第百三話
どうするか悩んだ結果、建設中コロニーまで結構な距離があることを考えると、明らかに全うな勢力ではないパイロット達の酸素がどの程度あるのかわからないため、相手の本拠地であろう場所を目指すことにした。
そして見えてきたのは……なんとも言えない芸術作品のような施設だった。
コロンブス級やパプワ級、ムサイ級、サラミス級、マゼラン級など様々な艦が継ぎ接ぎされているもので、不思議なアートができあがっている。
「一応コロニーなのか?」
「でもあの形では重力が期待できませんから人間が住むには不便でしょうに」
普通の人間が重力のない状態に長い間暮らすと骨が脆くなったり筋力低下したり色々障害が起こる。
だからコロニーは遠心力で擬似重力を発生させているわけだが、この施設は無重力状態、このまま風にさらわれ……ゲフンゲフン、人間が住むには過酷な環境なわけだ。
「ん?発光信号?」
「どうやら降伏するようですね……通信が来ました」
『蒼い死神へ、当方に抵抗する意思なし、話し合いの場を設けていただきたい』
「おや、こちらの素性を知っていて攻撃してきた奴等に慈悲を与えるとでも?」
まぁ実際は与えるんだけど、一応形だけでも脅しとかないと舐められるからな。
『誤解なんです。今死神様に捕らえられている者達はルウム戦役の脱走者で情勢に疎い者ばかりなのです!』
声からは物凄い必死さが伝わってくる。
「わかった。着艦するから誘導しろ」
『了解しました!』
さて、一体どういう集まりなのかね?会話的には組織という感触ではなかったけど……それにルウム戦役の脱走兵?どういうことなんだろうね。
元コロンブス級と思われる部分のハッチが開き、ガイドビーコンが出されたので着艦。
「さて、これが罠だったら問答無用で殺戮開始で色んな意味楽なんだけどね」
「それは無いでしょうね。私達の素性を知っている者は最近では抵抗らしい抵抗をしなくなってきてますし……あ、でも、ここは宇宙ですし私達の知名度はそれほど高くない可能性もありますよ」
ありがとうマリオンちゃん、共有状態のニュータイプの感覚が悪意を伝えてきてないんだからその可能性がないとわかっていながら慰めてくれる……その優しさが今は辛い。
「お、人が来たな。今回は俺の事情を知らない(姿のことね)可能性が高いからマリオンちゃんが対応してくれ」
「わかりました」
マリオンちゃんが実体化して出てい——こうとして戻ってきた。
「空気ないのにヘルメットせず出て行くとこでした」
このあわてん坊め、空気が無くても生きていけるから仕方ないかもしれないけどさ。
マリオンちゃんの働きは割愛、え?酷い?でも長くなるからさ……さ、話をまとめるとこんな感じ。
元々この施設はルウム戦役時、ジオン兵が脱走し、本国に帰れば銃殺されるということでどうしようかと考えた結果がコレらしい、幸い食糧や空気などは周りの船などから集めれば当分困らなかった。
しかも偶然と偶然が重なって次から次へと脱走兵が集まり、今の大所帯になったらしい。
その中には戦後に合流したダイクン派も少数ながら混じっているようで、食糧やモビルスーツの設計図など持参してきたという話だ。
後でもっと細かい話を聞いておく必要があるな。
そして驚くことにジオン兵だけではなく、少数ながら連邦の脱走兵までいる。
連邦兵はソロモン戦の際に脱走した者達だ。
ノイエ・ジールに恐れ慄き離脱して助かったとのことだが……どうやらこの施設のことはある程度噂になっているっぽいな。
そしてこの勢力だが……もしかすると原作でも存在した勢力だったのかもしれないな、デラーズ・フリートが、いや、デラーズ率いる親衛隊が来て主導権が変わり、飲み込まれた勢力だったのかもしれん。
それでどうする?という話になったのだが……
「ニューギニア特別地区に亡命したいそうです。もうこんなところで生活するのは嫌だそうで」
「ま、そんなとこだろうな。空気は使い回せばどうにかなるだろうし推進剤も余ってそうだけど食糧には限界がある」
「モビルスーツに備え付けられている緊急用ボックスなどに入っているレーションなどを主食としているそうです」
……よく死ななかったな。
毎日レーションとか死にたくなるぞ……こう聞くと、今の俺達がモビルスーツを喰って色々な味を楽しめるのは幸せなことだな、と改めて思う。
今改めて思えば人間、子孫繁栄と美味い物喰うために生きてた気がする。
「とりあえずマリオンズにこちらへ船を寄越すように言っておいてくれ」
「楽しい食べ歩きツアーのはずが思わぬハプニングですね」
「まぁこの程度だったらちょっとした刺激程度に感じるけどな」
命のやりとりなんてなかったしな、勝利率100%の戦いは戦いではない。せめて相手がビーム兵器なら少しは何かあったかもだけど。
「マリオンズには連絡しましたから、そう時間掛からずに船は着くでしょう。彼らには既に引っ越しの準備を始めるように伝えてますし……」
「では!」
「食い倒れ」
「ツアー再開!」
ちなみに彼らが持っていたレアモビルスーツは支度金代わりに買い取り、俺達名義の極秘倉庫に放り込んでおくようにマリオンズに頼んであるので後が楽しみであるが、しかし今は目の前の食材の山に集中しよう。
マリオンズが到着する頃に1度合流しないとな、マリオンズは信頼しているが彼らは信頼度は0だし発見者が見送ることぐらいはしないといけないだろう。
「コロンブスがゆでたまごとか……狙ってるとしか思えないな」
「でもなまたまごじゃなくて良かったです」
昔健康に良いとか言って生で飲むって人がいたけど俺達は遠慮願う。
ムサイは野菜炒め、肉は本当にちょっとだけ入ってたような気がする。
チベ系統の残骸はなかなか見つからない、希少な艦であるし簡単に見つからないのは仕方ないか。
燃料も順調に増えていく……これなら養殖ニュータイプ生産を再スタートさせてもいいかもしれん。
養殖ニュータイプ部隊……有りだと思います。養殖というだけあって替えが利くニュータイプというのは強化人間より使い勝手がいいだろう。
そういや養殖ニュータイプといえばプルシリーズは生まれるんだろうか、俺の原作で1番好きなキャラだから是非全コンプリートしたいんだけど……ついでにキュベレイのデータも欲しいな。
まぁ、そもそもアクシズが誕生するのかという疑問もある、グレミーもどうなるやら……ああ、少なくともミネバ・ラオ・ザビはアクシズに行かず、サイド3に居ることは確認してるので原作崩壊しているのは間違いないが。
「マゼラン(炊き込みご飯)ドラッツェ(ハマグリのお吸い物)ゲルググ(ほうれん草のおひたし)とか組み合わせて喰える幸せ」
「そういえば白ご飯や玄米などがありませんね」
「色から考えるとジムに期待したいところだけど……豆腐という可能性もある。何よりジムがそうだったとして現在生産されてない機種だから追加入手は難しいだろうな」
もし白ご飯がジムなら、原作崩壊させた自分に絶望するのは必至だな……そういや、なんだかんだ言ってボールを喰ったことなかったな。フィッシュアイはあるけど。
原作と違って生産されるも前線から外され、ブルーパプワ廃品回収部に払い下げされたから喰う機会がないんだよな。
「……ん?ボールのバリエーションでも作るか、ボールの現状が最善とは思えないし」
「今、開発部は手一杯だと思いますよ。次世代モビルスーツの開発にアプサラスVの開発(これはギニアスメインですけど)、ハロ開発、それに例の物もあるんですし」
「やっぱり無理か、ならボール開発元の会社に新しい宇宙作業用ポッドの開発を依頼するかな」
「いっそ飲み込んじゃいますか?宇宙作業用ポッドのノウハウはモビルスーツにも役に立つでしょうし」
ふむ、アイナと要相談だな。
元々モビルスーツは宇宙作業用ポッドからの派生なんだから引き入れといて損はないだろう。
開発者もいくらか増えるだろうしな。
「それに情勢は新しい何かを作ることより有る物を整える時代ですから宇宙作業用ポッドなどは必要とされる数が限られ、業績不振が続いてるようですよ」
そう言ってモニターに業界の株相場が現れる。
ここはデブリが多数あってデータ通信のやりとりはできないから予めデータを入れておいたのだろう。
「ハロの大型化でもできると思いますが……宇宙移民で雇用を確保するには無人で無い方がいいでしょうね」
「それにデブリの中では障害物が多過ぎて演算が間に合わないだろ」
全方位から飛んでくる障害物を把握して回避行動させるには無理がある。なら当たっても大丈夫なように作れば、と思うかもしれないが戦後の廃品なんて何があるかわからないからな。
「それにブルーパプワで保険業を始めるのもいいと思います」
「なるほど」
ニューギニア特別地区では既にそこそこ大きい(ブルーパプワほどではないが)保険会社が存在するので無理に手を出さなかった建設予定のサイド5は何もかも空白、衣食住を牛耳るのはもちろんだが新しい商品を始めるのは絶好のチャンスか。
「コロニーで思い出したが、連邦の空気税って高過ぎるよな。事故とか輸送費とかあるにしても」
「スペースノイドにとって一番許しがたい、反連邦勢力の拡大した最大の要因ですからね」
コロニー建設に際して掛かる費用、必要な税収などを計算したんだが、連邦が課した税金の7分の1で済む計算なんだが……ちなみにジオンだと5分の1、減税はしてるが結局利権は手放せなかったっぽい……人間とは因果なものだな。
「ジオンもジオンですよね。地球領を得て空気が安価になったのに結局やってることは連邦とさほど変わりないじゃないですか」
「美味しい利権はなかなか手放せないってことだな。まぁ俺達も上乗せする予定だから同じ穴のムジナさ」
「むー、私達は予備予算としてちゃんと計上しますよ!そもそも輸送船やコロニーに何らかの被害があった際に使う予定ですし」
「それでも民衆からしたら同じなんだよ。国ってのは民衆から金を巻き上げる悪の組織みたいなもんだからな」
「むーむー、私達は身体張って守ってるのに理不尽です!第2次オペレーション・メテオをしてあげましょうか」
「こらこら、自国に向けて何をやろうとしてる」