第八十七話
「異民族の侵攻はやっと終わったかや」
「結局孫権さんの出番がなかったようですが、予定外のことは無い方がいいでしょうね」
涼州で決戦があり、見事官軍が勝利を飾ったのじゃ。
これで平和が戻って……来るかどうかは怪しい。
なぜなら涼州では中央と吾等に対する不満が溜まっておるからじゃ。
中央は一番厳しい時期に何もせず、おいしいところだけを掻っ攫った形となり、吾等は食料の輸出を制限したということが民にまで知られており、食い物の怨みは怖いというがこれほど実感できたことはない。飢えている人間に事情や理由などというものは通じぬことを改めて思い知ったのじゃ。
「涼州の流通が回復したことで商人が増え、商会不買の機運が高まっているようです」
「ふむ……董卓と馬騰からは何か言ってきておるか」
「董卓様からは軍需物資の取引量増やしたいと、馬騰様は今まで通りと」
ふん、さすが董卓……いや、賈駆はよくわかっておるのぉ。
どういう経緯かはともかく不買というのは商会への敵対行動、そしてそれは吾等への敵対行動と等しい行為じゃ。
まぁまだ群雄割拠の時代では無いゆえ直接的な侵攻をしたりするつもりはないが商会の資本を撤退することは有力な選択肢の一つじゃ。
それを賈駆は察して軍需物資の取引という手を打ってきたわけじゃ。これならば取引量が減ったとしても吾等へ配慮したという事実も残るし、切り捨てること難しくなるし、利益もある程度見込める。なかなかの配慮じゃ。
それに比べて馬騰は……ほとんどが脳筋であることを差し引いても、にっちもさっちもいかぬ状態だということはわかっておるんじゃよ。
何か手を打とうにも人なし金なし暇もなし、何かをしようとしても先立つものがない状態じゃからの。
朝廷から報奨が与えられたが羌による侵攻の被害を補うにはとてもではないが足りぬ。
そうじゃのぉ……仕方なく……本当に仕方なくじゃぞ?商会は人身売買と金融業に専念させるかの。いくら憎い相手とは言うても明日を食いつなぐためには色々物入りじゃろう。
ちなみに商会の金利や人買取額は他では真似ができぬ低金利に高価買取じゃ。ただし取り立て厳しく死ぬに死ねないような重労働が待っておるがの……知っておったか?奴隷って吾より仕事しないんじゃと……この前聞いて少し絶望したのじゃ。
「馬騰の方はなにか言って来ぬ間は金融と人買いに専念じゃ。董卓とは新たな契約を結ぶとして……そうじゃな。盧植先生に任せてみるとしよう」
「盧植さんは捕まる前まで涼州に派遣されていたので伝手をございましょう。良い判断かと」
……もしかしてバレておるか?
実は最近、本格的に盧植先生を旗頭とした派閥が構成されつつある。
別に派閥ができるのはいいんじゃが、問題はあまりにも盧植先生の派閥が大きくなりそうであることじゃ。
その勢いは主流である魯粛派を上回る可能性が大きく、何より問題なのは盧植先生がそれを望んでおらんことなのじゃ。つまり周りが騒いでおるだけなんじゃよ。
本人は政争なんぞ懲り懲りじゃ、と言っておるのじゃがのぉ。
その対策として盧植先生には南陽を一時的に離れてもらうついでに実績を積んでもらおうと思っての。
そしてその間に荀攸に盧植先生の派閥を切り崩して新しく派閥を作ってもらう予定じゃ。
荀攸を使う理由は簡単じゃ。あのビッチっぷりは男の人気はともかく、女からは人気がない……というか怨嗟が酷いので派閥を作っても規模は知れておる。
小さい派閥でも派閥は派閥、盧植先生派の規模を小さくすることが可能なはずじゃ。
「そういえば盧植さんのお立場を懸念していた方がいましたね」
「ほう、やはりそのような者もおるのか」
「確か楊修さんという方ですね」
……まさかの鶏肋か?鶏肋なのかや?!
これは確認せねば……ってどうやってじゃ?名は有名じゃから憶えておるが、その名すら特徴的ではなく、割りと普通の名でしかないし、さすがに字を覚えてはおらん。憶えておるのは漢中は鶏肋、曹操に処刑された割にはゲームではステータスが高いことぐらいじゃ。
とりあえず独断と偏見で昇進させて仕事を多く振り分けるとするか、鶏肋であるかどうかの確認はともかく有能かどうかは判断できるじゃろう。
この際本人なのかは二の次じゃな。空気が読める有能なやつは希少じゃからな。
そういえば、史実では反董卓連合までの流れとはどういうものじゃったか……引き金は霊帝の崩御であるのは間違いないはずじゃ。
しかし董卓が台頭したのはなぜか覚えておらんのじゃ。
崩御が切っ掛けというからには後継者争いなのじゃろうが、なんで董卓のような田舎者が政権を手に入れることになったのじゃったか。
……まぁ良いか、吾にはあまり関係なかろう。
「劉備が武陵を制圧したか……しかし、あそこは不良債権じゃから後回しでよかったじゃろうに」
「それはお嬢様と劉備さんの違いですねー。お嬢様ならそうでしょうけど徳で人を惹きつけている劉備さんはそうはいかないんですよ」
ふむ、困った者を助けるのは義務ということか、徳を維持するのも大変じゃのぉ。
そういえば劉備のブレーンである諸葛亮や鳳統もそういうことを気にする質であったな。
これが吾であれば資金と物資の投入でどうとでもなるじゃろうが劉備達はどうするつもりなんじゃろ?そもそも兵站すらも街や村の支援で成り立っておるのに不良債権の回収なんぞできるのじゃろうか。
もしできるならば伏竜鳳雛の評価を二、三段階上げねばならんな。もちろんできなければ逆に下げるがの。
「それに劉備さん達についた馬家の方達が資金援助をしたようでどうにかなる……かもしれませんよ」
……本当に劉備のカリスマはチートじゃな。
どこかのピンク色の姫様のように歌で洗脳しておるのではないか……あ、それは天和達であったか。
このまま行くと南荊州四郡は二ヶ月もせぬうちに制圧できそうじゃな。
もっとも敵と戦っておる時の方が楽なんじゃが、それを劉備達は知っておるじゃろうか。
平穏の時こそ難しい戦いを強いられるが……まぁあのカリスマでどうにかしそうではあるが……理不尽じゃのぉ。
すいません。
今日はちょっと体調が悪くて短くなりました。
そして感想の返信ができなくて申し訳ありません。
少しずつ書いているのですが返信に困る内容もありまして(汗