第七十八話
「まぁそういうことならゆっくり食事を続けるが良いぞ」
というか話しておる最中にもかかわらず食事をチラチラ見るぐらいに腹が減っておる者に待てをするのは心苦しいのじゃ。
吾の言葉を聞いてどうしようか悩んだ挙句、言った通りに食事を再開する……うむ、張飛は本当にあの小さい体で一体何処にあれほどの量が入るのか、ギャルな曽根さんの親戚じゃろうか。
さて、そんなくだらんことは置いておくとして、これから吾はどういう対応をすべきじゃろうなぁ。
以前気になって調べさせた劉備がなぜ吾ではなく、華琳ちゃんを頼ったのかという疑問は既に解決しておる。
どうやら諸葛亮と鳳統の二人は吾と魯粛に借りを作ると取り立てが厳しそうで、華琳ちゃんならそのプライドの高さで無償で援助が受けられると踏んだそうな……うむ、間違いではないぞ。吾等に頼ればそれ相応の利息を付けて貸すからのぉ。
ちなみに踏み倒そうとするなら地の果てまで追いかけるぞ……甘寧と周泰が。
そういう意味では華琳ちゃんはチョロい部類に入るか、次点で袁紹ざまぁあたりもチョロいがこちらは最初に誰とコンタクトを取るかによって難易度が変わりそうじゃ。田豊や沮授の堅物系じゃと無理ゲーっぽい……いや、逆に劉備達の才に気づき利用するかもしれぬか。
何にしてもこやつらに協力する義理はないが、いい加減南荊州も安定して欲しいという思いもあるのじゃが、劉表のじじいとは趙雲と張飛が因縁があるゆえ協力も難しいやもしれん……というか劉備の身体は劉表のじじいが好きそうじゃよなぁ。
ただ、劉表のじじいは活発で強い女の心を折ることが好きじゃから劉備は若干好みから外れ……いや心は強いから守備範囲内か?
間違いなく協力(肉欲)になるから無理じゃと思う。……ああ、同姓同士は一応禁忌であったはず……うん、でもあのメロンを前にその程度の道徳や禁忌など消し飛びそうじゃな。
……うん、ところで先ほどから華琳ちゃんが怖い顔で料理人を淡々と説教しながらも劉備の胸をチラチラと殺意が籠もった視線が飛んできておる。
嫉妬乙じゃ。
劉備と吾が協力する……なんてことはあるのかのぉ?
とりあえず……頼まれればいくらか助けてやるとするか、当然無償ではないがな。
「ところでそこのちびっこいのの紹介はないのかや」
「ちびっっこい?!」
「おまゆう……です」
おう、案外鳳統は辛口じゃのぉ。ほぼほぼ聞こえんぐらいの小声であったが吾にはしっかり聞こえた。ふっふっふ吾は十人ぐらいなら同時に話しかけられても聞き分けることができるのじゃ……いや、冗談じゃぞ?
「諸葛亮孔明でしゅ」
「鳳統士元でしゅ」
…………吾に怒ってすっごい投げやりに名乗っておるところでなぜ最後に噛むのじゃ?まぁ、萌え要素じゃから仕方ないか、実際二人は恥ずかしさを隠すように顔を背けておる。
まぁ良いがの。
しかし改めて思うが、こんな二人が伏龍鳳雛と呼ばれるほどのチート級の知を持つとは原作や史実を知らねば絶対に思わんな。
「劉備達はこれから大変そうじゃの〜。南荊州はまだ反乱中と聞くし、何より四郡も治めるとなると人材確保も大変じゃろうな」
人材不足の苦労はよく……本当によく知っておるぞ。
劉備達は知らぬのじゃ。戦争(非日常)などより平和(日常)の方が大変なことを……度を超えた賄賂の横行、書類が人に渡っていく度に減っていく数字、少し監視を緩めれば経費として酒と女、装飾品などを混ぜてくる者などなど……本当に大変じゃぞ。
ちなみに最後の例に孫策と黄蓋が含まれておるのは言わずもがな、かの。
「ええ、ですから荊州で人を集めようと思ってましゅ。……あうぅ」
「むむ……それはあまりお勧めできんのぉ。いや、邪魔をするつもりはないが荊州に出仕しておらん有能な人材のほとんどは劉表のじじいの誘いを断った者達じゃ。その者達の勧誘するとなると……」
「劉表様が不快に思われる可能性があるということですか」
「それに劉表様は先日南荊州の鎮圧に向かったと聞いてましゅ。私達が無事鎮圧することができたとしても……」
「顔に泥を塗られるということになってしまう、と」
正解なのじゃ。頭が良い者と話すのは楽で良いの。
更に付け加えれば同姓ということもあり、劉表のじじいも意識するじゃろう。劉焉にも随分対抗意識を持っておると聞いておるから間違いなかろう。
劉焉は政争に疲れて独裁国家を目指して益州の州牧になったやつじゃから劉表のじじいなんて眼中にないのじゃが、人の心というのは難しいものじゃのぉ。
「一応先に言っておくが吾は紹介できんぞ。魯粛が人が足らん人が足らんと言っておるからの。他人に紹介する前にこちらが勧誘するのじゃ」
「……そうですか、残念です」
「そういえば桃香様の先生が投獄されていると——」
「あ、盧植なら吾が雇うことが決まっておるぞ」
あ、危なかったのじゃ。
皇甫嵩爺ちゃんと朱儁ばあちゃんの依頼がなかったら劉備達に引きぬかれておった可能性大であったな。
盧植とはもう契約してあるから逃げられる心配はないはずじゃ。フハハハハ、書類地獄にWelcomeなのじゃ!
「「え?盧植先生を?」」
さっきまでガツガツのチャーハンを口に放り込んでおった劉備と空気を読んでか自然体かわからんが気配を殺しておった公孫賛(自然体です)が反応したのじゃ。
「うむ、皇甫嵩の爺ちゃんと朱儁ばあちゃんから頼まれたからのぉ」
(先ほどから思ってたんですけど……劉表様をじじいと呼んだり、皇甫嵩将軍を爺ちゃんとか朱儁将軍をばあちゃんと呼ぶとは……袁術さんは思ったより大物なのかもしれません)
(盧植さんを取られたとなるとそのお弟子さんも難しいかも)
ふむ、伏龍と鳳雛は知は立派でも経験が足りんのぉ。表情を隠すことができておらんぞ。
それとも吾を軽く見ておるのかや?
もしそうなら演技が成功しておるということじゃから嬉しいのじゃがな。
「あ、そうだ。袁術……呼び捨てでいいか?」
「うむ、良いぞ。吾も呼び捨てにさせてもらうからの」
「ああ、かまわないよ。それで……この前の贈り物ありがとな。あれで有能な文官が増えたんだ!念願の文官だぞ!」
謎は全て解けた!!衝撃の新事実!公孫賛が黄巾の乱に参加することができたのは吾のおかげのようじゃ!
「本当に助かった。恩返ししたいんだけど私が袁術にやれることなんてなかなかないんだよなぁ……」
「いや、気にせんで良いぞ。袁紹ざm……袁紹の隣じゃと色々と大変じゃろ?」
「まだ黄巾賊と戦ってたからわからないんだけど、董昭の言うには富が吸い上げられているって話だったな」
やはりか、黄金律は袁紹ざまぁにも備わっておるようじゃな。まぁ黄金律だけでなく、優秀な文官も多く揃っておるからのぉ。
しばらくすれば腐敗した奴らが湧いて出てくるじゃろうから足を引っ張ってくれるとは思うが。
……と言うか董昭?!めっちゃ有能な奴が仲間になっておる?!もしやこれは公孫賛が輝ける可能性が微レ存?!
……ないか。
「そうじゃ、おぬしのところは馬が名産じゃよな?馬なら買うぞ」
「お、それなら……ああ、でも騎馬として使えるのはあまり多くないんだよなぁ」
「騎馬に使えぬものでも良いぞ。値段は多少下がるが労働力として期待できる馬も欲しいのじゃ」
「おお、それなら——」
「しかしどうやって運ぶつもりですか?随分距離がありますよ?」
と諸葛亮が横から問題点を指摘してくるが無問題。
「大丈夫じゃ。輸送といえば水運じゃろ」
長江を下って海に出て北上すれば問題無いじゃろ。
道中は既に吾自身と商会の影響下じゃ。
「そんな大規模な交易が、可能なのですか」
「うむ、魯粛に話せば今年中には目処が立つじゃろ」
何やら諸葛亮と鳳統の吾を見る目がおかしいが、どうしたのじゃ?