第百十六話
シャアを助けるべきか否か……答えは直ぐに出た。
助けない。
そもそも助けを求められていない、それになにより——
どういう思いがあろうと、どういう意味があろうとマリオンちゃんを怖がる奴等など助けはしない。
戦場でなら許す、殺す気であった場合も同様。
だが、平時の今交渉に来ているにも関わらず怯えるなんて、許さん。
幸い俺はポーカーフェイスならぬガンダニュウムフェイスだから表情が読み取られること——あ、ララァはニュータイプだから悟られるか?
別にいいけどな、知られても問題ない。
そもそもシャアなんて抱えたら、それこそ逆襲フラグだろ。
カリスマを持つ者は本人の意思に関係なく、周りが放っておかないのだから面倒だ。
例えそれがガンダムさんっぽいシャアだったとしても、だ!
それにブルーパプワにはダイクン派も多くいるから火に油というかC4レベルの爆発が予想される。
シーマ様もカリスマを持っているが、アレは某忍術学園の食堂のおばちゃん的なものだ。
「赤い彗星が燃え尽きたのはともかくとして、今回はなんの御用かな?」
「あ、忙しいようですから僕達は外へ出ますね」
「話が終わったら連絡をする」
ちょっとした含みがあるんだが、気づくだろうか。
一瞬なんのことかわからなかったようだが次に密かに頷いて出て行くアムロとよくわかってないメイが部屋を出て行く。
「先ほど言った通り、私は今エゥーゴに在籍している。これからティターンズと戦うこともあるでしょう。ですからいくらかモビルスーツを都合していただきたい」
「それは私達がティターンズと繋がりが強いことを知った上で言ってますか」
凄く真面目な発言しているが——ネコのように俺の膝の上でマッタリしながら言っても格好はつかないな。
「無論知っている。しかしティターンズに対抗するための組織とはいえ、同じ連邦の組織である以上問題はないでしょう」
どうもシャアって交渉術がなってないな。
ジャミトフにしろイーさんにしろコーウェンにしろギレンにしろキシリアにしろ、俺達を内心ではどう思ってるかは知らんが少なくとも表面では自分達より強者として扱い、ある種の敬畏があった。
シャアの言動は自信があり、それは相手を動かそうという意気込みがある。逆に言えば相手に強要させようとしているフシがある。
どーもペットに舐められてる気がして気分が悪い……いや、ペットですらないから気分が悪いのか。
まぁ、ものすごく自分のことを棚に上げてるのは承知の上だ。
「いいだろう。希望の商品は」
「ドートレスと同等のものを200機、それと同じ数だけのSFSを……それとアプサラスIVも欲しい」
またアプサラスIVか、気持ちはわかる。恐らくニュータイプとしてレベルが高いララァがいるからなんだろうがそれでも力不足だ。
ここで役不足なんて使ったら総ツッコミを受けるので気をつけるように。
「アプサラスIVはやめとけ、ララァを乗せても寿命は30分、長くて1時間だ」
おっとちょっとイラッと来たか?マリオンちゃんに確認するようにチラッと顔を見けると頷いている。
俺達は念話で会話……しなくてもこれぐらいなら会話できる。
(今シャアはイラッとしてたよね?)
(ええ、ララァさんが乗っても1時間が限度だと思います)
うむ、さすが俺達、一心同体だ。
「後でアプサラスに乗せてやるから、それで決めるとするか」
どうせこの後ララァには暇ができるしな。
「わかった。それとジオン地球領とも友誼を結びたいのだが」
おっと、そこまでは気が回ってなかったな。
と言うかジオン地球領は実質俺達の領地という認識はジオンだけでなく、連邦にもあるのか?
「ジオン地球領はニューギニア特別地区に敵対すればマスドライバーを失う。そうなればジオン地球領は経済への影響は政権交代やクーデターが起こるレベルになる」
ああ、なるほど、実際経済を支えてるのが俺達だから関節支配しているようなものか。
マスドライバー利用率は自領を除けば大体地球領5、南中国2、オーストラリア2、その他1という感じで圧倒的に地球領が多い。
マスドライバーのレーンを増やして欲しいと依頼してきたのも大半が地球領の企業だったしな。
それは置いておくとして……さて、どう対応したものか、仲介するのは問題ない。MIP社に貸しを作れると考えれば十分利がある。だが、その前にジャミトフに話しておく必要があるだろう。
俺達は配慮できる人間(仮初と仮初ですらない)だからな!
「地球領に話を通すから少し時間をもらうぞ。その間にアプサラスIVに試乗してみるといい、ついでに模擬戦の用意もさせよう」
「配慮感謝する」
アムロに連絡しておかないとな。
シャア達が部屋を出て行くのを見送ったタイミングでアムロに連絡する。
「こちらは終了した。そちらの用意は如何に」
『こちらもスタンバイ——『この軟弱もの!!』——既に出撃していたようです。……今、シャアの首が360度以上周ったような?』
「それは気のせいだ。でないと既にそいつは死んでいる」
『ですよね』
何はともかく奇襲成功(‾ー‾)ニヤリ
それにしても金髪さんも随分ガンダムさん化してないか?
さて、ジャミトフに連絡するか。
『…………貴様らは私にいちゃつくところを見せたいのか』
「いや、ちょっとマリオンちゃんがご機嫌斜めだったから宥めてたら離れなくなった。それだけだ」
ガンダニュウムでできている身体は硬いだろうにネコのようにスリスリ頬ずりしてるのは嬉しくもあるが痛くないか?
「本題だ。さっきエゥーゴから接触があった」
『昨日の今日でか』
「だな。とりあえずドートレスとSFS、後アプサラスIVを売って欲しいそうだ」
『アプサラスだと?!アレはニュータイプでしか動かせないと聞いたが』
「その通り、エゥーゴはそのニュータイプを確保しているようだぞ」
誰かは言わないけどな。
言えば新たな戦争(商売)ネタを摘むことになる。シャアとララァが協力してるなんてことを知られれば戦時でもない今ではエゥーゴの弱みとなるからな。
『売る気でいるのか?』
「とりあえずこの後、試乗させて模擬戦を予定している。多分売れないだろうな」
『以前言っていたサイコミュの反動と操縦技能の不足か』
「正解、サイコミュ自体はそれほど反動は無いがサイコミュ可動砲(現在は有線だけど)を使えば反動がきつくなる。そして何よりあの巨体を自力で守るほどの操縦技能が必要だ」
『前から思っていたが複座にすれば解決するのではないかね』
「複座にすると2人のニュータイプがサイコミュ経由でお互いの意識が邪魔をして、結果的に1人の方が戦力になると出ている」
養殖ニュータイプで試したから間違いない。
マリオンズ同士なら問題ないことも実証されているが、アプサラスIV100%運用より80%運用2機運用の方が圧倒的だから意味ないし。
ちなみに実戦経験したサポートハロは今3%ほどだった運用率が7%ほど運用率が上がる。
やはり人間もロボットも実戦経験以上に優るものなし。
『もし売れるようならこちらにも売ってもらうことになるだろう。そのつもりで頼む』
「了解。買う気なぼったくってやるさ」
「大尉、頭が痛いです。気持ち悪いです。吐きたいです」
美少女の吐瀉物(としゃぶつ)が好物とかなかなかマニアックな趣味だな、シャア。
模擬戦終了、現在のアプサラスIVは人類にはまだ早い兵器なのがこれで立証されたわけだ。
何処かの女性っぽい名前がコンプレックスで、それを刺激したら軍人でも襲い掛かるヒスのように廃人にならなくてよかったな。
「わたひも重傷なんらは」
顔がパンパンに膨れ上がり、ポリネック(むち打ちの時に首に巻くギブスみたいなの)をしたシャアが答える。
金髪さん、容赦ねぇな。
「それでアプサラスIVは買うのか?」
「いりません!」
間髪入れずにララァが断ち切る。どうやらトラウマになってしまったようだ。
シャアも頷いて肯定しているし、今回はなかったことに。
「念のひゃめに死にひゃみのひゃまの実ひょくをみひゃいのひゃが」
「……多分だがアプサラスIVを操る死神の鎌の実力が見たい、でいいのかな」
当たっていたようで頷く。
マリオンちゃんを見るとこちらも頷いて、すぐにマリオンズがやってくる。
「模擬戦はララァが行ったものと同じ状況だ。どれだけ差があるか見ているといい」
ララァが模擬戦で耐えれたのは10分、以前アムロが操縦した時は有線式ではなかったから負担は少なかったからよかったが、今のアプサラスIVではアムロでもそんなに変わらないだろう。
アプサラスIVの操縦席に、まるでここが無重力かのように跳んで乗り込むマリオンズの姿に顎が外れんばかりにだらしなく大口を開く2人。
「模擬戦始め」
まずはアプサラスIVから攻撃を仕掛ける。
100門もの有線サイコミュ式可動砲が一斉射撃、それだけで100機もの戦闘機、モビルスーツを落とした。
これぐらいはララァも……してなかったな。
そもそもララァは30門ほどしかコントロールできてなかった気がする。
ブルーパプワではよくある模擬戦なので、ある程度の対策を立てられている。
その対策は……回避してもやられ、攻撃すれば迎撃される。ならば無駄な機動はせず、一直線に特攻あるのみ!という神風戦法が一番有効だという結論に至ったのだ。
それでも上手くいって可動砲を10門ぐらい減らせれるぐらいなんだけどな。
今回はララァ用に若干ヌルく、300機程度しか戦力がいなかったため、ものの数秒で全滅判定。
「これで満足してもらえたかな」
「「…………」」
答えは帰ってこなかった。なんという失礼な奴等だ。
現段階でビームライフルを防ぐ手段が大型になってしまうIフィールドとビームコーティングしかないための無双である。
Iフィールド持ちはマリオンズのモビルスーツか、アプサラスIIIの主砲でどうにかなってしまうだろうし、ビームコーティングはビーム出力を上げれば貫通できるという試算が出ているのでどうにかなってしまう。
将来的にはビームシールドが現れるだろうからそれまでは特に細かい改造をするだけで新しいなにかは必要ないかな?