第八十六話
孫策達が帰ってきた。
テキトーに挨拶してテキトーにあしらったらクレームしてきたのじゃ。
どうやら褒美に不満があるそうじゃ。まぁ県令や太守にしてやるという約束であったからわからんではないが……それは吾が決めた条件をクリアしたらの話じゃとも言ったはずなんじゃと反論すると……
「じゃあその条件を教えなさいよ!でないと納得いかないわ!」
気持ちはわかるが……派遣先でトラブル(豪族達を煽ったこと)を忘れておるんではなかろうか。
それを抜きにしても条件を満たしておらんというに。
「難しいことは知らん!魯粛に聞いてたも」
伝家の宝刀魯粛に丸投げ、を発動。
大体吾に文句を言ってくる者はこれを発動させれば口を閉ざす。
それは孫策も例外ではなく、黙らせることに成功したのじゃ。
条件を知り、孫策の味方(のはず)である孫権がおればもう少し簡単に説得できたのじゃが、あいにく孫権は長安じゃからどうしようもない。
史実のように孫策達に報酬の未払いをしておるわけではないのじゃが……結果的にそうなった気がせんでもない。
まさか修正力とは本当にあるのじゃろうか。もしや関羽が劉備に付いて行ったことも……いや、考えても仕方ないことだから気にせぬが一番か。
そういえば中央で働いておった荀攸から聞いた話しなんじゃが、吾は中央にあまり関心がなく、勅命や宦官の人脈にしか興味がなかったから知らなかったが、思っていた以上に何進と十常侍の力関係は差がないらしい。
というのも、どうやらこれも吾のせいっぽいのじゃ。
十常侍が吾の用意した商品を買うのに散財に次ぐ散財で影響力が落ち、その隙に何進が基盤を作ったようじゃ。
それによって何進は十常侍に対抗するだけの力を手に入れておるそうじゃ。
……史実の何進暗殺フラグが立っただけのようにしか思えぬのじゃが、それは置いておく。
問題なのは何進派とも言える勢力の筆頭が袁紹ざまぁ、十常侍派の筆頭が袁術……つまり吾ということになっておるそうじゃ。
いやいや、吾は十常侍に力を貸したことなんてほとんどないぞ。基本的に金と利権の関係でしかないのに酷い風評被害じゃ。
ん?そういえば荀攸は確か何進派……というかそもそも盧植先生は何進派だったような……なぜ吾のところに来たんじゃろ。
「そこんところどうなんじゃ?」
「それはね……これよ」
荀攸は自身の頭を指してそう言ったが……
「?……猫耳がどうしたのじゃ?」
「これ、あなたが作ったんでしょ」
「うむ、そうじゃよ。ん?これは……良くてに入ったの。十着限定最高級猫耳ではないか」
「もう惚れ惚れするぐらい美しい猫耳よ!私が求めていたのはこれだ!って叫んだわ」
……え、もしかしてそれが仕官した理由なのかや?
「そうよ。あ、そうそう、ちょっと笑える話があるのよ。私の従姉妹に荀彧って娘がいるんだけど、あの娘も同じ猫耳を付けているんだけど、これを作った人に是非にも仕えたい!って仕官したんだけど……何をどう間違ったのか袁は袁でも袁紹に仕えちゃったのよ。すぐ辞めちゃったようだけど」
間抜けよねー。と大笑いしておるが……笑えぬ。笑えぬぞ。
荀彧!なにやっとるんじゃ!おぬしが来てくれたなら……来てくれたなら……全国で不遇扱いされておる男性官僚を引き抜いてきておるから大変なことになったじゃろうなぁ。
あの性格ではさすがに使いづらくて仕方ないのじゃ。
いや、金だけは腐るほどあるから官僚達の職場を男女別にすればいいだけか?しかし男は不遇な扱いを受けて結局他と変わらぬようになってそうじゃな。
しかし……悔やまれるのじゃ。なぜ、なぜ荀彧は……荀彧の阿呆ーーー!
「……やはりか」
劉備達が長沙を制圧したとの知らせが来た。
恐らく蒋苑の手配じゃろう。
どうやら鎮圧は早く出来そうじゃな。
戦いの流れ的には盗賊&黄巾賊が籠城すると略奪されて自分達の取り分が減るため野戦を挑む、野戦で劉備達に敗北して撤退、城に帰ろうとしたら城壁には劉の文字が書かれた旗が立っていた。こんな感じじゃの。
趙雲や張飛、もちろん関羽も活躍したそうじゃ。
ただ、関羽の近くに潜ませておる影の報告では随分と兵士達に悪戦苦闘したようじゃな。
やはり練度、士気、装備の違いにかなり戸惑っておったそうじゃ。
行軍速度、命令されてからの反応速度、錆びついた剣や農具である青銅の鎌、獣の皮を重ねただけや普段着などの戦うための装備かと疑問になる装備、自分達より多い敵にビビって逃げ出しそうな士気の低さなどなど、苦労は絶えぬようじゃ。
義勇軍などその程度だと言われればそれまでじゃろうがな。
むしろ黄巾党で、つい最近まで官軍と戦っておった劉辟、周倉が率いる部隊が精鋭というなんとも言えぬじゃろうなぁ。
しかも陣形が保てるほどの練度も士気もバラバラであるため、勢いだけで戦うような不格好な戦いしかしていないようじゃ。
ただし、このような戦いにおいては関羽のような個人の武というのはなかなか役に立つようじゃ……活躍できて嬉しそうじゃとも報告があった。
……活躍の場を与えてやれなかったからいけなかったのじゃろうか、しかしそのようなことのために吾の兵士を危険にさらすことは認めれぬし……やはり必然じゃったんだろうなぁ。
「おっと、いつまでも感傷に浸っておる場合ではないな」
劉備が長沙と零陵を手に入れたことによって吾が手に入る情報量が増えた。
今まで拠点にしておった江夏は荊州の南の要衝であったため既得権益がガッチガチであったため軽くしか食い込めておらぬ。
それに対して長沙や零陵はど田舎であるため、それはもうやりたい放題しておるぞ。その一つが人身売買じゃな。
さて、将来のライバルとなる可能性が高い劉備達の情報は入念にチェックしておかんとな。
まぁ危険度で言うと断然華琳ちゃんの方が上なんじゃが、華琳ちゃんのところには最初に送った裏商会が随分大きくなっておるから情報には事欠かないからのぉ。
華琳ちゃんの最近の動向は人材漁りじゃな。
急に州牧となった華琳ちゃんは人材不足に陥っておる……って黄巾の乱に参加した者は大体そうじゃな。
公孫賛もあっちこっち声を掛けておるしの。
ただ、その人材漁りの多くは袁紹ざまぁ、華琳ちゃん、公孫賛がバッティングしてしまうようでトラブルも絶えんようじゃがな。
その点劉備は劉表のじじいの取り零しを拾うだけなのでバッティング自体はないの……劉表のじじいが沸々と怒りを蓄積しておるそうじゃがな。
まぁ自分に靡かなかった者が同じ劉家とは言ってもどこの馬の骨ともわからない者に取られていくのはプライドが高いじじいには耐えられん屈辱じゃろうな。
馬良と馬謖の仲介によって多くの荊州で隠棲していた名士が劉備と接触しておるようじゃし……これでは劉備が反董卓連合に参加するのは不可能じゃろ。どう考えても道中である劉表のじじいと戦うのが先になるのぉ。