第八十三話
荊州刺史になって何が変わったのか。
それは……面倒なゴミクズが寄ってくるようになった程度の違いしかない。
一応給金や権力が多くなったし拡大しておるんじゃが、それは公に認められたというだけで今まで勝手にやってきたことがほとんどじゃから改めて何かを得たかと言われればないと答えるの。
ゴミクズ共が仕官に来るんじゃが、本当にろくでもない者が多いのじゃ。以前から言っておるように南陽は首都である洛陽に近く、長安に次ぐ要衝……今となっては凌ぐ要衝じゃ。
そんなところに若くして刺史となった小娘(偽)は格好の獲物じゃろう。吾でもそう思う。
魯粛達が対応してくれておるから吾が直接被害を受けることはないのが唯一の救いじゃな。間接的には仕事を増やされておるがの……ちょっと殺しても問題ないかや?
「ふむふむ、孫権の方は順調なようじゃな。そして孫策達がもうすぐ帰還予定っと……また騒がしくなるのぉ」
盧植先生達の加入で客将でしかない周瑜の価値は低下しておるから孫策達が帰って来て問題を起こされるというデメリットの方が目立ってしまうことになってしもうたな。
周瑜は家臣の家臣である陪臣より立場が低い、客将の陪臣じゃからのぉ。任せる仕事はだいぶ少なくなってきたのじゃ。
いっそこのまま袁遺のところにおらせた方は平和かもしれ……ああ、駄目じゃな。袁遺のところに残してはどんな暴走するかわからんか。
吾や魯粛という恩の重しと現実という壁があるから孫策達は自重しておるが、袁遺ではその両方がなく、そして周瑜や黄蓋の実家の近くということもあるし、基盤をじっくり築き、容易くハードルを越えるじゃろう。
そうすれば孫堅の死という混乱に乗じて追われた揚州を奪還することは可能じゃ。……運営できるとは言っておらんがな。経済基盤が既に半ば以上商会に依存しておる状況じゃからの。
ただ、孫策達を滅ぼす、揚州を改めて手に入れるなどといった面倒な手順が多過ぎる。面倒は少ない方がいいのじゃ。
「うーむ、孫家の扱いは本当に難しいのぉ……孫堅の忘れ形見でなかったら孫権を除いて全て始末するところじゃな」
もっとも暗殺しようとすると原作キャラパワーで逆襲されかねんから孫家の者達をバラバラに引き離すぐらいしか対策は思いつかんがな。
唯一の救いは甘寧と周泰という呂布に並ぶチートを引き入れることができたことじゃ。この二人が敵に回れば情報筒抜けで暗殺を警戒して紀霊を常時吾に張り付けておかねばならなくなるからの。
本当に運が良かったのじゃ……甘寧は孫権志望じゃからまだ若干不安があるが……孫権は多分大丈夫じゃ……そのはずじゃ……関羽ぇ。
「袁術様!小次郎様のお散歩終了しました!」
「うむ、いつも頼んですまんのぉ。周泰」
「いえ、小次郎様とご一緒できるだけで幸せです」
周泰の顔がほにゃんっと緩むのを見て吾も心が安らぐ。
やはり周泰は癒やし枠じゃなぁ。
ちなみに魯粛はお父さん枠(日頃は甘いが締めるところは締める)で七乃はお母さん枠(ただただ甘く、いざという時は隙のないモンペアっぽい)、孫権は妹枠(本人が聞くと異議を申し立てるの間違いなし)、紀霊は……そのまま使用人じゃな。甘寧は小姑かのぉ。
それはともかく、小次郎の世話ができる者が増えてよかったのじゃ。どうもあやつは扱いが難しくて吾と紀霊と魯粛ぐらいにしか懐かぬために世話が大変じゃった……使用人に任せると世話自体は出来ぬこともないがじゃれつきという死闘が勃発するから大変なんじゃよ。
その点、お猫様と奉っているからなのか周泰には寛容なんじゃよなぁ。虎なのに猫扱いされて怒らぬのも不思議なんじゃが……まぁこれだけ慕われておれば虎も猫になるかもしれん。
……ただ、この世界って元々エロゲーなんじゃよなぁ。周泰と小次郎……うん、恋姫にない展開が待ってそうなんて思ってないぞ?
「ところで周泰、劉備達を見てどう思った」
「そうですね……大したことない、でしょうか」
おや?吾の期待しておった返事と違うのじゃ。どういうことじゃ?
「もちろん劉備さんの徳の高さ、趙雲さんや張飛さんの武人として、将としても一流です。正しく英雄と言えると思いますし、孔明さんと鳳統さんはちょっと測りかねますが恐らく伏竜鳳雛の評価は伊達じゃないと思います」
うむうむ、そのあたりは魯粛と同じ評価じゃな。
個人的には劉備は徳が高いんじゃなくて欺術じゃと思うんじゃがのぉ。
「しかし、それはあくまで今の規模なら、です。これから拡大していくならまず規律が足らず、文官が足らず、お金が足りません」
ふむ、文官と金は魯粛も思っておったことじゃが、規律か……盲点じゃったな。
言われてみれば劉備、張飛、趙雲、諸葛亮、鳳統……規律に無頓着そうな前者三人に風紀を乱す趣味の後者二人……まぁ後者二人はひた隠ししておるから問題無いにしても、前者三人はゆるゆるそうじゃからのぉ。
一番規律を必要としておる軍がそれでは規模が大きくなった時にどうなることやら……盗賊にならなければ良いが。
ああ、でもこれからは関羽がおるし大丈夫か。吾の下での経験も活かされることじゃろう。
「それに伏龍鳳雛の御二人は私が言うのもなんですけど、能力はともかく性格が政治家としてはちょっと問題があるかと」
まぁ孔明は微妙じゃが鳳統は向いておらんじゃろうなぁ。
孔明はまだいざという時には陣頭指揮を執るぐらいの度胸があるが、鳳統の引っ込み思案な性格では難しかろう。
吾のように同人誌でも描いて過ごせばいいものを……あ、そうなるとBLが流行る可能性があるのじゃ?!今のままでいいかもしれん。
「なるほど、さすが影次期筆頭じゃ。これからもたまに様子を見てきてもらうから頼むぞ」
「おまかせを!」