第十話
俺達は戦場にいた。
嗅覚がないにも関わらず硝煙の臭いが蔓延しているように錯覚する。
まぁ空薬莢を喰ってるからそんな気分になるんだと思う。
自分で撃ったバルカンの空薬莢はリサイクルできる事に気づいた。
もっともそれに気づいたのはマリオンちゃんなんだけど。
自分で出したものを自分で食べる…これって反芻か?鋼鉄の巨人だけど実は牛だったか?
「戦闘中につまみ食いはやめてください」
「こりゃ失敬…じゃあ真面目に逝きますか」
とか言いながら格納庫と格納庫の壁をブースター無しで三角跳びで高く空中へ。
普通に考えれば足首の関節が耐えれそうになかったり可動範囲じゃないだろとかツッコミどころがあるが俺達なら無問題。
ブースターを使わない点がエコだよねー。
着地点には陸ジム2機とホバートラック、しかも陸ジムは背を向けている…まぁそうなるように計算してるやってるんだけどね。
ビームサーベルでなぎ払い、陸ジム2機をコクピットから上下に分離させてホバートラックにはバルカンを撃ちこみ終了。
「さて、次は…ってあれ?まだ10機は居たと思うんだけど、しかもミノ粉の濃度が下がってない?」
「撤退したようですね。一部のモビルスーツは武器をホバートラックに渡してフライマンタを背負ってる者もいましたね」
そういや陸戦型系は武器箱背負って移動してたから比較的軽いフライマンタなら運べる…のか?
ギレンの野望ではバカスカ落ちてるイメージが強いフライマンタだけどよく考えたら現代兵器より未来の兵器な訳だから確実に高性能だよな。ということは値段も相応に高いから持って帰ろうという気になるかもしれん。
…いや、やっぱり撤退なんだから身軽にしろよ。けち臭いな。
「つまりモビルスーツ撃破は38機ぐらいか、被弾もホバートラックがばら撒いたバルカンが十数発ぐらいだし圧勝だな」
「ですね。さすがブルーニーさんです」
「いやいや、マリオンちゃんが居てくれてこそですよ」
なんてイチャイチャ(俺主観)しながら戦利品を喰う…前に問題が発生した。
「めっちゃ兵士残ってんですけど、しかも降伏するみたいだし」
白旗振ってるから多分そうだろ。
無線でいいのに。
「置いて行かれたのでしょう。恐らくほとんどの者は空軍出身者でしょうね」
「ああ、全然飛べなかったから人的被害はなかったわけね」
「どうします?」
「どうしましょう」
一番簡単なのは死人に口なし抵抗なし…何だけどさすがに戦う意志が無い人間を殺すにはさすがに抵抗がある。
次に簡単なのは解放する事だが、俺達の心情的には何も問題ないが相手は兵士であり、テキトーに解放するとゲリラ攻撃される可能性が否めない。
ここから難しくなる。
まずジオンに引き渡す。ただしジオンが引き受けてくれるか分からない上にそれまで俺達が面倒を見ないといけないという難点がある。
次に連邦に引き渡す。こちらはジオンの心象が悪くなる可能性があるし攻撃される可能性が大。
どれもこれも面倒だな。
「どうしたもんか」
「私達の食事もあまり見られたくありませんね。普通に考えれば異常で研究対象でしょうから」
「だよねー多少はなら狂人の戯言程度で済むだろうけどあまり人数が多いと真実味を帯びちゃうよな」
仲間いないのはこの辺が辛いよなーでも仲間は情報漏洩にも繋がることを考えれば身体がモビルスーツであることを除いても難しい。
「なら——」
とりあえず別の解決法を思いついたのでやってみる。
手順、ビームサーベルを5mほど地面に突き立てて大きな円を描いていく。兵士達を放り込む。簡易捕虜収容所の完成。
土壁はビームサーベルの熱で硬化されてるから普通には掘れないだろ。
本当は既存の基地で牢屋にでも放りこめたらいいんだけどモビルスーツで管理できる牢屋なんて存在する訳もなく、こんな手法になった。
逃亡を謀った兵士は警告の上で逃げる兵士は訓練されてない兵士だ!ということで銃殺刑。ただしバルカンみたいな?おかげで無駄な燃料使いましたよ。
しかもスプラッタ映像が量産されてマリオンちゃん具合悪そう。14歳だもん、仕方ないよ。人を殺すのと人の残骸を見るのとでは話が違うさ。
こうして俺達の食事の秘密は守られる事になるはず、捕虜の処遇は後で考えよう。
「さて、食事を始めよう」
「はい…」
マリオンちゃんが気分悪そうだけど早く食事を終わらせないと捕虜達が可哀想だろ、座ることも寝ることもできないんだからな。
味わうことより消化優先。
「とはいえ陸ガンは初めてか、陸ジムと顔が違うだけなんだが味は……ローストチキンか?!」
美味、めっちゃ美味。けどマリオンちゃんはテンション底辺。
ホバートラックは焼き椎茸醤油味。でもマリオンちゃんは鬱状態。
フライマンタはアジのフライ、さすがにマンタのフライ味は分からないけどこれは間違いなくアジのフライだ。マリオンちゃんは体育座りしている。
ここでいい男なら優しい言葉でも掛けるんだろうけど俺はいい男ではないのでスルー。
やけ食いのようにバクバクむしゃむしゃ、食べる。食べる。食べる。
「ちょっとは取り合ってくださいよ!」
「でもさーこれからもこういう事あるだろうし、生きてる兵士さん達は生き埋めにされないか戦々恐々としてるだろうしね?」
「それでも慰めて欲しいのが女の子なんです」
「ガンバレーマリオンチャンハツヨイコダー」
「なんで棒読みなんですか、もういいです。やけ食いです」
「もうそれに近いことしてるけど——」
「シャラップ!」
なぜ英語?
まぁちょっと元気でたらしい。良かった良かった。
食事が終わり燃料は3300%、結果的にはめっちゃ黒字だった。
兵士さん達も解放してあげてジオンがもうすぐ来るから残してたミデアに乗って逃げるといいよ、と伝えるとすごい勢いで乗り始めた。
満員電車みたいになってるからきつそうだけども基地は思ったより近いから大丈夫だろ。
ジオンに連絡したのは本当で、あちらに占領して貰う予定。ぶっちゃけそんな兵力があるのかとか疑問はあるけど俺達の強さは実証できるだろう。
そのせいで証拠として陸ジムや陸ガンの頭を残してゴロゴロ転がしてある。
もうすぐルッグンあたりが偵察に来るだろう…と思ったら来た来た。
手を振ってやるとチカチカッと信号を送ってくる。俺には意味が分からなかったけどマリオンちゃんには意味がわかったようだ。
「ご苦労様だそうです。これからそちらに伺うとも言ってますね」
「了解」
グッジョブ!と親指立てて了承の意を伝えてみるとルッグンがゆっくり降りてきた。
「こちらの基地は爆破処理して再使用を阻止するので予定時刻になればそちらに連絡しますのでそれからここを退去していただきたい。それから後次の基地の攻撃に掛かってもらいたい」
爆破処理までここにねぇ。
「了解した。連絡お待ちしております」
「ではっ!」
ルッグンは旅立っていった。
爆破処理ねーやっぱり占領して使うほどの兵力がないってことか。
元々ジオン側は資源採掘のための防衛側だから今は侵攻する意味がないんだろう。
「あの対応…こりゃ報酬がもらえるかどうかわからんなぁ」
「もし報酬が払われなかった場合はどうするんですか」
「とりあえず強制的に食材で支払ってもらう予定。戦乱の世は力こそ全てなり」
「ある意味真実ですけど、同時に野蛮ですね。私達は兵器なんで今更ですけど」
進化する兵器だけどね。
実際特殊オプションがまた増えてるし。
特殊オプション: EXAMシステム(マリオン・ウェルチ)
マグネットコーティング
憑依
ハイドロジェット
電磁波吸収塗料
アンダーグラウンド・ソナー
アンダーグラウンド・ソナー、最初は意味がわからなかったんだけどマリオンちゃんの解説にピンと来た。
「あれか、ホバートラックのソナーか」
「そう、それです」
確かチャラい金髪が音で索敵してたからそれのことだろう。つまりミノ粉戦闘濃度でもマリオンちゃん頼りの索敵ではなく、俺個人でも索敵できるようになったという事だ。
マリオンちゃんと共有するのは吝かではないけど燃料消費が地味に響くので嬉しい。
と言うか五感の内四つを手に入れたことになるけど、やっぱり既に兵器の枠を逸脱してるよな。
しばらく待つとちゃんとジオン側から爆撃すると連絡が来た。
「てっきり俺達を巻き込んで爆撃するものかと思ったけど思ったより礼儀正しいな」
「ジオンが落とせなかった基地を数日で落とした私達を敵に回すことになるんですから当然の判断でしょう」
「マリオンちゃん、軍がやることはあんまり甘く見ない方がいいぞ」
ニュータイプ研究はともかく強化人間の研究かコロニー落とし、G3ガスの使用とかね。
戦争で勝てれば何をしてもいいと思ってる腐った人間なんて腐るほどいる。どんだけ腐臭漂ってんだかわかんねぇ。
「と、そんな話してる場合じゃなかった。次の攻撃目標に移動するか」
「そうですね」
描写を省くがまた1つ連邦の基地が俺達の手に落ちた。
今回の基地も前回と同じ規模であったが違いがあるとすれば61式戦車の代わりにガンタンクが居たことだろう。
もっともガンタンク、近づいてしまえば戦車と一緒。ビームサーベルでバッサリ。
よく見るとコア・ブロック・システムが無いっぽいのでこのガンタンクは量産型っぽい。
戦後処理も同じだったんだが、どうやら前回逃したミデアはここに逃げ込んだらしく逃亡する兵士より降伏する兵士の方が多かった。
おかげで円を大きくしないといけなかったので時間がかかったが…妙に大人しい、罠だろうか?
「今回は抵抗なくて良かったです」
マリオンちゃんがスプラッタを見なくて済んでホッとしている。
俺も別に見たいわけじゃないぞ。
「さて、食事を始めますか」
「今回は楽しめそうです」
ガンタンクは牛すじの煮込みだった。
なんで牛すじ?煮こまれてるから柔らかくて食べやすい…いや、ちょっと待てそもそも硬いも柔らかいも俺達には関係ないのか。
食事も終盤、もうそろそろジオンに連絡入れようかと思った時。
「ん、ミデアとセイバーフィッシュの音だな」
ソナー優秀どす。
それはいいとしてミデアと護衛セイバーフィッシュが10機ほどがこちらへ向かってきている。
フライマンタじゃなくてセイバーフィッシュ?俺達対策ならフライマンタのはずだ。
「どういうことだと思う?……マリオンちゃん?」
「それは…ですね。本命がミデアの中に積まれている、という事です」
「どうしたマリオンちゃん?緊張してるようだけど…」
そう言っている間にミデアからモビルスーツの陰らしきものが降下。
「おいおい、この音って…」
「ええ、恐らく…」
「「ブルーディスティニー」」