第百十話
今回の戦争は公式的には日中戦乱騒動という珍妙な呼称が付いた。
連邦内での戦争なんで厳密には内乱というのが正しいのだが……これを内乱にすると連邦の威信()が失墜するから事件的な呼称で濁したんだろうな。
何にしても戦争は終わったわけだが、今回のことで一番得したのは間違いなくアナハイムだろう。
今まで1年戦争のせいで地上への影響力が弱まっていたが、それもここまでだ。再び地上に舞い戻ってきた。
次に得したのは俺達だろうな。
南中国を実質的に手に入れた上に、日本の水軍利権にも喰い込めたし、連邦にはSFS、ティターンズにはドートレスを売ることが決まった。
ドートレスは中身がガルバルディαなのだが、部品などはジムクゥエルと互換があるのでもしかすると主力兵器の座を……ああ、でもアナハイムが連邦版ドムIIを押し売りに来る方が早いかも。
そして戦争に参戦した中で(俺達は一応参戦してたけど企業だからさ)一番得したのはティターンズだろう。
目立った損害なく、西中国……例え田舎であったとしても本格的な勢力基盤を手に入れたのだから。
アナハイムのように兵器を売って利益をあげ、日本と中国に影響力を残した連邦も勝ち組……に見えるが実際は連邦『軍』のライバル関係にあるティターンズの勢力拡大させてしまったため連邦『軍』の最大派閥のトップであるコーウェンは苦い思いをしているに違いない。
一番損をしたのは日本だ。
多大な国債を発行し、中国から比べると10分の1以下の人口を消耗し、連邦(他地域)に借りまで作り、身近な貿易相手とは険悪化し……これに関しては東中国という市場を確保したように見えるがパイが小さくなってる……俺達のクーンは無理やり押し付けられるように買わされる。
中国はそもそも分母が大きく、損害を出しても20年ぐらい掛ければ回復するだろうし、そもそもコロニーに放り出した中国人を呼び戻せばアッという間に元通りだ。
利権は他国に多く売り渡した……ように見えるが、中国vs日本から分裂戦争になったことにより引き渡す予定だった利権が各分裂国家のものになってしまったせいで不渡り気味でウマー状態らしい……がそれで仕入れた兵器の半分以上はアプサラスに鉄塊にされてるらしいけどね。
「しかもティターンズの介入があったにも関わらず、当事者同士で解決したってんでペナルティなしって……それでいいのかね、連邦さんは」
「日本も中国も軍備が充実してるので手出しは控えたんでしょう。それにティターンズ、いえジャミトフさんも新たに得た自分の基盤にいきなりのペナルティは嫌だったんだと思います」
ジャミトフさまさまだね。
さて、ひと通り情勢を把握したところで俺達がやらなければいけないことを話し合う。
「まずは工業力の充実を図るため南中国への投資を重視すべきかと」
「お言葉ですがアイナお嬢様、それより先にベトナムやインドネシアへ投資してはどうでしょう。MIP社単独で経済を支えるには限度があります」
「ニューギニア特別地区的には南中国がこちら側になったんだからベトナム、インドネシア、ニューギニア特別地区のシーレーンの治安維持に力入れたいねぇ。南中国からの物資が今まで以上に流れてくるからはずだからさ」
「シーマ様が言った通り治安維持は問題だと思います。クーンの配備数が少なく、海上警備の手が足りません。まずはクーンの生産をすべきかと、それとジオン地球領からもう少し負担をお願いしたいですな」
「ハロの開発者を増やして欲しい!」
「アムロくんいいこと言った!」
「いや、ここはやはりアプサラスの開発を——」
みんな好き放題言ってくれるな。
ちなみに上から順に、アイナ、ノリス、シーマ様、コッセル、アムロ、メイ、略。
年始に決めた方針はあくまで戦争が終わるまでの方針で、平時に戻った現在は新たに方針を決めなければならなくなった。
とりあえず——
「ハロ開発は後2ヶ月もすれば援軍が到着するだろうから待て、ベトナムとインドネシアとは貿易量を増やすことでしばらく持ちこたえろ。南中国の工場投資は3倍額を投入する。シーレーンの安定は……そもそも兵器工場が手一杯だからなぁ」
ハロの援軍はダイクン派の合流だ。
ソフト開発はもうそろそろ終わりを迎えるはずだが、デバッグ作業に忙しい。人が暮らす大地を創る重大な役割なので手抜きなく、慎重にしなくてはならないので余裕をもって2ヶ月後と伝えた。
ジオン地球領にはブルーパプワの支部ではなく子会社がいくつかある程度しかない。
最大外社がMIP社であるにも関わらず、どうやら現地住民と上手く溶け込めないようで悪戦苦闘しているようで、空気が悪いらしい。
中国が分裂したおかげでコロニーに展開していた中国製品が縮小され、俺達の商売の機会が増えそうなので輸入量を増やせば、現地企業の底上げになりMIP社との摩擦も減るだろう……多分。
ブルーパプワの工場は戦争が終わったにも関わらずフル稼働状態である。
1にクーン、自国向け生産でもあるが日本に向けだ。
2にドップブースター、南東中国向け。南は当然として、東は日本からもらった利権の一部。
3にSFS、連邦とティターンズ向けに、これが一番利益がない(消耗品だから値段が抑えられてる)のに一番発注で困る。
4にドートレス、これは約束通りティターンズへ。
5に治安維持用ハロ、とりあえず南中国へ。
6にジェニス、地球領が中国にモビルスーツを売って在庫処分したことにより新規更新として配備する予定。
これだけの生産を俺達だけではなかなかできない、そもそもドップブースター利権を一部MIP社に回しても足りないんだよ……というかMIP社もズゴックIIの生産もあって大忙しだからな。
「そういえばノリス、ティターンズが中国を攻めた時に喰い止めた部隊に関しての情報はわかったか?」
四川省から重慶へ攻め込もうとした時に喰い止めたジオン地球領からの傭兵部隊のことだ。
もしかしたらシャアではないかと思って調べさせたんだが。
「すいません、調べてみたんですが素性がわかりませんでした。わかっていることは間違いなく地球領から派遣したことと他に何名か行方しれずになっていることです。そちらの素性は割り出せています」
データを渡されたのでチェックしてみる。
…………?!こいつら、名前違うけど間違いなくアポリーとロベルトだ。ということはやはりシャアが動いたか。
今地球にいるんだな。時期的に考えてアクシズに行ってない可能性が高いな。つまりハマーン様ではなく、はにゃーん様のご降臨か?!
ん?あれ、こいつ……もしかしてレコア・ロンド?やっぱり名前違うけど間違いない。
でもレコア・ロンドって確かZで23歳だったはず、Zが0087で今が0082だから18歳、出身は月だったはずだから——ん?もしかして出身地が月っていうのは偽装か?それなら地球にいてもおかしくないか。
ああ、連邦って極端に女性兵士が少ないから納得といえば納得だけど……つまり、随分前からシャアに片思いだったわけか?そりゃ寝返りたくもなるか。
…………ん?ララァさん、生きてますよね?まさか三角関係か?NTRか?修羅場か?もし妾、愛人なんかにしてたらヌッ殺す。
「ノリス、サンキュー色々わかってきたわ」
「お役に立てたなら幸いです」
この人、本当に家臣とか家老とか似合い過ぎだろ。
さて、金髪さんへの報告どうしようか、この程度の情報でも知りたがるだろうか?……まぁホウレンソウは大事だよな。
まぁ俺達は基本ホウレンしかしないけど。
ただ、ダイクン派を集めている関係上、あまり秘密は漏れて欲しくないなぁ。
「他に意見は」
「アプサラス——」
「そういうのは設計図出来てから言え!ジオングの解析で新しい技術投入するって言ったのはお前だろう!」
「う……む」
「他には」
見回すとノリスが挙手したので発現するように促す。
「肝心なことを報告するのを忘れるところでした。アナハイムから地球領にドムIIの導入を勧められています」
おおう、なかなか爆弾を落としてくれたな。
とうとう俺達の利権に手を出してきたか……さて、どう対処したものか。
「地球領の企業でアナハイム傘下のものはどれぐらいあるかわかるか」
「大体10%ほどかと」
輸入商品とか考えるともっとあるよなぁ。
断るのは首を絞めるか?しかしモビルスーツが足りない今は頼ってもいいかもしれない。
「……わかった。100機程度購入してもいい。生産が間に合っていないからな」
「先方にはそのように」
ドムIIはコスパがいいから困る。
実は共通規格部品の応用でどうにかするのはそろそろ厳しくなってきているようなのでドートレスとジェニスの部品を共通規格部品にしようと調整中だったりする。
もちろんジオン本国、地球領込みでの調整だ。
これが成功すれば単価はドムIIと五分かそれ以下にできるはずだ。
『そういえば裏稼業で手に入れたドムIIはどうします?』
まさかのサイド6に居るマリオンズから発言。
『在庫はどれぐらいあるんだ』
『確か新品が1000機、新古が690機です』
想像以上の成果だ。
とはいえ、地球領に配備なんかしたら数が合わないとすぐバレそうだな。
『紫ババァに少し安めに売ってやれ、あそこなら気づかれないだろ』
『わかりました。でも気づかれたらキシリアさんが大変そうですね』
『その時は宇宙海賊から買ったと素直に言えとも伝えとけ』
『了解です』
これで資金に余裕ができるな。
サイド5への投資しないといけないし、地球領にもか……金っていくらあっても足りないって本当だよな。