?は恋ちゃんと帝じゃ。……なんでこうタイミングよく恋ちゃんが?と思って聞いてみると「…………勘?」の一言でたたっ斬られたのじゃ。これが万夫不当の豪傑というやつか?!と慄いたぞ。
帝に関しては……うん。
「于禁、流行らせるのは良いが注意事項があるのじゃ」
「え、なんですか」
「めっっっっっっちゃ太りやすいからほどほどにせねばならんのじゃ」
「「「えっ」」」
おおう、空気が凍るとはこういうことを言うんじゃろうな。
「アム……んー、蜂蜜が良い味を出しておるなぁ。これはどこ産の蜂蜜じゃろ?加工されると難易度が――」
「お、お嬢様?!どういうことですか?!」