第八十四話
張燕と劉辟から手紙が届いたのじゃ。
劉辟はいつの間にか周倉と共に劉備傘下に組み込まれたようじゃ。
勧誘した黄巾党の中で一大勢力を築いておる張燕は乱の終息によって大勢での移動が困難になることから行きたくても行けぬとのこと、ただの言い訳かとも思ったが調べてみるとやっと意思統一がなされて、南陽に向けて旅支度をしている最中に終息してしまったようじゃ。
引き入れれぬことは残念じゃが、だからと言ってじゃあ知らぬと放り出すのも気が引けるので公孫賛を紹介したのじゃ。
史実でも公孫賛と張燕はタッグを組んで袁紹と戦っておるし、相性は悪くないはず。
「というわけで公孫賛を援助することに決めたのじゃ」
「悪くない手だと思います。公孫賛様は騙しやす——利用しやす——素直な方なようですし、袁術様も気に入っていらっしゃるようですし」
魯粛の公孫賛への評価が透けて見えるのぉ。
「公孫賛さんは(都合が)いい人ですよねー。それに何よりちょっと扱いが軽い気もしますけど、それでもお嬢様に気を使っている点がいいですね!」
言われてみれば今でこそ親友の華琳ちゃんですら最初は吾を世間知らずのちんちくりんだと思っておったからのぉ。
そういう意味では公孫賛はあまり面識がない吾を少なくとも対等には見てくれたわけじゃ。名家出身としては侮辱に近いが吾は気にせん。
やはり贈り物攻勢は偉大なのじゃろうか?
「何が。というわけで、なのかわからないけど、私も異論はないわ」
そう言ったのは名前だけ出ておったが今回正式に初登場、荀攸じゃな。
名前から察する通る荀彧の親族じゃが少し遠い繋がりらしい……まぁ本人達はお互いの才能を意識しつつも仲が良い……というのは荀攸の弁じゃが若干怪しいと思っておる。
その理由が荀彧とはある意味真逆の方向に行っておるからじゃ。
荀攸が吾の開発した猫耳を装備しておる以上、原作と違わなければ荀彧とお揃いではある。そして身長はそう変わらぬ……しかしそのスタイルに違いがある。
胸部装甲が豊かとは言わんが普通のサイズぐらいにはあるのじゃ。そして一番の違いは……服装と性癖じゃ。なんと荀攸は外套(マント)とほとんど重要なところを最小限……いや、最小限すら怪しいほどの生地しか存在しないマイクロ水着という孫家をも上回る露出度じゃ。
その見かけ相応に荀彧とは真逆の男大好きビッチじゃ。実際、既に兵士の多くが食われておると被害?報告を受けておる。
ちなみにじゃが外套は肌が焼けないための日除けとのことじゃ。
そんな荀攸じゃが甘寧と周泰とは相性が最悪で、甘寧はその真面目さと孫権への悪影響を考え不埒者めと自分の褌を棚上げして軽蔑し、周泰は見るだけで顔を真赤にして身体能力をフルに活かして逃亡するのじゃ。
甘寧はまだ軽蔑はするが仕事は別と割りきって行動してくれるから良いのじゃが、周泰は絶対捕まえれぬから仕事がある時はめっちゃ困るのじゃ。早く慣れてくれることを期待するぞ。
吾?吾は全然平気なのじゃ。男の娘の悟りというのがあって、一々女子の魅力に惑わされておったら男の娘を名乗れんのじゃ。
だって周りに知られておらん男の娘じゃぞ?女子の無防備な姿とか結構一杯見ておるんじゃぞ?それに反応しておったら男の娘失格じゃ。
それにしても……荀彧が男嫌いで荀攸は男好きとは……なんとも因果な家じゃのぉ。
「異論はないけど……この計上されてる数字、間違ってないわよね。それとも朝廷への貢物と間違ってないじゃないの」
「荀攸さんもこっちに来てまだ短いですけどそろそろ慣れた方がいいですよー。その程度の端金でそんなに驚かれてもお嬢様が困っちゃいます」
いや、別に困らんが一々予算の額で驚かれるとマンネリ気味なんじゃよ。
そんなのは孫家の皆さんが既にやってくれておるからの。それに雇った文官も大体は同じようなことをいうからのぉ。
張燕が率いる勢力は非戦闘員込みで八万、これがまだ刺史に任命されて間もない公孫賛に養える能力があるかと考えれば……あるわけがないのじゃ。
そもそも幽州は海運で栄えている場所もあるが基本はど田舎じゃ。食料も足りなければ仕事も足らぬし治安の問題もある。そしてそれを支えようとするならばそれ相応の資金と物資が必要になるのは当然じゃな。
「それに日頃からこの程度の額は扱っているはずですよ」
「それは投資の話よ。南陽に使えば自然と帰ってくるけど今回のような効果が明確にあるかわからない外交に使うのとはわけが違うわ」
言いたいことはわからんでもないが……荀攸は裏商会の存在を知らぬから仕方なかろうな。
他州、他郡に投資を行い、裏商会を浸透させ、物流を握ることで経済を操る。表商会ほど公に力を使えば存在が気づかれるじゃろうからほどほどにしか使えぬが投資するには十分じゃろう。
まぁ裏商会の存在を知っておるのは孫権を除く幹部だけじゃからな。
おかげで文官が増えても仕事は一定量から全く減らぬがな。
「ちなみにこれは決定事項じゃからな!後は頼んだのじゃ!」
と表向きは吾の我が儘を通して、皆に丸投げ。
裏では、あー、また仕事がふえるのじゃ〜。という感じかのぉ。
自分で決めたことじゃから仕方ないのじゃが……袁紹ざまぁの牽制役に使えることを期待するのじゃ。
まぁ、思った以上に公孫賛がいい人じゃったからちょっと手助けしてやりたいと思ったのも大いにあるがな。
そういえば黄巾党の勧誘は吾が知る者の中では後は韓暹のみとなったが……さて、どうなるじゃろうな。
近いうちに答えが聞けるじゃろう。
そういえば史実と随分違う流れになるのではないかと思うところがある。
そもそも恋姫だから、という点はスルーじゃ。
史実では黄巾の乱の被害にあったことで多くの民が荊州、もしくは更に南を目指したという。
その移民、もしくは難民の中にいたのが当時幼かった諸葛亮孔明じゃな。
もっともそれがトラウマで引きこもっておった孔明は、この世界では既に劉備に仕えておるがな。
そんな差異があろうと、移民、難民が発生するおおまかな流れは変わらぬのじゃが、この世界では荊州は荊州でも南陽に多くの難民が避難しておる……いや、現在進行形で増えておる。
まぁ何が言いたいかというと……難民達に仕事を増やしたら吾等の仕事もまた増えたということじゃ。
「なんで毎日千人人口が増えてるのじゃ。いくら金回りが良くてもこれでは食料が持たぬ」
「今行っている河川港の改修が終われば一応少し回復しますけど……」
そんなもの焼け石に水じゃろ。
むしろ川魚が絶滅せんか心配じゃ……規制したいところじゃが、こういうのはトラブルの元なんじゃよなぁ。利権問題は難しいのじゃ。
そもそも根本的な問題は大陸全土の食糧難じゃ。
黄巾の乱で多くの農地が放棄されたからのぉ……ふむ、裏商会を通じて農地を、より正確にはプランテーションでも作るか。
今なら安い労働力は腐るほどおるし、この食糧難は来年以降も続くじゃろうから良い策かもしれん。
問題があるとすればプランテーションという概念が無いため、農地だと勘違いして所有権を主張されたら面倒じゃ。
……あまり気が進まんが、やはりプランテーションらしく難民ではなく奴隷を送り込むしかないか?