第七十四話
黄巾の乱終了のお知らせ、が届いたのじゃ。
どうやら張角達は劉備達が討ち取ったようじゃの……まさかの大金星?大穴?見当外れが一番近いかの?
まぁ張角達は影武者なんじゃがな。
こうして目の前に首があるからの……ただ、問題があるのじゃ。
それは——
「なんで首が繋がっておるんじゃ?」
吾の言葉に張角達……いや、この呼び方は外に漏れると拙いか、天和達がビクッと震えるが気にすまい。
「吾は殺すように指示したはずじゃが……魯粛の手配か?」
「いえ、私も間違いなく暗殺するように指示を出しました」
「じゃよな……なぜじゃ?」
「それは私からご報告を」
そう言ったのは妙に怒っておる楽就じゃった。
どうしたんじゃ?と思ったが報告内容を聞くと理由がわかった。
簡単にまとめると、吾と魯粛が送った工作員は天和達の側近として仕えることに成功し順調だったそうじゃが、仕えておるうちに天和達に魅了されてしまったようじゃ。
これで吾達を裏切ったなら話が早くて助かるんじゃがな。裏切り者を処刑するだけでなのじゃから……しかし、なんとも中途半端なことで吾等を裏切るつもりはなく、一部の指示(暗殺)には従わなかったが他のこと忠実に従っていたらしい。
そして暗殺することができぬからと決戦の勝敗に関係なく吾等の下に連れて来るつもりであったとか。
その結果が天和達が目の前におる……ということのようじゃ。
「ふむ……なるほどのぉ」
「あれほどの求心力があったと言うのですからこのような事態も想定しておくべきでした。申し訳ありません」
魯粛が悪くないとは言わんが魯粛だけが悪いわけではあるまい。
吾も少し考えればわかったはずなのじゃから……しかし、どうしたものかのぉ。
「吾はおぬしらのことが嫌いなんじゃがなぁ」
「なんでよ!私達はただ皆と楽しく歌って踊ってただけじゃない!」
「そういうところが嫌いなんじゃよ。不用意な一言で煽ってしまったのは仕方ないにしてもおぬしらが中心にいたのは間違いなかろう?担がれた神輿には神輿なりに責任があるとは思わんか?」
「勝手に担ぎだされていい迷惑よ」
ああ、本当にこやつら嫌いじゃ。
加害者のくせに被害者のフリをして……貢がれた物で贅沢をして被害者?何の冗談じゃ。
「お嬢様〜、もうこの人達殺しちゃって良いんじゃないですか。自分勝手にもほどがあると思います」
「張勲が言うのはどうかと思うが私も賛成です」
「利用価値がないわけではないでしょうけど、殺さないでおく理由には薄いですから私も賛成ですね」
七乃、孫権、魯粛が処刑に異議はないようじゃ。
吾も異存はない。地和がギャーギャー騒いでおるがその程度で吾等の意志が変わると思うんじゃろうか。
しかし……一つ、引っかかるところがある。
命令無視したのだから罰せねばならぬのは間違いないが……命令無視をしながらも次点として天和達をここに連れてきた影達じゃ。
今回の失態は大きい、大きいが今までの功績を全て無にして処刑とするほどではないような気がする。
ただ、天和達を殺せばこやつらがどうするか……吾等から離れるのは間違いなかろう。
正直言うと天和達の命如きに怨まれたりされるのはどうなのかなー、と思うわけじゃよ。
ふむ、どうしたものかのぉ。
影武者とはいえ既に張角達は死んだことになっておる。原作とは違い、影達が側近として頑張ったおかげで誰も気づいておらんという話じゃ。
それを信じるとすれば天和達は原作の張角や董卓のようなリスクはないということになる……命を救う……しかし、吾はそれだけでは気に食わん。となると——
「よし、おぬしらに選択肢をやろう。ここで名も無き歌い手として死ぬか」
これこれ、絶望するのはまだ早いぞ。
吾のナイスなアイディアを全て聞いてから絶望して欲しいものじゃ。
「お前達を守ってきたその三人を支える嫁となり、二度と歌わぬなら命は救ってやろう」
つまり、アイドルとして人生を終えるか、アイドルと恋愛を殺して人生を生きるかということじゃな。
そして影達がめっちゃ明るくなっておるな。単純な奴らじゃ……吾ならこんな三人を嫁にしたくないがな。
なんだかとってもビッチ臭がする天然長女に、明らかな地雷臭次女、クールと思慮深いといえばよく聞こえるが打算腹黒の三女……うん、吾なら金をもらっても遠慮願うのぉ。
だからこそ『三人を支える嫁』とあえて条件をつけたんじゃ。ただの嫁になるだけなら次女……地和は旦那の給料を食い潰す悪女にしかならんと思っての。
もしそんなことをすれば迷わずゴートゥーヘル!じゃ。
「ちょっと!私達がなんで——」
「ちぃ姉さん!」
ちっ、続きが聞きたかったのぉ。
おそらく、私達がなんでこんな奴らと結婚しないといけないのよ、だったと思うんじゃ。吾の意図を人和が察して叫ばなければ……影達との結婚を断ったということでおぬし達を快く始末できたのに……残念じゃ。
やはり人和は一番気に食わんのぉ。それだけ察しよければ自分達の未来が、自分達を支えるファン達の未来がわかっておったじゃろうに目の前の欲につられた結果がこれじゃ。
「まぁ考える時間をやろう。これからお前達が行った後始末をせねばならぬから皆忙しいのじゃ。七日後に答えを聞くとしよう……その間におぬしらを愛しておった応援者の屍を踏み台にしてどのような人生を歩むか好きに選ぶが良い」
何やら天和達の顔色が悪いが、忙しいのは本当じゃから早々に仕事に戻る。
さて、表向き劉備達が張角を討ったことによって後援者となっておった華琳ちゃんの手柄となり、華琳ちゃんを指揮下においておった吾の手柄ともなった。
ただし文聘が華琳ちゃんからの圧力に屈してトラブルがあったわけでもなく、チャンスであったわけでもないのに作戦を強引に変更したそうじゃ……華琳ちゃん、もうちょっと自重して欲しいぞ。まぁ覇王様に何を言っても通じんじゃろうが。
そこまでして張角達の首は劉備軍に取られたのは哀れではあるがの。と言うか関羽がおるより活躍しておらんか?もしや劉備軍にとって関羽は有能過ぎて甘えとなっておったのかもしれん。
それはともかく、華琳ちゃんは作戦を無断で変更したことにより少し功績を控えねばならんな。
皇甫嵩の爺ちゃんに謝罪の手紙とそれ相応の対価を用意せねば……朱儁ばあちゃんにも当然出すとして、袁紹ざまぁは作戦を無視しておる上にろくな戦果をあげておらぬから厳重に抗議じゃな。
「ハァ、実際のところ戦争などより戦争が終わった後の方が大変なんじゃよなぁ。褒美の差で嫉妬を受けたりするからのぉ」
「そうですねー。分不相応な功績を手に入れた劉備さんとか私達以上に大変なことになりそうです」
うむ、袁紹ざまぁを筆頭として他の豪族達の嫉妬を一身に背負うことになるじゃろうな。
もし原作通り平原あたりを任せられたりすると周りから総スカンを喰らう可能性が高いのじゃ。
まぁ今回の功績を考えれば平原程度では全然足りぬが……まさかとは思うが空位である青州牧をやるわけにもいかんじゃろうなぁ。仮想戦記的にはちょっと面白そうではあるが、さすがに太守でしかない吾の手で州牧の椅子は無理じゃな。
華琳ちゃんは州牧とわかりやすい望みがあるから問題ないんじゃが、劉備の扱いが困るのぉ。
うーむ……おお、そうじゃ。いい案が思いついたぞ。
うむうむ、早速手配せねばならぬな。