第九十七話
黄巾の乱終結から早一年半、色々細々とした話があったがいつもと変わらぬ日々じゃった。
あまり大したことがなかったのであっと言う間に過ぎた気がするの。
それはともかく、大きな変化はなくとも変わったこともあるのは当然じゃ。
まずは吾的には小さいことじゃが他者からすれば大きく変わったのは董卓じゃな。
彼女は現在長安太守という要職に就いておる。
これにはもちろん吾が関わっておるぞ。
董卓が……いや、正確には賈駆が正式にこちらと同盟を結びたいと申し込んできたのじゃが前のまま天水太守では不便であった。だから長安の太守にしたのじゃ。
丁度良く長安の太守が変死で空席になっておったから話はスマートに進んだのじゃ。いやー本当に丁度空席で良かったのぉ。
長安は現在の首都である洛陽へと遷都する前の首都というだけあって大都市じゃ。さすが平安京、平城京のモデルになった都市なだけはある。
その旧首都の太守に半分蛮族(出自的に)扱いされておる董卓を就かせるとはさすが吾じゃな。
根回しに結構苦労したのじゃぞ?魯粛が。
ああ、それと董卓の配下に張梁……ではなかった、張遼を確認したのじゃ。
どうやら今回董卓が重要地である長安太守に任命されたことで朝廷側から監視役として派遣されたらしいのじゃ。
もっとも張遼は董卓達を気に入っておるし、本人の気質的に監視役ではなく、ただの配下となっておるがな。
これで呂布、張遼の董卓の二枚看板が揃ったわけじゃな……華雄?知らない子じゃな。
そういえば原作キャラではないが、呂布、張遼と来れば高順も気になるというのが人情というものじゃろ。そもそも張遼より高順の方が階級が高いしの。
袁紹ざまぁも華琳ちゃんは相変わらず内政重視……今の段階で侵攻なんぞすれば朝敵袋叩きに……なるかどうかは疑問であるが、名声は堕ち、悪名を得てしまうからのぉ。
そして董卓達ほどではないが大きく変化しておるのは幽州、公孫賛じゃな。
南陽—幽州の琢郡(機種依存文字のため代替)との交易が本格的に開始され、幽州の経済が復活して南陽には労働力(馬)が充実し始めた。
更に袁遺への配慮と河船から海用の船に切り替えるための中継地点として長江から東シナ海に出る地の近くに都市を建設中じゃ。もちろんほとんどの資金は吾が出しておるぞ。
そのため、揚州には元々物が集まる地であったが今では更に物で溢れかえって大変なことになっておるようじゃな。嬉しい悲鳴というやつじゃ、多分。
劉備達はそもそも資金が足らずに裏商会に結構な額の借金を作っておるようじゃな。馬家や蒋苑の援助ばかり受けていては劉備自身の発言権がなくなるゆえ仕方ないとは思うが……これ、十中八九踏み倒されるじゃろうなぁ。
しかも劉表が劉備の配下と密通しておるようじゃし……と言うか黄皓が賄賂を貰って仲介しておるみたいじゃが、なんというか腐れ宦官に相応しいぐらい証拠隠滅が上手いようで吾はもちろんのこと諸葛亮や鳳統からすらも隠しとしておるようで手をこまねいておるようじゃ。
まぁどうでも良いがの。
気にすべき点は、乱世にもなっておらんというのに諸葛亮や鳳統が西、つまり益州攻略の下準備をしておるような気がすることじゃ。
益州へ数多くの諜報員を潜りこませておるし、軍備にも余念がないようじゃ。なかなか好戦的じゃな。
それに気づいた数少ない人間の中の一人である関羽が大義がないと反対しておるが念のため調べているだけと暖簾に腕押しじゃ。
そもそもなぜ荊州ではなく益州なんじゃ?史実で諸葛亮が益州を絶賛しておったが、それはあくまで悪くない地という説得のために言っただけであって荊州より良い地であるわけではないはずじゃが?
うーむ、あの二人は頭が良すぎてよくわからんのじゃ。
とりあえず魯粛……いや、周泰に調べてもらうか。最近小次郎の世話係が定着し過ぎて腕が鈍っては困るからの。
さて、肝心の吾らのことじゃが。
「プランテーション……大規模農業は順調なようじゃな」
「はい。今のところ問題は報告されていません。労働者(奴隷)も特に不満はないようです」
……今でこそ吾は十分寝れておるが、一時期は奴隷よりハードな仕事をしておったんじゃからプランテーションの労働くらいで不満を言うようなら打首にしてくれるわ!
ちなみに奴隷の待遇は毎日晩酌ができる程度の給料と寮住まいの三食昼寝付きじゃ。南陽以外の州なら田舎の農家よりずっと良い生活をしておることになるのじゃが……奴隷ってなんじゃったかな?
何にしても食料生産に一役買ってくれておるのは間違いないな。それに李典の開発した上総掘りも大いに役に立ってくれておる。
本来物資が必要じゃから物に頼るよりも人手を頼るところであるが、金だけはある吾であるから問題なしじゃ。
むしろ時は金なり、井戸を多く掘って居住地や農地を広げることの方が重要じゃからガンガン投資しておる。
「それと堤防の進行状況が——」
報告を続けようとした孫権が、それは戸が思い切り開かれる音と共に中断されたのじゃ。
入ってきたのは——
「ふむ、暗殺者か。正面から仕掛けてくるとは大胆な——」
「お嬢様、私の後ろへ」
素早く剣を引き抜き構えた孫権が吾に言う。
しかしじゃな——
「気持ちはわかるが……本命はそちらではないじゃろ」
吾が言い終わるか終わらぬかぐらいでドスッと何かが倒れる音が入ってきた暗殺者とは反対方向、つまり反対側から聞こえてきたのじゃ。
そちらに目を向けると頭と身体が離れた死体が転がっておった。