第百一話
新年は平和で始まった宇宙世紀だが、初詣に行った時に引いたおみくじは凶だったからきっと世界はろくでもない年になるだろう。決して俺の運が悪いわけではない。
俺にはマリオンちゃんニュータイプ占いがあるので自分の運試しならこっちでする。
「ブルーニーさん、農業収穫用ハロなんて無理です。作物の収穫時期とかどれだけのデータが必要か……」
「小麦粉や米などの穀物類は対応できますが、それは従来の機械で可能ですよね……ですが野菜の収穫時期は判断基準が多すぎて……」
新年早々愚痴っているのはアムロとメイの2人。
農業コロニーのデータを流用して大丈夫だろうと思ったんだけど、やはり大地に根付く野菜は成長にバラつきがあって安定しないため苦戦が強いられているようだ。
ふむ、どうしたものか。
「そんなに大変なら別のハロを開発した方が効率がいいか?」
「可能性は高いです。でもハロに向いた仕事が他にあるでしょうか」
「需要が多くてハロで代替できるような職業……」
週休3日の弊害、生産力が人口当たりに直すと連邦やジオンなどの半分しかない。
もっと働けというのは簡単だが、おそらく無理やり働かせたところでトラブルが増えるだけだろうからこのままでいいように解決策を練る。
移住民はよく働くんだけどねぇ。
一応契約は月単位で変更可能になっていて週休3日と週休1日が選択できるようになっている。つまり選択は自由。
「まだまだ人口が増える予定だが農家が増える予定がないことが問題だ」
「……農家でないと意味がありませんか、わかりました」
「んー……頑張ろう!」
2人は改めて気合が入ったようだ。
悪いね、食料自給率落とすわけにもいかんし、コロニーとの貿易も兼ねてるから手を抜くわけにはいかんのよ。
「南中国に新しく工場を建設することになりましたが従業員は現地だけで補いますか?」
「アイナか……んー、こちらからも100人ほど派遣するかな。幸い中国人と島民の区別はつくしな」
「それは差別発言の可能性が高いですよ」
こりゃ失敬。
「ジオン地球領からゲルググノーマルとMの製造支援を要請されてもいますけどどうしますか」
「あー、水陸両用モビルスーツの生産を確保するだけで精一杯って感じか」
「そうですね。まだ地球領やMIP社は軌道に乗りきれなていないため生産が追い付いていないようです」
「しかし俺達もクーン製造に忙しいが……」
「ニューギニア特別地区はアプサラスIVを追加生産でなんとかなりませんか」
アイナお前もか。
気持ちはわかるが水中での戦いにアプサラスIVはほぼ無力、浅い場所にいる敵ならともかく深度がある場所にいられるとどうにもならんし……しかし商機を逸するのもなぁ。
「サイド6支部での生産は不可能か?」
「……すっかり忘れてました。地上での生産ばかり気を取られていました。確認してみます」
一応サイド6の軍利権があるため、サイド6にもニューギニア特別地区と比べたら小さいが生産設備がある。
最近はハロの生産拠点となっているため忘れがちだけどな。
実は貿易の主品目の中に入るほどハロが売れている。
権利の侵害、特にプライバシーの侵害が酷い。まぁ促してるのは俺達なんだが。
もっとも戦闘レベルのミノ粉を散布されると機能低下することが悩み……なんだけど、コロニーで戦闘レベルのミノ粉を撒かれることは殆ど無いので欠点にならないっぽい。
「あ、それと日本から対人戦ハロの追加注文が来てますよ」
「……そっちはこちらで対処しておく」
「わかりました」
どうもアイナとシーマ様は俺達の特異性(今更だが)のいくつかに気づいているようで、何かを察しているようにツッコんでこない。
なら開発畑のギニアスやアムロ、メイはもっと早く気づいてるだろ!……と思うだろ?あいつら、仕事漬けにしてるから考える暇ないんだよ。ギニアスはどちらかというと現実逃避のために仕事に熱中しているような気配があるが……と噂をすれば影。
「アプサラス——」
「もう、ね?いい加減、挨拶のように、アプサラスアプサラス、言わない、ok?」
アイアンクローでニギニギしてミシミシ音がなってる。あと少しで罅ぐらいは入るかもしれないな。
「決してNOだ!!」
こいつ、どこまでもアプサラスに毒されてやがる。
「さて、本題だが、アプサラスVに関してだ」
「水中仕様のアプサラスだったか」
「いや、あれはアプサラスとは別系統に移した。やはりサイズ的に問題がある」
そら、アレだけデカけりゃ問題は山積みだろうよ。
「アプサラスVは空母にしようと思う」
「……素直にザンジバル級で良くね?」
「いや、確かにザンジバル級を再設計していたのだが、ここで1つあることに気づいたのだよ。それは死神の陽炎は不敗でないといけない、ということだ」
まぁ傭兵が国を持つなんて異常なことを成立させたのはその強さゆえだから異論はない。
「そうなるとザンジバル級では些か弱いと思うのだよ」
「……なるほど、言いたいことはわかった。傭兵という立場からしたら艦が沈むというのは敗北に等しい、と」
「察しが良くて助かる。元々はVには別の設計を考えていたのだが現状を鑑みるに必要なのは戦える空母だと思ってIVを軸にして考えたのが1人で動かせ、戦える。もっとも整備や補給はハロ任せになるがそこは妥協のしどころだろう」
ハロに補給整備を一任するのはなかなか度胸がいるな。
マリオンズは死んでも復活できるから問題ない、と割り切るには俺はマリオンちゃんを愛しすぎている。
兵器テストなどという仕方ないリスクならともかく、防げるリスクを防がないというのはモヤっとする。
「そもそも戦闘能力を落とさず、モビルスーツを搭載するほどのスペースが確保できるのか?」
「砲門数が以前のIVと同様合計60門程度になるが、それさえ気にしなければ可能だ」
んー……マリオンズが運用するなら別にいいんだけど……ん?待てよ。
「ギニアス、もし格納スペースも整備補給が問題が解決するとして……帰還はどうやってするんだ?」
「……あ」
無重力ならともかく、重力下で、しかもホワイトベースやザンジバルのように広い格納スペースがあれば問題ないだろうけど、おそらくそんなに余裕はないはず。
「……新しく設計してみる」
「まぁ、今回は着眼点は悪くなかった。なんだったらその方針でザンジバル級を再設計してみたらどうだ。もちろん1人で動かすのは無理だろうが」
「……考えておく」
意気消沈して退場。
続いてはシーマ様か。
「あんたら好き勝手言ってくれるがどんだけ苦労してるかわかってるのかい」
「やっぱり厳しいか」
「ああ、そもそも移住民専用都市がやっと一段落ついたと思ったら別の都市なんて何考えてるんだい」
「でも必要なことだろう」
「……ちっ」
1、2年あたりで人口が1.5倍になるような増加量だからしないといけないというのはわかってるんだろうから舌打ち程度で済んでるんだろう。
「幸い移住民による治安悪化はあまり目立たないんだから音を上げるなよ」
「はぁ、わかっちゃいるさ。だがね、これほど大規模な都市計画はニューギニア島で今までなかったから手探り状態だから効率が悪いのさ」
「でも次からは少しは効率良くなるだろ」
「多少は、ね。実際計画書段階で随分早くなってきてるし、わかりやすくまとまってる」
主要都市の維持と別荘管理が主だったニューギニア島が国になってまだ浅いからな、何事経験経験。
「とりあえずは都心の高層マンションの建設規制は通したよ。郊外誘致も順次行うつもりだ」
「これでまた建築関係が忙しくなるな」
「税が増えるからいいようなものの……リニアモーターカーを通すのにまた予算が……」
南無南無、仕事だと思って頑張ってくれ。
「せめてクーンの納期を遅らせれば……」
「社会不安に繋がる可能性があるから止めとけ、最近アナハイムの工作員が本格的に動いてるし、国内を撹乱しに来る可能性もある」
「ハァ、そうだね。クーンの納期を遅らせてアナハイムに付け込む好きを与えるべきじゃないか」
どうも宇宙世紀オペレーション・メテオをやって以来、アナハイムが俺達のことを警戒し始めたようで諜報員、工作員が1000以上潜り込んできている。
諜報員は一般市民のようなものなので摘発せずに工作員だけ刈り取っているんだが……マリオンちゃんズ洗脳プラスニュータイプ覚醒コースを見どころある奴に実施、おかげで10人ほどモブニュータイプが増えた。
今は宇宙でマリオンズと仲良く賊狩りを楽しんでいるだろう。
「その代わり、南中国へモビルスーツを販売することが決まったんで、その利益で国債買うから頑張れ」
「……その国債でブルーパプワに仕事を依頼するんだからひどい話だねぇ」
全くだ。
こんなことしてたら国の借金が膨らんで大変なことになる……が、これは緊急処置だから問題ない。
それに国債金利はほとんど無いにも等しいから破綻することはないだろう。
「中国の混乱で更に利益を狙わなきゃならんか……サイド6支部の拡張に資金を回すか?いや、他国に投資してる場合じゃないか」
「そうでなくてもハロの生産をほとんどサイド6に頼っている影響でニューギニア特別地区に入る税は目減りしてるから止めておくれ」
おかげでサイド6との関係は良好なんだけどね。
逆に景気のいいサイド6を疎んじているのがジオンだったりするけどさ。
「ハァ、今年も忙しい年になりそうだねぇ」
「期待してるぞ、シーマ様」
「未だにあんたが私に様付けする違和感が抜けないよ」
さて、お正月もあけて中国の内乱が活発化。
後ろ盾となっている勢力は兵器を売るだけ売って戦ってるのは中国人同士、でも遠慮ないから怖いな。
一番劣勢なのは南中国だったりするのが笑えない。
西中国はどちらかというと辺境なんだがティターンズの支援が本格化したことによって物量で押されている。
仕方ないのでブルーパプワ南中国支部設立セレモニーでアプサラスを飛ばして牽制を試みたんだけど……バッチリ効いた。
快進撃を続けていた西中国軍はぴったり足を止めている。
その隙に兵站ルートを切ろうと南中国軍が動くが、そこまで上手く行かず防がれてしまった。しかしうまい具合に出血を強いたことで西中国軍は戦線を後退せざるを得なくなったようだ。
「アプサラスは遠目から見てわかる威圧感がありますから牽制には打って付けですね」
「本当にな。そういう意味では俺達では迫力ないよなぁ」
「なに言ってるんですか、私達の戦果で戦場に蒼いモビルスーツはいなくなったんですよ」
「ああ、そういえばそうだった」
ジムクゥエルは若干青っぽいけど俺とは明確に色が違う……でも見分けがし難いから連邦にカラーリング変更を頼んでるかな。
ジオンや連邦みたいに俺達を知ってるやつらが勘違いはしないだろうけど聞いたことしかないやつらは勘違いするかもしれないし、それを利用されるのも癪だからな。