第四十四話
まさかの北郷一刀行方知れず。
管路にもう少し話を聞きたかったがいつの間にかおらんなっておった……面妖なやつじゃな。管理者側の人間と知らねばしばらく寝れぬところじゃ……何処からともなく蜂蜜怖いという声が聞こえたような気がしたが気のせいじゃろう。
こうなるとおるのかおらんのかすらわからぬから華琳ちゃんと孫策への監視は今まで以上に強める必要があるのぉ。
主人公というのはご都合主義の塊じゃからいくら警戒しても無駄かもしれぬ。しかし、せぬ損よりする損じゃ。
この世界が原作と同じにならぬのは吾の存在でわかっておるし、管路の占いで証明されたようなもんじゃが不安要素は少ない方がいいに決まっておるからの。
「さて、孫策達の様子は……」
ふむ、今のところ順調な様子じゃな。
さすがに吾の援軍を受けた袁遺に恐れを為したのか、こちらに靡(なび)く豪族達が多くなったようじゃ。
ただし、問題がより深刻化している部分もある。
こちらに靡いた豪族達から多くの黄巾賊討伐の依頼が殺到したのじゃ。なんとも都合の良い奴らではあるが巨大な賊にいつ自分達が襲われるかわからぬという現状を考えると致し方あるまい。
呉懿や李厳達は合流したが、再び兵を分けて黄巾賊討伐へと動き、既に五度ほど衝突して千八百ほどの首を上げておるようじゃ。
どうやら黄巾賊は揚州におった官軍を追っ払ったことでしばらくは来ぬと踏んでおったようで五百程度に分散して好き勝手暴れておったようで大きな損害もないらしい。
そして肝心の孫策じゃが、どうやら改善傾向にあるらしいのじゃ。
独断専行は相変わらずじゃし、先頭に立って切り込むのも変わらんのじゃが作戦を逸脱した行動は控えて臨機応変と言える程度まで落ち着いておるようじゃ。
まぁ前の賊退治は孫策の初陣であったことも暴走の要因だったのじゃろう。
随分と戦果に貢献しておると呉懿は評価しておるようじゃから間違いないはずじゃ。
もっとも一番貢献しておるのは周瑜であることは言わずもがなじゃな。孫策の家臣ではあるが本人の許可を取り(酒で買収)随分と呉懿に使われておるようじゃ。
せっかく書類地獄から抜け出したのに……とボヤいておるそうじゃが全てはそんな主君を選んだおぬしが悪いのじゃよ。
まぁ吾に仕えてもあまり変わらぬであろうし、華琳ちゃんもその能力を活かすために変わらぬであろうし、劉備も上層部がスカスカじゃから生真面目さから変わらぬじゃろ……おや?三国何処へ行っても過労の運命は変わらぬぞ?
「ふむ、なかなか頑張っておるようで安心したが……やはり戦場でも酒を呑んでおるようじゃな」
条件を知っておれば控えたじゃろうか?……無理だと思えるのは吾だけかのぉ。
李厳からの楽進の評価が書かれておったが、質実剛健の一言で済まされておる。
うむ、楽進は面白みに欠けることはわかっておった。しかし軍人に面白みなどそれほど必要ではないからのぉ。孫策のような不良などそんなにいらぬのじゃ。優等生バンザイじゃ。
この討伐によって寿春近郊は安全となったことによって交易路の回復に一時的かもしれぬが成功したのじゃ。
おかげで寿春でうなぎ登りであった物価上昇を下げることができた……が、問題は南陽の物価が若干上がってしまったことじゃな。
さすがに備蓄を放出し続けるには限度があるから今から先を見越して少しずつ制限を掛ける予定じゃ。
しばらくは気にならんじゃろうが改善されぬまま二年を超えれば不満に思うことが多くなるじゃろう。
うーむ、このままでは大陸全土で不況に突入することになるじゃろうなぁ。
もっとも寿春は元々穀倉地帯であるから黄巾賊を狩り終えればまだマシになるはずじゃ、それに袁遺も吾からの援助を頼らずともよくなるじゃろう……商会の力は借りねばならんじゃろうがな。
黄巾が動き始めて早二ヶ月、とうとう来るべき時が来たのじゃ。
黄巾党によって青州刺史が討たれ、青州自体が黄色一色となってしもうたんじゃ。
これによって漢王朝の衰退が露呈してしまい、農民達が次々立ち上がり、一揆が今まで以上に煽る。
まぁ南陽はたまに黄巾賊が遊びに来たりする程度で相変わらず平和なんじゃがな。
揚州は九江郡、盧江郡、つまり揚州に流れる長江より北側の黄巾賊を退治することに成功したと報告があった。
もっとも全滅することはできず、追い出しただけじゃから周りにとっては迷惑であろうが全てを処理するほどのことはできなんだ。
州を跨ぐほどの権力はさすがに持っておらんからのぉ……まぁそう仕向けたのは吾なんじゃがな。
今頃豫州と徐州は大変なことになっておるじゃろう。
豫州といえば吾の実家である汝南があるがこれも計算の内じゃ。
もし現地政府が失敗でもすれば袁家が力を貸して解決する、そうすると自然と発言力が強まるという流れじゃな。
徐州は……知らん。陶謙が頑張るじゃろ。
「そういえばお嬢様、涼州に知恵者が現れたようですよ。商会からの報告で馬の値上げ交渉をされたと嘆いていました」
「む、随分高く買っておったと思ったんじゃが?」
「それでも本来よりずっと安かったんですよ。それが他州への輸出とそう変わらないぐらいになったそうです。益州にもいい馬がいるそうですのでそちらに切り替えるかもしれないと言ってました」
む、益州で馬?そんな記憶はないが現場の者が言っておるなら間違いなかろうな。
しかし、涼州で知恵者か……何者なんじゃ?
「その涼州の知恵者の名は聞いておるか?」
「ええ、確か北郷一刀とかいう異民族らしいですねー。まぁ涼州で異民族なんて珍しくないですけど」
…………
………
……
…
おった?!
なんか正規のルートとは違うところに主人公がおった!!
全くノーマークの場所じゃが……うん、そこなら問題ないぞ。
涼州では勢力を広げることはできんからのぉ。西と北に異民族がおるせいで迂闊に動けぬ地じゃからどんなにチートをしても勢力が広がるのは長安の手前までじゃ。
長安は前漢の首都だっただけあって城壁が高く、守りが堅いため騎馬が中心の涼州では絶対落とせんからのぉ。そこを抜いたとしても潼関を抜けれるとは思えぬ。
しかし、涼州産の馬が買えぬのは痛いのぉ……一種の粛清処置として交易を絞ってやるかの。
いつから、どの程度の事情を北郷が知っておるかは知らんが吾等に値上げなどと……もしや吾と対等な立場だとでも思っておるのか?
日本の学生じゃからのぉ。取引は平等であるべきなんぞと考えておる可能性が高いのぉ。
吾と涼州が同等?ありえんじゃろ。
吾等は馬が無くても困るだけじゃが涼州は食料がなくなって干上がってしまうんじゃから同等なわけあるまい。
特に今は需要と供給のバランスが狂っておるからそれを正したいという気持ちはわからんでもないが今他州に涼州へ食料を輸出するだけの余力、もしくは楽観視しておる州どころか郡すらないじゃろう。
まぁこれは北郷だけが悪いわけではない。涼州は脳筋が多過ぎて情勢を教えてくれる者がおらんのが一番の要因じゃ。
これからそれを学ぶが良いぞ。