第百九話
コロニーの試運転再開、今回は順当なようで特にトラブルはない。
よく半月で改善、修繕したもんだ。
とりあえず、後半月ほど運転してみて問題が無ければ空気を充填して一部を農業コロニー化して見る予定だ。
試運転が上手くいったからといっていきなり人間を移住させようと言うのは無理、でもそのまま運転し続けて問題なかったらもったいないということでこうなった。
農業コロニーはほぼ無人運営が可能だからこそ行えることだな。
多少経費が掛かるが、データが多く取れるので目をつぶる。
中国の情勢は……微妙な空気が漂っている。
戦闘自体は小康状態、本来なら北南中国が東中国に総攻撃を仕掛けているはずだった。
だが、ここでティターンズのジャミトフと連邦のブレックスが秘密裏に会合した結果、西中国は北南中国への物資補給をやめてしまったのだ。
それだけならまだ形勢有利な北南中国であるから攻勢に出ただろう……だが、そこで日本軍大規模派兵の情報はそれを踏み止まらせた。
日本政府はこの派兵に乗り気ではなかった。まぁ軍を動かすのには大量の物資が必要で、金も同じくだ。
無理をした軍拡をした影響で経済はダメージを受けている日本政府が乗り気なわけはない、ならなぜ派兵、しかも大規模なものを行ったか……それは連邦の圧力だ。
現代のアメ公は日本に対して色々圧力を掛けるがそれとは少し違う。簡単に言ってしまえば、他の地域は前大戦で血を流したんだから、お前らも少しは血を流せ、ということなのだ。
前大戦で日本は、中国がジオンに落とされた段階ですぐに条件降伏したことが連邦は気に食わないのだろう。
八つ当たりと言えばそれまでだが、それだけ連邦は血を流したことにほかならない。それでも大戦に勝利していたならまだ良かったろうが結果は敗北、なおのこと気に入らないのは間違いない。
そして今回、中国と行った戦争で溜飲を下げると思っていたが……俺達の介入で思った以上に軽い損害(日本からすれば死活問題なんだが)で更に戦いを強要したわけだ。
幸い日本の派兵で北南中国は躊躇したおかげで被害らしい被害はないが……これからどの勢力もどう動くのかもわからない。
とか思ってたら——
「ちゃんと連絡くれるとか、さすがはジャミトフ。手回しがいいとは思わないイーさん」
『久しぶりの挨拶がそれか……まぁお前らしいがな。閣下がブレックス・フォーラと会談をしたのは知っておるな』
「もちろんだ」
『では簡単に決まったことを伝える』
ティターンズが物資の提供を止める見返りに、西中国に駐留、監視を認める。まぁつまり西中国をティターンズの勢力下に加えていいというお墨付きを得たわけだ。
そして連邦……正確にはブレックスの要求は南中国と北中国の歩調崩しらしい——って
「まさか俺達に連絡してきたのはそれか?!」
『察しが良くて助かる。ジオン地球領はほぼおぬしの手の内であることは公然の秘密じゃ、ならその属国に近い南中国もそれに等しかろう』
会談の内容報告じゃなくて取り成し要請だった件について。
超絶めんどくせぇ。
「対価は」
『連邦にSFSを導入するように——』
「アホタレ、そんなもん対価になるかい。そもそも将来的には導入しないといけなくなる兵器だ。次!」
『ティターンズでおぬしらが新しく作っておるドートレスというモビルスーツを買おう』
「もちろんSFSの件も込みの話だよな?」
『欲張りおって……わかった。それでよかろう』
ドートレスをどうやって売り込もうかと思っていたがこれで解決。
SFSの大量受注で仕事にも当面困らない、取り成しが面倒だけどねー。
『それとティターンズの方でSFSの追加注文を出しておく』
「四川省の山越えようか」
『その通りじゃ、天然の要塞とはよく言うたものじゃ』
モビルスーツを移動させるのに輸送機を一々飛ばしていたんじゃ面倒な上に費用がかかるよな。撃ち落とされるリスクも問題だよな。
その点、SFSは確かに優秀だ。
機動力もあり、撃墜されても1、2機で済む、SFSが落とされたとしてもモビルスーツは無事という可能性もあり、反撃も容易だ。
地球圏内では、だけどな。
『では頼むぞ』
「了解……さて、シーマ様とノリスに丸投げするか」
「さすがブルーニーさん、豪快な投げっぷりです。尊敬します」
いや、尊敬はしない方がいいと思うぞ。本人がいうことじゃないけど。
「南中国にもなにか美味しい餌がいるよなぁ」
「ペットのしつけには餌付けが一番ですからね」
よくわかってるな、正直中国はパグやブルドック、フレンチブルドッグのようなもの(ブルーニーはブサイクが嫌い)だから自分で買いたくないが隣人のペットなら我慢できる。
「という訳でお二人さん、よろしく頼むよ」
『『また面倒なことを』』
最近本格的に逆ハーを目指そうか悩んでるシーマ様はともかく、ノリスがこういうことを言うのは珍しいな。
それだけ南中国は面倒なのか?
『南中国が、ではなく、勝利目前の軍を止める、妨害することが難しいのです』
そりゃそうか。
「そこで問題、南中国の視線を逸らすor納得させるための餌はなんでしょう?ちなみに答えは求めてない!」
『『ちょっと待——』』
きっとあの2人ならどうにかしてくれるだろう。
そうそう、最近あることに気づいたんだ。それは俺達が生産……というか発射してるハロのことに関してなんだがどうやらコクピットでハロのシステムが書き換えられるという新事実。
何が言いたいかというと……サイド6のハロ生産工場いらねーってことだな。
治安維持用ハロも多目的ランチャーで生産できるんだからな。まだ試作段階の農業用ハロにも問題なく書き換えれたから生産設備が大幅に減らせれる……んだけど雇用が減るから止めとく。
それに何処で生産されたのか怪しまれても困るしな。
あれから1週間経った。
そして予想してなかったことが起こる。
「まさか、西と東が北を攻めるとか……」
東中国はともかくとして西中国の裏切り方はちょっと問題ないか?……あ、物資補給してたからそう思うだけで『誰の味方でもない』ロシアが後ろ盾だから仕方ないのか、つまりこのままロシアに北京取らせると面倒だから元鞘したわけね。
北中国のピンチに南中国は……動けない。
ジオン地球領に正式に連邦から要請があった。
南中国が北中国を助勢するようならそれを阻止して欲しい、と。阻止報酬は南中国自体という太っ腹なものだったので引き受けたようだ。
ただ、行動を起こして阻止してこその報酬なのでおそらく属国扱いになる予定だ。
そしてこの要請自体は南中国にも伝えてあるので動きたくても動けない状態に追い込まれている。
まぁ実はジオン地球領は南中国に自軍の兵器も売っぱらっていたため戦力は少なく、兵器の充実具合も悪かったりするんだが……究極戦力である死神の鎌が駐留することで戦力差?なにそれ?状態に。
「北中国フルボッコですねー。ロシアもこれ以上利益がないと引き上げてますし」
「北中国終了のお知らせ、だな。最近毎日来てる死神の陽炎への仕事依頼がやっと終わるかと思えば清々しい気分だな」
居留守使うのもなんだからちゃんと対応してたわけだけど……報酬が兆を超えた時にはちょっとグラついたのは仕方ないだろ。
一瞬マリオンズを向かわせそうになったよ。でもよく考えたらそんな高額報酬が払われるかという疑問もあるし、何より多分マリオンズを派遣したところで補給が維持できないだろうから敗北しかないと思うんだよ……だから毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日連絡してくんの止めてくれませんかね?
報告を受ける俺達もしんどいけど、直接受けてる人がストレスマッハで入院したらしい……見舞金でも包むかな……いや、あいつ、俺達が報告いらないって言ってるのにわざわざ報告してくるような奴だからいいか。
「北中国が終われば和平か、最近中国内部の民衆が反戦気運が高まってきてるからちょうどいいか」
「ええ、もうそろそろ革命が起こりそうな雰囲気でしたからね」
革命……ねぇ?十中八九下克上するだけで体制は変わらないんだろうなぁ。
それに本当の名家ってのは残るもんだからな。袁世凱とか汝南袁氏、袁紹ざまぁや袁術の子孫らしいからな。中国だから信憑性はどこまであるか知らんが。
「中国利権は結局南中国だけかぁ、連邦も日本もティターンズも中国から搾り取ろうって考えてるだろうから仕方ないけど」
「韓国も結局連邦に賠償金を支払わされた上に随分利権を奪われたようですね」
韓国の利権ってなによ。正直中国から比べたら無に等しいだろ。
そういえば連邦は韓国は昔日本の領土だったってことで合併しようと提案したが日本は全力で拒否ったらしい。
そら、反日教育をされている国なんて貰っても困るよな。
そして2週間が経過、北中国終了。
随分頑張ったと思うが、最後は内部から崩壊していくあたりさすが中国……って敗北必至なら別に珍しくないか。
そして中国大陸には平和が訪れた。
「とは言っても北中国の分配で東西がまだ争ってるんだけどね」
「兵器ではなく、言葉と拳なだけマシだと思いますよ」
まぁ、平和っちゃ平和だな。殴り合いで死人出てるし、毎回毎回代表メンバーの何人かの姿が消えるけども。
「さあ、俺達の商売もまだまだ先があるからな」
「そうですね。戦争が終わると暇と思ってたんですけど」
今俺達はブルーパプワにいるが、実は帰ってきたのは4日前なんだよ。
それまでずっと宇宙でゴロゴロしてた……というのは冗談だけど、コロニーの建設を手伝ったり海賊退治をしたりと割りと忙しかった。
アプサラスIVが自由になったので入れ替わりに帰ってきたのだ。
これで手数が一気に増える。なにせ宇宙ではアプサラスIVの可動式ビーム砲はファンネルになるんだからな。
80機のファンネルが襲い来る光景は俺でもちょっと怖い、それが一般兵は絶望すること間違いなしだ。