第十一話
「マリオンちゃん、覚悟はできてるか」
「はい。大丈夫です」
「本当か?もう一人の自分を殺す覚悟ができてんのか?」
「大丈夫です。感覚的にわかるんですよ。死ぬんじゃなくて解放されるんだって」
「…そうか」
つまりそれは、俺達、いやマリオンちゃんにも言える事なんだよな。
多分マリオンちゃん自身は気づいてないだろうけど…そのうち解放してあげなきゃいけないかな。
「ブルーニーさん!来ます!」
「いきなりカラコンですか、一応こっちにもマリオンちゃんが居るんだからニュータイプ判定なんかね?」
今は置いておくとして、カラコンの起動がどの程度のものかによって相手の仕方が変わる。
それとパイロットがユウ・カジマなのかどうかも問題だ。とは言っても——
「中の人がどうであれ、やることは変わらないか」
単発しか撃てないビームライフルで対応するのはブルーディスティニーの機動力には少々厳しいかもしれないが俺達と同じ装甲を持っているんだ、マシンガンだと有効打になるまで時
間がかかる。
そうなると当たれば一発でダメージがあるビームライフルの方がいいだろう。
「いきなりコクピット狙撃!なんてさすがに都合がいい事はないか。さすがカラコン、伊達ではない」
「さすが私…と言いたいところですがパイロットの方も優秀なようです」
「それはニュータイプとしての共感で?」
「はい」
ということは十中八九ユウ・カジマだろ。
ユウ・カジマの前のパイロットはEXAMシステムを暴走させたはずだ。つまりマリオンちゃん…いやマリオンと共感するだけの感覚がなかったはず、それに比べて今目の前のブルーディ
スティニーの動きは——
「いい動きをする——シャア以上だな」
モビルスーツの性能の差だけではない、間違いなくパイロットの腕もいい。
さすがオリ主仕様、腕もニュータイプに匹敵するってか。
ま、マリオンとどれぐらい感覚共有できてるかって話もあるからシャア以上かどうかは本当はわかんないけどね。
お互いビームライフル、当たれば不利になり当てれば有利になる。
普通なら5発も撃てば何処かに当たり、10発に届く頃には決着が着く、他はどうか知らないが少なくとも今までの俺達はそうだった。だが——
「いやー映画か何かみたいにお互い当たらんもんですなー」
ニュータイプはビームライフルを撃つタイミングで既に回避行動をすると言われていたけど…実際見るとキモい。
やることなす事が読まれ続けるのって思った以上に精神にくるものがあるがそれはお互い様か。
「私の存在やEXAMシステムの作用副作用ですね。私とシステムが同じなら似た動作に——」
「マリオンちゃんは偶に抜けてるよな。いや人生経験が足りないのか?その2つの要因が同じであろうと動かしてるのはもっぱら俺と敵パイロット。つまり相手のパイロットも俺も同レベ
ルってこったい」
それによくよく考えれば今までの戦いって戦いと言うより狩りだった。
俺達が一方的に攻撃するだけで勝負がついた。
しかし、今回は初めての『戦い』だ。
俺は蹂躙に慣れてても戦いには慣れてない。
「やっぱ離れて戦ってちゃ決着はつかないか」
原作でもニュータイプ同士の戦いで撃ち合いで決着がつく事はなかった…と思う。
ぶっちゃけ牽制にしかなってない。
ただし俺達の方が回避行動は上なのは間違いない。
必要最低限でギリギリ躱し続けている俺達は第三者から見れば余裕が無いように見えるかもしれないが大きく躱さないだけ。
それに比べてブルーディスティニーは装甲の一部がビームが掠って溶けているし回避行動がアバウトだ。アバウトと言っても俺から比べればだけどな。
「なら逝きますか」
ビームライフルを腰の後ろに引っ掛け、ビームサーベル抜く。
ユウさんもそれに応じるようにビームライフルを収めてビームサーベルを構える。
様子を見るなんて事はしない、間合いを思いっきり詰めて相手の攻撃を誘う。
案の定反射的に縦割りするように振ってきてがそれに対して横薙ぎで弾くようにしてみたが鍔迫り合い状態になった。
「確認したかったビームサーベルの鍔迫り合いって本当にできるんだなー」
「Iフィールドが干渉して反発しますからね」
斬り結んだ状態を維持したまま相手のビームサーベルを持っている腕の関節を盾で殴る…が逃げられた。
そしてお互い牽制のバルカンが放たれたが、さすがチートボディ。バルカンじゃ少し凹む程度しかダメージがない。ただし俺はちょっと痛いけどな。
中途半端に距離が開いたがまたすぐに接近戦。
ふっ、さっきのは斬り結びが成立するかどうか見たかっただけだからな。ここからが本気だ!と中ボスみたいな台詞が頭を過る。
今度は盾を捨てて二刀流、忍者のアビリティも源氏の小手も持ってないけどな。
そして先ほどはわざわざ歩いて間合いを詰めたが今回はブースターで詰める。
緩急大事にしないとね。そもそもブルーディスティニーはEXAMシステム起動状態だと歩く速度自体も速いからブースターをする意味は格下にはない。
しかもこのブースター、本来パイロットが乗ってたら凄いGで長時間運用する上では普通はしない。
「行くぞ!二刀流奥義——ドロップキック!」
「全然二刀流関係ないじゃないですか!」
本当はトンファーなキックがしたかったんだけどねー。
ふざけてるけど絶賛ブルーディスティニー吹き飛ばされ中…俺達の事じゃないよ?
「でも世の中マシンガン持ってんのに自身の機体の負担を考えずに蹴る人もいるぐらいだし」
「そんな人いません」
いや、そんな人をこの前倒したんだけどね。
「さてフィナーレと——」
「砲撃来ます。回避してください」
ちっ、伏兵がいたか。
え、まさかこの展開って——
「ブルーディスティニー撤退を開始、それとこちらにミデアが近づいてき——モビルスーツ投下確認、陸戦型ジム6機と陸戦型ガンダム3機と確認」
もしかしなくても覚えてろよ—!的な感じですね。分かります。
…いや、逃さないよ?
捨てた盾を回収、先頭にいる陸ガンをコクピット狙撃、盾を構えてるけど無駄無駄無——
「あれ?ビームが?」
「ビームコーティングですか、これは面倒ですね」
まさかのビームコーティング、ちょっとちょっと陸ガンにビームコーティングなんて聞いてないよ〜。
俺対策ですか、そうですか…ブルーディスティニーにもしてあったんだろうけど当たってないから意味ないだろ。
「同じ場所を何度も攻撃すれば大丈夫だと思います」
「撃破自体はそれほど困ってないんだ。問題はブルーディスティニーを逃がす事になっちまうってこった」
「それは仕方ないでしょう。それに…また近いうちに戦うことになりますよ。私達に抵抗できるのは今の所兄妹だけですから」
「…そりゃそうだ。なら改めて目の前の獲物を逃がさないようにしようかね」
決して八つ当たりではない、正当な報酬を要求しているだけである!
思った以上にビームコーティングがウザかったです。
敵は全員コクピットを守るようにガッチリシールドを構えているせいでビームライフル1発で倒せないんだよ。
おかげで効率落ちるしブルーディスティニーには逃げられるし、いいことなし。しかもガンタンクめっちゃ遠いせいでこっちにも逃げられるし。
「さすが連邦汚い」
「綺麗な戦争なんてありません」
そりゃそうだ。
今度からニュータイプ相手にビームライフルの撃ち合いとかやっちゃ駄目だな。不毛過ぎる。
しかもこれからはビームコーティングされたシールドが標準装備されるとなると更に厄介さが増す。
こりゃ俺達の無双期間が短いな。
唯一の希望は自己進化か、どこまで進化するか分からないけど今までの進化はどうも食材の特性を取り込んでるみたいだ。
ハイドロジェットはザク・マリンタイプやアッガイ。
電磁波吸収塗料はアッガイ。
アンダーグラウンド・ソナーはホバートラック。
後、地味にセンサーの精度があがったのもアッガイだろう。
ただしイマイチ取り込む条件は分からない以上、食べて食べて食べきるしかない。
とか思ったらオプションにミノフスキー粒子散布って付いてるし…これならフライマンタやデブロックの煩わしさが緩和されることだろう。
ただし多分だけどミノ粒散布って燃料消費だよな。迂闊に使えたもんじゃないのは間違いない。
「あ、そういえば兵士さん達解放しないと」
「死んでなかったらいいんですけど」
流れ弾が当たってないことを祈る。