第四十三話
周りは修羅の地と化しているのに南陽だけは平和じゃ。
平和過ぎて難民が酷い。
特に荊州からの難民が多いのが笑えるのじゃ。
史実では河北や中原などが荒れて、南の安定した地である荊州に民族大移動が起こったのに、この世界では反対の現象が起こっておるんじゃからな。
ただ、人口増加による治安の悪化は洒落にならん。揚州からの難民を受け入れておったが数が少ないため対処は難しくなかった。だが、荊州からの難民は色々と厄介なことが多いのじゃ。
荊州の名士()なやつらが多くこちらに流れてきたため、扱いに困っておる。
ただのゴロツキならバッサバッサと斬ってしまえばいいだけじゃが、この自称名士達は人脈やら金やらプライドやらは広く、多く、高くて問題を次から次へと引き起こす迷惑な害虫じゃ。
そしてこの害虫達は連日吾の元に仕官(自主的にヒモor生活保護申請)しに来るんじゃよ。
まぁ仕官試験で大体落ちるから問題ないがの……あくまで大体であって潜り抜ける猛者もおるから困るがな。
中には益虫……名士に相応しい者がおるんじゃが、そやつらは吾ではなく魯粛の元に仕官しておる。
有能な者達がわざわざ孺子太守に仕えるわけもなく、当然の帰結じゃな。
それでもたまに変わり者で吾に仕えたいという者もおるんじゃが……うん、察しが良い者は気づいたと思うが、世に言うロリコンというやつじゃな。
イエスロリータノータッチなら問題なしと雇用しておるが、七乃とそやつらの間で日夜激闘()が繰り広げられておる。
そんなどうでも良いことはともかく、なんと仕事が減ったのじゃ!
事業拡大や難民問題などによる仕事量より吾らの処理速度が上回ったということじゃ!
やっと毎日三時間はゆっくり寝れるようになったぞ!
なんという贅沢じゃ。毎日決まった時間に三時間も寝れるとは、これでホワイト企業間違いなしじゃな!
それにしても仕官してきた者達が悲鳴をあげておるが最近の若者はなんじゃくじゃのぉ。……ほとんどが吾より年上なはずなんじゃが?
さて、最近お馴染みの黄巾ニュースのお時間じゃ。
官軍に対して大金星をあげた波才は潁川にて大々的に募兵を繰り返し、とうとう二万もの兵を集めることに成功したのじゃ。
これで討伐の勅令が下らないと万を超える軍勢を結成、運営できない現状では太守や刺史、州牧が手を出せなくなったのじゃ。
しかも波才は賊らしくない統率と丁寧な対応で商人達を取り込む形で安全を保証して資金や物資を集めておる。
それがウケてか知らぬが豪族達も敵対せずに中立の立場を取り、余計に地盤が安定してしもうた。
どうやら豪族達とも会合を開いて説得したようじゃ。
何より目を見張るのが統率じゃな。
人とは指向性を持って集まれば暴走するものじゃ。デモにしても、ファンの集いにしても、宗教にしても。
それを抑えるにはかなりの人材とカリスマを持つトップがいるのじゃが……波才は見事抑えておるようじゃ。
真っ当過ぎて(漢王朝が)生きるのが辛い。
吾のところに仕官しに来たなら喜んで迎え入れたじゃろうに……張燕の例もあるのじゃからまだ諦めるには早いかの?
これで黄巾ニュースは終了じゃ。
他の地域のニュース?あまりにも治安が悪すぎて情報網がズタズタじゃよ!
影ではカバーしきれんから重要地を選んで派遣しておる。それ以外は商会自体とその取引相手でもある商人達から情報を得るのが基本なんじゃが……その肝心の商人達が黄巾賊に狩られておるんじゃ。
ただし、別のニュースがあるのじゃ。
異民族である羌が涼州へ侵攻したのじゃ。
馬騰が先頭に立ち、応戦中らしいがそれ以上はわからぬ。
おかげで輸入しておる馬が黄巾の乱で値上げしておったのに更に跳ね上がってしまったのじゃ。
馬は軍馬に、商会の輸送に、農地開拓に、揚州への輸出といくらおっても足りぬのが現状であるから少々問題になっておる。
一応繁殖はさせておるがそもそも馬自体が繁殖力が弱い上にこの時代の出生率が低いから思った以上に増えぬ。これでは騎馬TUEEできぬではないか!……TUEEできるかは微妙なんじゃがな。
豚の繁殖は上手く行っておるんじゃが……馬ほどではないにしろ食料の値上がりも続いておる。
南陽では商会が値上がりせぬように価格調整と転売対策として購入規制をしておるから値段は安定しておるが、その分商会は赤字にはならぬものの黒字が本当に微々たる量であるが減っておるのがその証拠じゃろう。
「むう、いっそ荊州にこっそり派兵して黄巾賊を狩ってしまうか?関羽が民が〜民が〜とうるさいと苦情が来ておるしのぉ」
穀倉地帯が多くある荊州が安定すれば食料の価格も下がる……はずじゃ。
イマイチ自信がないのは何処の官僚も政治家も商人も金に目がないからの、ぼったくり価格で売るなんてことが起こる可能性があるのじゃ。
いや、実際に農地が荒らされて収穫が落ちるであろうから理由としては正当なのかもしれんが……。
「商会に傭兵を組織させるか……駄目か、結局叛意ありと見做されて潰されるか豪族達に使い潰されるのが落ちか」
権力者になってもできることなんて限られておるのぉ。
本来なら関羽を放逐して義勇軍でも結成させればいいのかもしれんが……契約が切れたわけでもないのに手放す気はないぞ!若干脳筋気味じゃがウチの貴重な武力要員じゃからの。
「お嬢様お嬢様、なんだか巷にとても当たるといういんちき臭い占い師を連れてきたんですけどどうします?斬りますか?去勢しますか?」
「……七乃、その選択肢しかないならば連れてくるでない。たまには占いも良いかのぉ」
「そうですか?じゃあ管路とかいう人連れてきますねー」
……管路……じゃと?!七乃、おぬし凄いの拾ってきたの。
天の御遣いの由来になった占い師ではないか?!…………ん?そういえば天の御遣いの噂が聞こえぬが一刀はどうなるんじゃろ?
黄巾の乱が始まったのじゃからそろそろ予言せねば原作に間に合わぬぞ?
「連れて来ましたよー」
七乃が連れてきたのは……黒いローブに身を包んで顔すらはっきり見えぬ……怪しいやつじゃのぉ。
「ささ、パパっと占っちゃってください」
「そう慌てるものではないぞ」
そう言って懐から出したのは……ほぉ、水晶占いか。
うむ、その大きさでその透明感……間違いなく一級品じゃな。
「む……ふむ……ん??……???……なんじゃこれは」
おや?管路の様子が……進化でもするのか?進化キャンセルできるのか?
「……なぜじゃ。なぜ蜂蜜しか見えぬ」
ぷはっ、これは草不可避。
吾の蜂蜜愛は先を見通す管路の占いすらも凌駕するらしいぞ。
「しばし待たれよ……ふん!……駄目じゃ、蜂蜜しか映らん……しかもこれは……大陸全土が蜂蜜で溢れかえっておる?!」
なるほど、吾の蜂蜜愛は大陸すらも溢れるか。
「うむうむ、さすが巷でよく当たる占い師というだけのことはある。褒美を取らせるぞ」
「いや、これは……どういうことじゃ?なんだというのじゃ……この外史の特異点とでも……」
む、外史じゃと?もしや管路も貂蝉や卑弥呼と同じ存在なのかや?それにしても怪しいだけで割りと普通なキャラじゃのぉ。
「七乃!特級蜂蜜を渡しておくのじゃぞ!」
「特級ですか?!勿体なくないですか、お嬢様が楽しみにとっといたものでしょう?」
「うむ、見事な占いの結果であったからの。それに報いなければなるまい」
(あの程度だったらお嬢様の嗜好を知っていれば誰だってできそうですけど……お嬢様が嬉しそうだからまあいいでしょう)
「もしや、ここのところ未来が見えぬのはこやつのせいか?」
あ、天の御遣いの予言がなかったのは吾のせいなのかや?!