第百四話
マリオンズ1人とフィッシュボーン20隻が到着。
施設の規模からするとオーバーな気もするが、施設までの道のりにあるデブリが邪魔で迎撃したり押しのけたりすると巡り巡ってコロニーに被害が出る可能性があるので極力回収する方針にしたらこんな船団になったそうだ。
施設に残りたいという人間も少ないながらも居たが強制連行。
反抗的だった奴も居たが強制連行。
こんな施設でも愛着あるんだろうけど、コロニー近くに違う勢力がいると面倒なんだよな。
彼らの人数は2000、よくこれだけの脱走兵が集まって悪事を働かなかったな、と思ったがよく考えると悪事を働くにも燃料を消費する宇宙空間ではそれすらも行う余裕がなかったんだろうな。
最近の宇宙はほぼ平和で新しいデブリが少ないから余計に余裕なんてあるはずがない。
「はて?脱走兵の集まりがなんで単機で行動してた俺達を攻撃したんだろう」
「そういえばそうですね。気を抜かず警戒するように注意しておく必要があるかもしれませんね」
ブルーパプワには飛びきり厄介な敵がいるから警戒しておいて損はない。
近頃はマスドライバーの破壊工作は頻度が下がり、コロニー建設を妨害しようという動きが活発化してきている。
どうもマスドライバーの破壊工作は敵対組織が別々に仕掛けてきていたようだが、コロニー建設の妨害はアナハイム、コロニー公社、宇宙引越公社が組んだようだ。
アナハイム製モビルスーツ、宇宙引越公社の船、コロニー公社の兵という感じでそれぞれが出資している。
そして彼らがスパイでないという保証はない。
まぁマリオンズが事情聴取すれば看破は簡単なんだけどな。
マリオンちゃんが交渉の時に意識してなかったせいでわからなかっただけ……このうっかりやさんめ。
もっとも俺も気にしてなかったから人のこと言えないが。
『ダイクン派が持っていたモビルスーツの設計図はガルバルディαとジオングのものでした。これらの設計図と引き換えにダイクン派の受け入れと支援、ブルーパプワの開発参加を希望してます』
マリオンズから念話が届いた、ガルバルディαにジオングって……どういうチョイスで持ちだしたんだろうな。
ダイクン派の受け入れと開発参加は問題ないんだが……支援はどうするか、どれぐらいの規模の援助にするかにもよるがちょっとリスクねー。
正直ギレンとキシリアの妨害されたんじゃ俺達との関係も壊されるし、何より地球領をほとんど支配していると言ってもいい今の状況で反目する意味は余りない。
いや、逆に俺達がダイクン派を支援して主導することによってコントロールすれば皆がハッピーじゃないか?真面目に考えてみる価値はありそうだ。
ガルバルディαはドムIIの劣化だろうから多分大した価値はないだろうがジオングはエルメスより小型化されているサイコミュと有線制御技術の獲得できるんだから是非欲しい。
贅沢言えばゲルググNのデータが欲しかったがそれは本当に贅沢か。
「ダイクン派受け入れと開発参加はいいが、支援に関しては後日改めて返答すると伝えてくれ」
『わかりました』
「受け入れて大丈夫ですか?メイちゃんを受け入れたのはリスクよりメリットがあったからですよね?いくら設計図が手に入るとは言っても……」
「リスクが高すぎるってのは間違いないが、それは隠していた場合だろ」
「つまりジオンにダイクン派を売ると?」
「信用を裏切るほどの利があるならな。Iフィールドあたりが手に入るなら即日売却だが……それにダイクン派を受け入れることにも利はある」
ダイクン派を受け入れて売らなかった場合のメリットは『信頼』だ。
今まで得た戦場での『信頼』は何で返ってきたか、無駄な人死の減少、大量の捕虜と鹵獲兵器である。
では今回の場合の『信頼』で何が返ってくるのか、それはキシリアもしくはその周囲、ギレンもしくはその周囲の者達が勢力争いに破れた場合の逃走先としての選択肢……を提供することが可能になる。
ダイクン派を受け入れたり支援されるというのはザビ家にとっては許しがたいことだろう。だが、自分が敗れた時俺達に擁護、支援してもらえるという意味でもある。
俺達はまだ世界で見れば特殊であっても、それほど大きい会社ではない。
しかし、武力という意味でなら世界最強だ。そこに守ってもらえるための条件なら安いものだろう。
「なるほど、ジオンは今緊張状態ですから、そこを突くんですね」
「そういうこと、この状態はおそらくどちらかが死ぬまで続くだろうしな」
更に言うと俺達が擁護するとなるとどちらの勢力にしても実質的には傘下に入るようなものだから人材GETという、損がない流れになるわけだ。
「さすがブルーニーさん、腹真っ青黒い!」
「なんだその新しい言葉は」
「ブルーニーさんは基本的に蒼くて黒くないので——」
「そんな解説は求めてない」
真面目な会話をしながらも喰い続けている俺達。
燃料はとうとう50000を突破して100000に到達しそうな勢いだ。
それだけ喰ったのにデブリは一向に減った気がしない……いや、違うか、どうも俺達の変換効率が良くなっているのか……もしかしてヤマトを喰った時からか?
「そうみたいですね。ログを確認してみましたがヤマトを摂ってから大体2倍ぐらい効率がよくなってるようです」
最近知ったんだが燃料の数字や喰った物の燃料変換率などが俺の中にログとして記録されてコクピットのモニターでマリオンちゃんも見ることができるようになっていた。
まだまだ自分でも知らないことは沢山ありそうな予感。
「まだまだあるがこれほど一気に喰うとさすがに飽きるな」
「じゃあ昼寝でもしますか?」
「宇宙空間に昼寝も夜寝も関係ないだろ……それよりやることがあるだろ?」
「なんでしたっけ?」
「秘密基地作りだ!」
「あ、そうでした!そのために邪魔なコンテナを運んできたんでしたね」
そう、俺達が打ち上げた時入っていたコンテナを今の今まで面倒ながら運んできたのはちょっとした秘密基地作りをするためなのだ。
宇宙に自分達だけの拠点があったら便利だと思ってのことだ……そして本来はこの流れだったという気がする。(プロット段階では宇宙海賊の拠点をサイド5に作ってデラーズと協力する予定だったりした)
何より……秘密基地って憧れない?
「早速手近にある隕石を調べて回りましょう」
「手頃なものがあればいいがなー」
この秘密基地作り、意外と難しいと判明した。
隕石は結構あるんだが丁度のサイズがなかったり、構成されている物質が強度不足だったりでなかなか優良物件が見つからないのだ。
大き過ぎると目立つし、コロニーができたら鉱山隕石として使われる可能性もある。小さすぎると手狭感が否めない……ああ、でも秘密基地だし手狭な方が実感があるか。
後、自身を改造用&食材生産設備やとか置ければ最高だな。(これもプロット以下略)
「あ、アレなんてどうですか、丁度いい大きさだと思うんですけど」
「そうだな。……よし、構成物質も問題ないようだしアレにするか」
こうして秘密基地の建設を始めたわけだが……完成するのにそれほど時間は掛からなかった。
正直既に運んできたコンテナ自体が小型基地の役割を果たすようにできているから削岩して設置するだけの簡単なお仕事だった。
削岩作業はメガ粒子砲とビームサーベル(両方出力調整済み)でやったから早い早い。
後はハッチを設置してパッと見てわからないように偽装すれば完成だ。
「……思った以上に簡単でしたね」
「だな。俺達以外のモビルスーツを駐留させるわけじゃないから必要最低限の設備で問題ないからな……」
「ちょっと虚しいですね」
「……だな」
まぁよく考えればブルーパプワの前身が秘密基地みたいな存在だったな、と作ってから思ったわけだが……気にすまい。
しかしモビルスーツ生産設備は欲しいな。好きな物を好きな時に喰えるのは魅力的だ。
そうなると人は最小限にしなくてはいけないから……やはりハロか?ハロだけでモビルスーツは作れるほど進化するだろうか、今でも手助けはしているがやはり人の手が必要だし…ブルーパプワに帰ったらアムロとメイに相談してみるか。
とりあえず、今できる範囲で完成したわけだから……寝てみる。
「案外落ち着くもんだな」
「そうですねー……最近はいつも実体化した状態で休んでますから気づきませんでしたけど、やはり私の本体はこちらだと実感します」
ブルーパプワを起業してからはハードワークが続いていたし、戦場で暴れることも上手くいかないから思った以上にストレスを抱えていたのかもしれん。所詮元人間ということか。
漂流物がぶつかる振動を偶に感じるが、それもまたよきかなよきかな。
「あー……ブルーパプワのことはマリオンズとシーマ様達に丸投げしようかなぁ」
「……ブルーニーさんのニーはニートのニー?」
「もうそれでいいかも」
1年経てばマリオンズが1人増え続ける。
後10年経てば26人のマリオンズが投入可能になるわけだ。
そこまで行くと世界征服だって夢じゃない……まぁ武力で押さえつけるだけだから叶わんだろうけど。
何にしても俺達の価値は相対的に低下するだろう。
「老後生活はここで過ごすかな」
「老後っていつでしょうね」
「いやー、俺達は一年戦争中盤にできた旧式だからあっという間だろ」
進化し続けるけどな。
偶には戦場に出て活躍しないとニューギニア特別地区に迷惑かけるかもしれんけどな。
『重要事項につき報告します。南中国からマリオンズの派遣要請を来ましたがどういたしますか?』
「南中国は戦線を維持するだけなら問題なかったはずだが?」
『それが南中国はなんとしても上海を落としたいと』
気持ちはわからんでもない。
元々ジオン地球領に雲南省の南側、広東省、海南省、広西チワン族自治区を取られているため南中国自体の領土が少ないため領土拡大をしておきたいのだろう。
比較的攻略が簡単なのは北中国と東中国が争っている中央で、漁夫の利狙えばいいんだけど……下手に中央に手を出すと両軍から袋叩きに合う可能性が高い。
西中国はティターンズの支援が本格化して南中国が手痛くやられたので及び腰、しかも攻めるにしても自然の要害のせいで攻めづらい。
となると残るは東しか無いわけだが……こちらは日本が主導の連邦補助だからまだ攻めやすく、連邦も本格的参戦はしていない上に北中国と激戦の真っ最中、攻める好機と思うだろうが……南中国のやつら、自分達の軍の状態ちゃんと把握してるんだろうな?
二正面作戦なんて不可能だろ。
『それがどうやら東中国の連邦は最近できた反ティターンズ派ブレックス・フォーラ准将が主導しているで、西中国、つまりティターンズに邪魔な存在の弱体化を図るために内密和議を結ぶようです』
南中国の欲と西中国の思惑が一致したから協力しようぜ、ということか。
まぁ俺達を無視して独走しなかったことは褒めてやるけど……今の戦力では占領も怪しいだろうに。
「侵攻を来月にするなら考えてやると伝えてくれ、それまで戦線拡大させたら話は無しだ」
『了解しました』
来月にしたところで『考えてやる』だけかもしれないけどな。