第七十五話
皇甫嵩爺ちゃんへ手紙を送ったら翌々日には返信が来た……さすが特急便、速いの〜。これが吾と魯粛の商会の力じゃ。
さて、手紙の内容じゃが……ふむ、お礼は拘束されておる盧植の解放か、お安いご用じゃな。むしろ安すぎるぞ。追加でお気に入りの蜂蜜を贈っておくのじゃ。
む?就職の手伝いも?良いぞ良いぞ。吾が雇うぞ。宦官に睨まれた存在を雇ってくれるところは少ないからの〜、仕方ないのぉ〜。
「お嬢様、どうしたのですか。随分ご機嫌なようですが」
「むふふふふ……有力な新たな同僚(書類地獄の友)ができるようじゃぞ!」
「それはおめでとうございます」(これで私の仕事も減る!)
孫権が何やら暗い笑顔を浮かべておる。だいぶ染まってきたか?
む、よく見れば朱儁ばあちゃんの署名も入っておるではないか、これは皇甫嵩爺ちゃんと朱儁ばあちゃんとの繋がり強化に役に立ちそうじゃ。ガッチリ掴んで逃さぬぞ。
まぁ元々盧植は狙っておったがな。これでほぼ確実にこちらに引き込めそうじゃ。
……ん?ちょっと待つのじゃ。
そういえば盧植は劉備と公孫賛の師じゃったな。もしや他の名士にも顔が利くのではないか?!
一番の心配は宦官に賄賂を贈らぬほど頑固者なのか潔癖症なのか宦官が気に食わぬだけなのかはわからぬが、吾等と相性が良いかどうかじゃな。
吾等はどちらかと言えば宦官に近い存在と言うのが世間一般の認識じゃ。しこたま貢いでおるからそう思われても仕方ないがの。
そのあたりは実際会ってみんことにはわからぬが……とりあえず蜂蜜で歓迎じゃな。
「ところでお嬢様。公孫賛様の報酬の話が出ていませんが」
「……わ、忘れておったわけじゃないぞ!あやつには幽州を任せるのは決めておったからの!本当じゃぞ!」
なんじゃその生暖かい目は、吾の言葉を信じれぬとでも言うのか!?……すまん、忘れとった。
いや、本当に申し訳ない。しかし今回の功績は州牧になるにはちと足りぬか、袁紹ざまぁの台頭を抑えるためできれば軍権が欲しかったが刺史で勘弁してもらうしかないかのぉ。
もっとも烏桓との諍いがある地じゃから武功をあげるには事欠かんから州牧への道も遠くないじゃろう。なぜか内政も上手く行っておるようじゃし。
「それにしても……戦争とは金が掛かるの〜」
「多分だけど、私達の軍ぐらいよ。この軍費の額は」
「ですねー。ちなみに劉表さんのところの遠征費はこんな感じですよ」
…………なんじゃこれは…………十分の一以下ではないか?!
なぜこれほどの差が?!
「まずは弩と矢玉よね」
そのおかげで討伐軍の被害は二千に届かない被害しかないという驚きの成果を叩きだした。
金なんぞで命の代用が聞くなら惜しくはないが。
「それに他の軍なら主食となる穀物類を配給する程度なのに主菜と副菜まで配給することになってますからねー。ちょっと兵士達に甘々過ぎる気がしますよー」
む、確かに兵糧の費用が凄いことになっておるな。しかし、食事の質は士気に関わるからのぉ。
……と言うか他の軍は握り飯や乾飯や粟や稗とかだけなのかや?いやいや、さすがに無理があるじゃろ。
「ご飯のおともは大体自己負担ですよ。後は野草などを採って湯がいて汁物を作るぐらいですから」
「一応道中に動物を見かけたら狩って肉が出ることもあるそうですが人数が人数なので微々たる量らしいです」
なんというか……他の軍の兵士は士気が低そうじゃなぁ。
「そしてこれらの物を運ぶのに必要な人員と馬、荷車などを用意するだけでこれだけ掛かってますからね!」
と言って孫権が吾に資料を見せてくるが……うむ、これだけで他の軍の軍費を超えるとは……随分無駄遣いしておるように見えるの。
「だが、止める予定はないのじゃ。兵士は吾等の代わりに戦ってくれる謂わば分身じゃからな。兵士が死ねば死ぬほど吾等の寿命が削られると心得よ」
昔の人は言った。
人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、仇は敵なり、武田信玄公は良い事言ったのじゃ……あ、この時代からだと未来じゃった?!
「人で城とか石垣を作るなんてお嬢様はなかなかの悪道で悪趣味ですねー。よっ、天下一の悪女!妲己も真っ青です!」
「フッハッハッハ、もっと褒めて——って今回に限っては訂正するぞ!さすがにそこまで非道なことはせんぞ?!」
さすがにこれを真に受けられると困るので訂正しておく。
決して民を肉壁として利用するという意味の言葉ではないぞ!……まぁ七乃もわかった上で吾を虐めておるのじゃろうが……わかっておるよな?おい、目を逸らすでない。
まぁ、本当のところは人は城、金は石垣、兵糧(蜂蜜)は堀、賄賂で味方、仇は敵なりと言った方がいいかもじゃが。
「そういえば、私達の褒美ってどうなるんでしょうね。全く話に出ませんでしたけど」
「……」
すっかり忘れておった。
うーむ……ぶっちゃけ南陽から移されると褒美どころか嫌がらせでしかないし、大抵の物は手に入る吾に物品の褒美というのは微妙過ぎる……となると官職あたりが妥当か?しかしなぁ、役職なんぞ金で買えるのじゃから微妙過ぎるじゃろ。
実際、吾が本気ならなら三公の席すらも手に入れるのは難しくないからの。もっとも嫉妬やゴマすりされるのが面倒じゃからなる気はないがな。
さて、本当にどうしたものか。
「おお、華琳ちゃん久しぶりなのじゃ」
「本当に久しぶりね。色々言いたいことがあるし、色々ぶつけたいこともあるけど今は自重しておくわ」
おおぅ、なぜか最初からクライマックスの予感がするのじゃ。
「何を言っておる。むしろ吾がおぬしに言いたいことがあるわ」
「あら、売られた喧嘩は買うわよ?ただし覚悟しなさいよ」
む、無論じゃ((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル
今、吾等がおるのは漢の首都である洛陽じゃ。
黄巾の乱は首謀者を討ったということで終息したということになっておる。実際は地方によっては黄巾賊が存在するが、朝廷の発表では終息したということになったのじゃ。
無理矢理過ぎる気もするがいつものことなので吾は当然として民衆すら気にしない……もう末期じゃな。
ちなみに天和達の答えを聞く期限は今日であったが、こちらの用事の方が優先じゃから先延ばしにしてやったのじゃ。
正直どうでも良いから後回しにしただけなんじゃがな。
「さて、文聘、関羽、程立よ。ご苦労じゃったな」
「労いの言葉ありがとうございます」
代表して文聘が応え、関羽達も揃って頭を下げる。
うむ、珍しく吾がちゃんと上司っぽいの。
「こう見ると貴女もちゃんと太守しているのね」
「ハッハッハ、何を言っておる。吾はいつでも立派な太守であるぞ!」
「はいはい」
「む、全然信じておらんな」
「ええ」
「即答しよった?!」
(曹操殿……楽しそうだな。私や文聘殿を誘っている時以上に)
(ですねー。まるで夏侯姉妹と一緒にいる時みたいです)
(本当に曹操殿と友達のようですね。意外です)
「そういえば華琳ちゃん。一応確認じゃが褒美は州牧の座で良いよな。むしろ他は断るぞ」
「あら、もう一州ぐらいくれてもいいんじゃない」
「ぼり過ぎじゃろ。春秋ちゃんに将軍位でどうじゃ」
「仕方ないわね。それで誤魔化されてあげるわ」
「いやいや、これでもかなり譲歩したからの?!おぬしが勝手に作戦を変えてどれだけ魯粛が大変な思いをしたかわかっておるかや」
「そこはあくまで魯粛なのね」
「当然じゃろ。吾は蜂蜜を食べるのが仕事じゃ……なんじゃったら将軍位ではなく蜂み——」
「将軍位でいいわ」
それほど食い気味に言わんでもいいじゃろうに。