第九十五話
「願いましては〜」
パチパチパチパチと威勢よく珠が弾かれる音が鳴り響く。
それはなんとも心地良い……かどうかは微妙じゃが熱意は伝わってくる。
今行われておるのは計算の達人決定戦じゃ。皆必死に算盤を弾いておる……中には吾が作ったであろう翡翠の算盤を使っておる猛者もおる。自慢したかったんじゃろうな。
仕事も一段落して中央から文官を引き抜き、増強されたのは良いが以前述べたように派閥という形で面倒な種が巻かれたに等しい。
参加しておるのは問題の読み手である魯粛と判定員、長安に派遣しておる盧植先生、揚州に駐留中の呉懿と楽進を除く殆どの者達じゃ。
もちろん客将という立場ではあるが郭嘉と程昱も参戦しておるぞ。
そういえば郭嘉達といえば、盧植先生や荀攸から熱烈なアプローチを受けておるようじゃ。まぁ素気無くごめんなさいされておるようじゃがの。
まぁ華琳ちゃんから内定をもらっておるのに他の者に……しかも吾ではなく、その配下の者に仕えるなんぞありえんがな。
そうそう、やっと韓暹から返答が届いたのじゃ。どうも黄巾党を解散して放浪の旅に出るそうじゃ。
結局黄巾党から仲間にすることに成功したのは波才と牛金、廖化の三人か……文官は大量に増えたが武官が増えんかったな。関羽のことを考えればむしろマイナスじゃな。
ああ、それと文官で知った名が少し前に二人増えたぞ。
名は賈逵、蒋済。
どちらも史実では曹操に仕えておったはずじゃ……と言うか賈逵がこちらに来るのはかなり意外じゃ。
賈逵の一族は吾には劣るが有数の名家じゃぞ。それがこちらに付くとは思いもせなんだ。
中央付近では随分と吾は評判が良いらしい。
武力衝突が起こりかねなかった事態を平和的(?)に収束させたのはポイントが高かったようで、こちらに靡く者もいくらか出てきたようじゃ。実際以前勧誘した時には断られた者が来てくれたりしておる。
名家にとって宦官と豪族の武力衝突自体は別に問題ない。今回起こりかけたのはトップ争いではあるが普通の者達と違って自分達は戦いが終わった後、勝った方につけば名家は保てるからの。
そして名家にとって最悪は家が戦争に巻き込まれることで、今回の戦いは中央……司隷を中心とした可能性が高い。
多くの名家が居を構える司隷が何進、袁紹率いる馬鹿な仲間達vs十常侍率いる不愉快な仲間達の戦いの場となる……それは正しく悪夢であったろうな。
いくら気に入らぬ宦官達を追い出すためとはいえ、一族皆殺しを普通にやるこのご時世に身近で戦争なんぞやられてはたまったものではない。
それを上手く回避した吾の名声はうなぎ登り……ではないがそこそこ上がっておるわけじゃ。
さて、そんなことを考えておるうちに結果が出てようじゃな。
結果は——
二位文聘
三位郭嘉
四位荀攸
五位程昱
ん?文聘が一位ではなかったか、まさか吾が賭けで負けるとは思いもせんかったのぉ。
そしてやはり原作キャラ強し……それにさすが荀彧の親類じゃな荀攸も凄い……男漁りも凄いがの……じゃが一位は誰じゃ?
一位張勲
「……」
(゚д゚)・・・
(つд⊂)ゴシゴシ
(;゚д゚)・・・
(つд⊂)ゴシゴシゴシ
(;゚Д゚)…!?
「不正じゃ!」
「いきなり失礼じゃないですかお嬢様?!」
「いえ、そう言われても仕方ないと思いますよ」
吾に味方あり、よう言った郭嘉。
「そう言われるのがわかってはいましたが一番最初に口にするのがお嬢様だというのが問題なんです!」
「……張勲に負けた」
孫権がものすごく凹んで……いや、なんか文官のほとんどが凹んでおるようじゃ。
「七乃に負けてはそれは凹むじゃろうなぁ」
「お嬢様酷いですよー……日頃お嬢様に媚を売って成り上がった小娘と馬鹿にしていたのに蓋を開けてみたらこの体たらく、七光りはどっちだ、なんて言っちゃ自殺ものですよぅ」
さすが七乃、ここが攻め時とガンガン飛ばしておるのぉ。
む、そこの者、梁に帯を掛けて何をして——ちょっと首を吊ってくる?いやいやネタじゃなくて本気じゃろ?!
「さて、番外試合と行こうかの」
「例えお嬢様相手とはいえ負けませんよ!」
皆の前で参加するわけにもいかなかんかったから一位が七乃ということで心置きなく勝負ができるのじゃ。
「よし、ではまずは七乃、席につけ」
「?はい」
「よいしょ」
「お、お嬢様」
七乃が座るとその膝の上に吾も座る。
「まさかこの状態で?」
「不服か?」
必殺ウルウル上目遣い。
「そ、そんな滅相もありません」
「願いましては〜」
「あぁ、魯粛さんが容赦がない?!」
魯粛が次々数字を読み上げていく……うむ、さすが優勝者じゃ。めっちゃ早い。
これは……僅差……いや、ほぼ同速度か?
このままでは運勝負になってしまうかもしれん……ならば——
「七乃……」
「なんですかお嬢様、話しかけられても私は余裕で——」
「おぬし、汗臭いのじゃ」
「—————————」
七乃が石化した。
多分今なら普通の攻撃も魔法も通じんぞ。行動もできんがな。
よし、これでリードじゃ!
「ふー」
「ちょっ?!耳は無しじゃろ?!」
「先に仕掛けたのはお嬢様ですー私は悪くないんですー」
「くっ、だがまだ吾の方が先行しておる——これ、吾の肩に首を乗せるな!」
「ふっふっふ、位置的に私の方が有利なことをお忘れなく〜」
くっ、策士策に溺れるか。
この後、グダグダ試合になって魯粛が呆れて注視と相成った。