第百十三話
宇宙海賊ごっこをすべく、宇宙にやって来ました。
行程はサイド6に寄ってからサイド5に行き、そこから月と他のサイドへの航路上簡易拠点を作り、海賊ごっこをする予定だ。
あ、そういやチョバムアーマーのカラーリングはなぜか好きなように指定することができるようなのでちょっとした気分転換に色々変えてみたんだが……せっかくなんで目立つようにレインボーにしてみた。
これで敵からも一発でわかるし、誰かと被ることはないだろ。
「ブルーニーさん……センスないです」
「いや、マリオンちゃんのゼブラもどうかと思うぞ」
「いえ、あれはパンダカラーです」
どっちでもいいがな。
しかも海賊がパンダ(警察用語(?)でパトロールカーを指す)とか皮肉過ぎる。
「ゼブラよりパンダの方が縁起がいいと思いますよ。客(海賊)寄せパンダ的な意味で」
若干保護色になってるから却下で……それに敵にネタが伝わらないって。
ちなみにレインボーは見る角度によって見え方が変わる仕様だったりするが余談だな。
「さて、サイド6に入ったが……フラナガン機関から嫌な気配がするな」
「私はムラサメ研究所にいるマリオンズ経由で経験を積んだので慣れました」
俺がニュータイプとしてのレベルが上がったからなのか、別の要因からなのかは分からないがニュータイプ研究所からは強化人間達の苦しみや狂気、怒りや悲しみなどが感じられる。
迷惑料を払って欲しいと思ってしまうほどだ。
それにしても——
「マリオンちゃん達は辛くないか?今まで俺が好き勝手してきたがマリオンちゃん達は——」
「辛くありませんよ。私は、私達も好きでやってることですから」
「そうかもしれないが余計な辛さまで負ってないか、なんだったらマリオンズをニューギニア特別地区へ——」
「私達はブルーニーさんと一心同体なんです。遠慮は入りません」
遠慮ではなく、大事に思っているんだが……それもわかった上で言ってるんだよな。
「ありがとう」
「こうやって気遣ってもらえるだけで私達はやる気が漲りますよ」
『『『『『その通りです』』』』』
おおう、マリオンズ皆からの念話はちょっと頭に響く……が、悪い気はしないな。
「これからも頑張ろう」
「『『『『『はい』』』』』」
とは言え、気分が悪いのは変わりないので早々にサイド5に向かうかな。
助けようなんて思わない、と言うかそんなエゴで助けるぐらいなら戦争で人殺しなんてしてないっての。
だから安らかに成仏してくれ。
「いえ、死んではいませんよ。……まぁ死んだ方がマシかもしれませんが」
人間として死ねない、死んでも解体されホルマリン漬け、誰かに悲しまれることもなく、存在すら希薄な存在、でもそれは人間が喰ってる肉と何が違う。
さて、補給を終わった?
「はい、すぐに向かえます」
支部にも顔を出したかったけど、俺がニュータイプ能力に慣れるまで待ってもらおう。
「そうですね。無理してあってもマリオンズも嬉しくないでしょう」
それにしてもミライ級でこれだけの能力があるのか?シドレ級の時とは違いが有り過ぎて……もしかして変な感傷に浸ったのは能力のせいかもしれない。
「おそらくですけど能力を得て間もなくですから感覚が鋭敏になっていて、いつもなら見過ごす程度でも感じてしまったのだと思います。フラナガン機関からの気配は周辺の一般人をなんとなく苛つかせるほどのものですからブルーニーさんが感じても不思議はありません」
なるほど、怨念って本当にあるのかもしれないな。
サイド6を出て、海賊に2回ほど襲われ、片方はブルーパプワ所属だったというネタのようなことがあったが通信入れて追い返した。
ちなみにまだチョバムアーマーは装着せず、撃退している。フルアーマー状態はあくまで海賊衣装だからさ、露出はちょっと。
さて、サイド5についでの荷物を届けて秘密基地第2弾を建築するためのコンテナを抱えて月へ来たわけだ。
裏稼業組からアナハイム社の航路情報を貰っているからそこで待ち伏せ……と言うのは面倒な上に暇なので月の衛星軌道上を廻っていた小惑星を基地化して月を監視して後を追いかけて狩る予定。
秘密基地を捕捉されると邪魔されそうなのでミノ粒を散布して作業をしている。
まだミノ粉を逆探して位置の特定をするまでには至っていないのでこれで安全、作業を捕捉されなければ大体の位置を把握されたところで、こんなところでまさかモビルスーツ単機で行動とは思わないだろうから発見はまずされない。
2回目の建築だから前回よりは早くできたのにちょっとだけ満足。
「よし、後は——」
「待つだけですね」
これから暇という名の苦痛の時間——かと思ったんだけど、アナハイム社の規模を見誤っていたらしい。
月から止めどなく輸送船が次々出てくる。航路計算をしてみるとサイド3、サイド6に3割ずつ、地球と他サイドで計3割、正体不明が1割……さて、正体不明の船は何処に行ってるんだろうね。
「航路的には……サイド4、つまりL5の方角ですね」
そういやアナハイムってコロニー持ってたような気がする。
多分隠しコロニーでも持ってんだろうな……もしくは建設中か?
「よし、正体不明を尾行してみるか」
「了解です」
チョバムアーマー……装・着!!
ただしレインボーは尾行に不向きだから黒色に変えておく。
尾行すること3日間、遠回りしたり色々してたが到着したのはサイド4、つまり直線で行くのと結果的に変わらなかったわけだ……面倒なことしやがって。
そしてそこには建設中のコロニーが3基、俺達はやっと1基作り終えたのに3基同時建設だと?!
さすがアナハイム・エレクトロニクス。
「これはコロニーを仕掛けるべきなのか、それとも輸送船を狙うべきなのか」
「コロニーを襲えば建設をやめる可能性があります。逆に言えばコロニーを襲いさえしなければ建設を止めるとは思えません。つまり輸送船を狙えば、継続的に獲物が送られてくると思います」
なるほど、兵站と同じ原理だな。前線に補給を届けるために、多少襲撃されるリスクがあろうとも補給を滞らせるわけにはいかない。
よし、ならば輸送船を狙うか。
……とは言え今回の輸送船は既にコロニーの近くにいるから見送るけどな。
輸送船の帰りに美味しくいただこう。中身が無いとはいえ、いくらアナハイムとはいえ輸送船だけでもわりと痛いだろうしな……50隻の船団が帰ってこなければ。
さて、輸送船団も出てきてコロニーからも離れたし、そろそろ襲うか……ってなんか船団がバラけ始めた?!こちらを捕捉したようではないので恐らくバラけて月へ帰るつもりなのだろう。
バラけたら面倒になるので早々にカラーをレインボーに変え、天頂から船団に突撃する。
「輸送船団のセンサーがそこそこ良い物を積んでいるようですね。気配が慌ただしく動き始めました」
「そうか、じゃあ今回はマリオンちゃんに任せるから頑張ってくれよ」
「はい!」
せっかくなんでマリオンちゃんの経験値稼ぎということで頑張ってもらおう。
……マリオンズも同じように強くなるので俺の出番が更に減るんじゃないかという危惧があるがマリオンちゃんの可愛さからしたら微々たるものだ。
「ほぉ、一応護衛のモビルスーツは連れてきているんだな」
「ドムIIが10機、軍の輸送護衛なら少ないですが民間なら相当多いですね」
まぁ1機軽く30億は超えるからなぁ。
それを私有した上で海賊行為に使えるってんだから本当にアナハイム以下略
「わかってると思うが今回は1機落としたら最低3回は攻撃させること、それとコクピット焼き禁止だからな」
「はい!」
マリオンちゃんが本気に慣れば種死の攻撃的自由さんのように一方的な戦いが可能なんだがそれをやると死神の鎌、つまりマリオンズだと勘がいいものは気づくのでそれ対策だ。
ドムIIの動きをみるに、素人以上戦争経験者未満、多分だが鬼のようにシミュレーションと模擬戦をしたパイロットだろう。
恐らく新米と見て間違いない。
そんな奴らにこのような手加減がいるかどうかわからないが、念には念を、だ。
こちらがレインボーで見え易いからだろうか、ビームライフルの命中率が高い……が、それは逆に言えば躱しやすいということでもある。
マリオンちゃんは前進を止めずにあえて装甲で受けつつ、間合いを潰す。
「まずは1機——」
ビームサーベルで股下から頭まで引き裂く。
さすがチョバムアーマー、ビームライフル程度では表面の塗料が若干溶けたぐらいで、この程度ならものの数秒で完治するだろう。
やっぱIフィールドいらない気がしてきた。
それは置いとくとして、まとまっていたドムII達はそれを見て接近戦はヤバイと踏んだのか、牽制にビームライフルを放ちつつ距離を取る。
……牽制されると最低3回攻撃されるの意味なくなるんだけどなぁ。
「そこ!」
今度はあえてドムIIを攻撃せず、輸送船のエンジン部を撃ちぬく。なかなか憎いことするねぇ。
そうすると慌てたように不利と思われる接近戦を3機ほど仕掛けてくる……が当然敵うわけもなく。
「1、2……3!」
数えているのは撃墜機数ではなく、攻撃された回数だ。
そしてまた1機、俺の拳によってコクピットが潰されお陀仏する。
焼くのは禁止したけど殴るのはいいってことじゃないんだけど……まぁルール違反してないからいいけどさ。
3回攻撃をさせるのに時間が掛かったが無事全機撃破、輸送船25隻撃破、拿捕(喰ったけどな)することに成功した。
ちなみに乗組員は月まで投げておいた。
運が良ければ酸素は持つだろう……騒いだり無駄に動いたりすると保たないけどな。