第三十八話
さて、吾が次に取った行動は……まぁ大体の者が思いつく、プロデューサーやパトロン、スポンサーなどの申し込みによる関係者席じゃろう。
しかし、待って欲しいのじゃ。
もし万が一、吾が何らかの形で張角達に関わった後、黄巾の乱の首謀者となる可能性を考慮して欲しいのじゃ。
厳重に管理すると言っても限度があるし、原作では張角達が扇動したつもりはない。つまり何が切っ掛けで爆発するかわからぬ爆弾を抱えるようなものなのじゃ。
反乱首謀者に資金援助などしてしもうてはさすがの吾でも没落必定。
原作の曹操は張角達を使って兵を集めておったが……アレは苦肉の策じゃからのぉ。
四方が敵に囲まれ、領土拡大をしようとする先は黄巾の乱で荒れ、袁紹と戦うことになることは曹操ならわかっておったじゃろう……うん、本来であれば無理ゲーじゃからのぉ。
何がいいたいかというと吾が張角達を取り込む理由がないのじゃ。
兵?金があればどうとでもなるじゃろ。
金?勝手に集まるじゃろ。
人材?金で集まるじゃろ。
無理をする必要性が何処にあるというのか。
さて、ならばなぜ張角達を見に行くのか。
それはもちろん原作を知る者として見てみたいという思いと吾自身が娯楽に飢えておるというのもある。
しかし、一番の理由は……暗殺すべきか否かを見極めるためじゃ。
吾は劉備が嫌いじゃ。あやつを見ておると宗教団体を思い出すからじゃ。
しかし張角達のことは劉備以上に嫌いじゃ。
信念を持たず、利だけを受け、自分達だけ被害者ぶり、生き残る。
そういう意味では劉備は己の叶わぬとわかっておる理想を目指しておった。それは立派な王としての器じゃろう。
だが、張角達は……自分達の夢に必要不可欠なファン達を見殺しにした上であの態度は気に入らぬ。
「さて、そろそろ完成かのぉ」
「もう少しですねぇ。この前の演習で得た経験が生きて以前より高性能になってますよ。李典さんが気合入れて再設計してましたし」
「ほう、それは楽しみじゃな」
吾の目の前には天高くそびえ立つ、櫓がある。
前世以来の高層建築物じゃな。高さは大体五十メートルと五重塔とほぼ同程度の大きさじゃな。
キン○ダムで呉鳳明が使っておった井闌と同サイズじゃと言えばわかりやすいかの?
もっとも今回のは動かぬのじゃがな。
動く物を作ると井闌となるため兵器製造で中央に許可を取らねばならんから面倒じゃったからな。
この櫓だけなら見張り台として届け出を出すだけで問題ないから手間がなかったのじゃ。
「……まさかチケットが買えないからとこんな離れたところから見ようとは……しかもこのようなものまで用意して……」
楽進が呆れたように言う。
そう、吾の考えた策は……チケットが無ければ盗み見ればいいのじゃ!である。
野外コンサートであったのは幸いしたのぉ。
ちなみにここまで音が届くことは前もって調査済みじゃ……一体どうやって声を拡張しておるんじゃろ?これも太平要術じゃろうか?
美味しい蜂蜜の取り方とか養蜂の成功率の向上など書かれておるんだったら是が非でも欲しいぉ。
「しかし楽進、おぬしは李典達と共に会場に行っても良かったのじゃぞ?無理して吾に付き合う必要はないぞ」
「いえ、私は袁術様の護衛するために同行しているのです。その袁術様を置いて会場に行くなどできません」
おお、さすが楽進、真面目じゃのぉ。だからこそ信頼、信用できる。
三羽烏は数少ない客将ではなく、吾の家臣として仕えてくれておる。
信頼、信用できる存在が増えたのは嬉しいのぉ。
ちなみに孫権も一応は客将ではなく家臣じゃったりするが……まぁ孫策という存在がおる限りは信頼百%とはいかぬの。
「そういえばこの櫓……既に塔ですけど、これは終わった後どうするのですか」
「む、考えておらんかったのぉ。せっかく作ったんじゃからただ壊すのも勿体無いか」
パッと思いつくのは観光資源化、巨大キャンプファイヤーぐらいじゃ。
うーん。
「わかりました!両方やりましょう!」
「ん?」
「もっと形をお洒落にして人を集めます。そして定期的に燃やしてお祭り!」
ふむ、なるほど。
分かりやすく言えば雪まつりの後に大文字焼きをするようなイメージか……いや、ひょっとすると現代でも似たような祭りがあるかもしれんが吾は知らんからこんな例えしか思い浮かばん。
随分と原始的な祭りな気もするが……面白そうじゃ。
「ならば次回は設計は李典、意匠は于禁に担当してもらうとするか」
「い、いいんですか?!そんな大役を新人の二人に任せて」
「李典は十分な成績を残しておる。それに于禁が手がけた服の売上も上々と報告にあがっておるから問題なかろう」
実は一番信頼できるのに一番成果が地味なのは楽進であったりする。
武という意味では紀霊はもちろんのこと関羽、甘寧などに勝てない……うむ、相手が悪いとしか言い様がないの。
一応呉懿や李厳には勝っておるがどちらかというと統率能力が高い二人は分野が違うからのぉ。
ただし、楽進は武が中途半端でも統率能力は関羽や甘寧よりはある……と言うか関羽が何やら生真面目な脳筋化しておる気がするのは気のせいかのぉ?もしや程立や郭嘉のサポートがあるせいか?
もしや色々学ぶ前に連れてきたせいか?!
少し勉強もさせるかのぉ。
コンサートの日。
やはりというかなんというか、吾の櫓が注目されておる。
わざわざ足元まで来る者までおるのじゃ。
警備は最低限の親衛隊と隠れて影が配備されておるが、本当に最低限なのであまり威圧感がないため来やすかったんじゃろうな。
「うむうむ、なかなかの絶景じゃ。これはもっと立地を考えれば客を呼べるのぉ」
一応函谷関などはこれよりも高いが最重要関所じゃから登れる者は限られるからのぉ。……もっとも一般的な城壁にも民衆が登れることなぞないがの。
ということは普通に行けないところが行けるようになる。つまり娯楽として成立するわけじゃ。
ますます櫓祭り(仮)は成功しそうじゃのう。
「……ん?」
あそこで隠れてこちらを見ておるのは……張宝か張梁のどっちかじゃな!張角は覚えておるがこの二人はどっちがどっちか忘れたんじゃよなぁ。
ちなみにこっちを見ておるのは眼鏡かけてない貧乳じゃ……大丈夫、貧乳はステータスという名言があるから強く生きよ。
吾は貧乳ではないぞ?男の娘の胸には夢が詰まってるのじゃ。
その貧乳がこちらを見て悔しそうにしておるが……ああ、そうか、こんなものが出来ては話題はこちらにいくらか流れるからか。
確かに営業妨害と言えなくもないのぉ。
せっかくじゃから十本ほど建てればよかったかの?ほれ、木を隠すなら森の中というから周りに一杯生やせば目立たなく——
「余計に目立ちますから!」
楽進もツッコミ要員として成長してきたのぉ。吾は嬉しいぞ。