第五十五話
程立や周瑜がおらんが何とか政務の処理が追いついたのじゃ。
というわけで久しぶりに城下町に遊びに来たのじゃ。
「……以前は視察を名目としたただ遊びに来ていると思ってたけど、本当に視察も兼ねていたのね……」
「なんじゃ、そこまで疑っておったのか」
「信用する要素なんてなかったわよ」
ヌハハハハ、その通りじゃな。
「視察でわかることも多いがそれは何じゃと思う?」
「大体は施政を行った影響でしょうか」
「それもあるのぉ……しかしそのようなものは書類や現場の意見を聞けば察することができる。一番見なければならぬのは……街の雰囲気や空気、じゃな」
「……なるほど」
思うところがあるのか孫権は納得したように頷いておる。
まぁ、わからん方が問題じゃがな。
やはり平和な南陽郡とは言っても世が乱れというのはストレスを感じるもので空気が何処か刺々しく憂鬱としておる。大きな出兵が三度もあり、その一つが今も帰ってこないとなれば戦勝報告があったとしても仕方ないことじゃろう。
更に史実とは違って異民族が侵攻中の涼州への援軍として派遣された盧植が史実通り捕縛され、罪人とされたのも原因があるやもしれぬ。
さすがに活躍目覚ましい盧植を賄賂を贈らぬからと罪人にしたのは良くなかったのぉ。相手が黄巾賊ならばまだ良かったが、侵略者の撃退中とあっては民衆の心中は穏やかではおられまい。
それに宦官への反発がかなり強まっておるし、中央と繋がりが強い吾に疑念を抱く者も出てきておる……のじゃが、これに関しては民衆が身勝手過ぎるとは思う。
なぜなら袁術が吾であることを誰も知らんのじゃぞ?容姿などは写真があるわけでもなし、防犯上の関係で似顔絵すらも出回っておらんから軍や官僚達ぐらいしか知らぬ。
つまり中央との繋がりだけを見て疑っておるわけじゃ。
それと同時に魯粛を太守に、という声が大きくなってきておる……本人はかなり迷惑そうじゃがな。
「対応なさらないでよろしいのですか」
いつまでも孫権の喋り方が安定せんのぉ。敬語だったり丁寧語だったりフレンドリーな話し方だったりする。
本人曰く、吾が可愛いのがいけないらしい(吾翻訳)モテる袁術は辛いのじゃ。本当は距離を測りかねているらしい。
まぁそれはいいとして……わざわざこの程度のことで動いておったら身が持たんぞ。
それに恐らく魯粛を太守に、というのは恐らく後ろでは劉表が動いておるに違いない。
「……劉表」
しまった。劉表が孫堅の仇であることを孫権は知っておるんじゃった?!
まさか資料を見られるとは思っておらなんだ。孫家が幹部になることを想定しておらんかったのは失策じゃった。
いやぁ、あの時は焦ったぞ。文面だけ見れば孫堅の死を利用して利権を手に入れたとしか見えんからの。
説明したら納得してくれたから良かったものの……あまり隠し事に向かぬ孫権じゃから多分納得してくれて折るはずじゃ……きっと。
「お、落ち着くのじゃ。今はどうしようもないぞ。というかこの前支援物資を送るときは反応がなかったではないか」
「あれは劉表を支援しているのではなく、民のためと思って納得しただけよ!」
おお、孫権の器の大きさを見た気がするのじゃ。
まぁ劉表個人への思いまで改める必要はなかろう。と言うか吾も殺せるものならすぐに殺したいぐらいじゃ。
「劉表……本当に邪魔な存在ね」
「それは否定せん。あれが劉家でなかったら今頃この世に存在させぬのじゃがな」
「本当に政治の世界は難しいわね」
本当にのぉ。
正直、力だけで解決できるならそちらの方が簡単でいいのじゃ。
と、喋っておったら目的地が見えてきたぞ。
「……猫猫喫茶?」
「うむ、商会の新しく始めた店じゃな」
「…………すごく嫌な予感がするわ。帰っていいかしら」
「却下じゃ。おぬし、一応護衛じゃろ?一緒におらんでどうする」
どこぞの烏人と人間のハーフであるまいし、護衛はしっかりしてもらわねば困るのじゃ。
「さて、入るぞ」
扉を開けると猫、猫、猫、猫、ヌコ、猫、(=^・^=)、((≡゚♀゚≡))、(=^・・^=)、猫メイド……わかりやすくいうと猫カフェじゃな。
いやー猫は癒やされるのぉ。
「いらっしゃいませ!こちらをどうぞ」
そう言って渡されたのはねこみみバンド、吾が開発したものより品質は悪いがそこそこの品じゃとわかる……が、あいにくと興味はそれに向かっておらん。
「……これを私につけろ、と?」
笑顔がひきつっておる孫権もスルー。
吾が気になるのは……
「今日のおすすめお猫様はこちらの玉三郎です!」
「おぬしは……」
「あ、自己紹介が遅れました。一昨日から働き始めた周泰幼平といいます!」
……なんでこんなところで周泰が働いておるんじゃ?
まさか何処かの諜報員か?しかしねこみみバンドと握りしめたまま睨み合いを続ける孫権をスルーしているということは諜報員ではないのかや?
なんとも言えぬのぉ。影達がおったから諜報員である周泰はあまり狙っておらなかったのじゃ。
諜報活動と言うのは一人二人でやるものではないからの、優先順位はあまり高くはなかったのじゃが……だからといって猫カフェで働いておるなどと誰が予想出来たであろうか。
「にゃあ〜幸せですにゃ〜」
まぁ、色々なことは置いておくとして、今猫カフェ内で一番堪能しておるのは周泰じゃな。間違いない。
……店員が一番楽しんでおるというのはどうなんじゃ?
そして同僚と思われる猫メイドに怒られておるな。接待を疎かにして自分ばかり猫を可愛がっては怒られて当然じゃな。
「ああ、お猫様ぁ……」
うん、この駄目NINJA、どうにもならんな。
というか幸せそうじゃな……これは戦争などという物騒な世界に触れず、そのまま過ごさせて上げる方が幸せかもしれぬ。
原作キャラがまた違った幸せを掴んでもいいじゃろう……とは思うのじゃが……
「お嬢様、あの身のこなし、只者ではないわ」
ですよねー。
あのNINJA的な動きを見れば誰でも思いついてしまう。
さて、変なところに勧誘される前に吾が勧誘するべきじゃろうか……しかし今、吾達が勧誘したところで只の客にしか見えん。
やはりポジション的に似通っておる紀霊に勧誘を任せるかの。
ああ、しかし、あのNINJAに吾の正体を隠し通せるじゃろうか……周泰に望むのは護衛や工作員じゃからのぉ。
「にゃ〜……お猫様」
……まぁ今は猫と周泰、ねこみみバンドを着けた孫権を眺めて楽しむとするかの。
「……くっ、笑いたければ笑いなさい」
「いやいや、似合っておるぞ。ほれ、吾はどうじゃ?」
「……悔しいほど似合ってるわよ」
ほっほっほ、やはり猫耳は正義じゃな。開発したかいがあったというものじゃ。
「……やはり諸悪の根源かしら」