第百二十四話
引き続きプロトタイプサイコガンダムの話。
改良が施されて再運転が始まった。
1ヶ月程度でどの程度の改良ができたのか、楽しみだ。
「以前に比べて装甲がスマートになって露出してたケーブルが減ってるな」
「ですねー。ちょっと見掛けが触手モンスターっぽいところがキモイですけど」
有線サイコミュ式可動砲、アプサラスIVのものとは違い、肩上部のものはそのまま可動砲として使えるが腰カバー内部に装備された4門は伸ばさないと使用できない隠し腕的存在となっている。
それらを全て伸ばした姿はマリオンちゃんが言ったように触手モンスターっぽい。
相手はきっとドムIIだろう、スカートだし……なんの相手かは語らんがな。
「装甲が薄くなって機動力が上がったな。それに攻撃力、殲滅力も申し分ない」
一般兵が操るαタイプ300機が6分で全滅か、ヴィエーチルでも可能だろうがプロトタイプサイコガンダムの方が見るからに余裕がある。
「新型ビームライフルは私達のチョバムアーマーを貫通するらしいですよ」
特別厚くしているチョバムアーマーのビームコーティングを貫通とか、嬉しいような悲しいような。つまりメガ粒子砲の貫通力を上回ったわけだ。
「元々チョバムアーマーで防げたメガ粒子砲は初期のサラミスやマゼランの主砲ですからね。アプサラスIIIなんかのメガ粒子砲を防げるわけじゃありませんし」
「さすがにアプサラスIIIと一緒にしては可哀想だろ」
「最近ルナツーで新しい戦艦ができたらしいですよ。多分その戦艦の主砲は防げないでしょう」
「へー、戦艦ねぇ」
「確かバーミンガムという名前だったと思います」
「ぶっ」
イギリス紳士、予算勝ち取ったのか、やるなー。
天敵ガトーはソロモン決戦で武功を上げてギレン親衛隊入りしてるから簡単には落とされないだろう……多分。
ぶっちゃけバーミンガムの戦力って未知数なんだよな。GP02のアレは明らかに例外だろ、戦闘なんて言えるものじゃない。
一番気になるのは俺が知っている中で唯一のバーミンガムが武装しているレーザー砲だ。
他のレーザー系武装が登場するのは逆シャアで5thルナを地球に落とそうとした時に妨害としてサイド2からレーザーが放たれていたぐらいだ。
レーザーとビームでは似て非なるもの、特に宇宙世紀ではな。
レーザーは光を飛ばしビームは粒子を飛ばす、レーザーは光だから光速だがビームは粒子だから光速まで到達しない、ということだけ理解してもらえればいい。(作者の理解はこの程度)
ここで注目すべきところはなにか……それはIフィールドで防げない可能性が高いということだ。
Iフィールド発生装置は元々ミノ粉に電磁場を流して形成された磁場であり、その元となったIフィールド技術はメガ粒子の縮退やビーム収束・偏向に使われている。つまりビーム兵器を実現した技術がビーム兵器を無効化するという皮肉なわけだ。
しかしレーザーは光、ミノ粉は光学機器に多少の妨げにはなるが問題にならない程度には使用できることからレーザーはミノ粉の影響を受けない、つまりIフィールドの影響も受けない可能性があるのだ。
Iフィールドが光を屈折させるならノイエジールが普通にカメラに映ることがおかしい。
Wガンダムのモビルドールであるビルゴなどが持つプラネイトディフェンサーはレーザーが防げないというのと同じだ。つまりノイエジールの天敵になる可能性があるということ。
レーザーはビームに比べて光速な上にビームライフルの弱点である撃つ少し前に光るという弱点もないだろうから回避は難しい。
もっともどれも予想でしかないし、レーザーの有効射程がどの程度のものなのか不明だ。
何とかして情報を手に入れたい……ジャミトフやイーさんに頼めば手に入るだろうか?
「そういやイギリス紳士……グリーン・ワイアットは何処の派閥だっけ」
「グリーン・ワイアットさんですか………………ありました。ワイアットさんは独自の派閥を持っているようで、その名も『艦隊派』ですね。名前の通り、モビルスーツはサポートで主力はあくまで艦隊だという私達をバカにしているような派閥です」
まぁ、ドクトリンなんてそれぞれだから仕方ないと思うぞ。
それにしてもバーミンガムができた当時、モビルスーツ派が失笑していたらしいが相手を蔑むために言ったなら馬鹿すぎるし、本気なら正真正銘の馬鹿だ。
別に本当に艦隊だけで運用するわけじゃなくてあくまで艦隊の指揮する旗艦だし、敵の母艦を沈めたら実質勝ちな宇宙戦において、モビルスーツよりロングレンジから攻撃できる艦を強化することは悪くない。
GP02の奇襲を防げなかったのはバーミンガムの艦載能力有り無しで結果が変わったと思うか?俺は変わらなかったと思うぞ。
本来相棒であっただろうアレキサンドリアも就役されてなかったのも問題だよなぁ。
「そのアレキサンドリアという艦は来年完成されるそうですよ」
それまでにバーミンガムが沈まなければ夢のタッグが実現するな。
ドクトリン的に未知数だから対応に困るけど。
「レーザー砲対策になにか用意しておく必要があるかな?」
「私達が一番最初に戦うことは無いでしょうけど……水でも撒けばいいんでしょうか?」
「それじゃ効率悪いだろ……やっぱり定番は反射か?」
こう考えるとレーザー対策って難しいな。
なんでモビルスーツの武装にしないんだ?
「純粋にコストパフォーマンスの悪さと出力不足らしいです」
なるほど、それなら納得だ。
コストはともかく、旧式戦艦では搭載できないほどの出力がいるのか……そういや、何かの資料でマゼランとサラミスは最初は実弾の主砲で、途中からメガ粒子砲に搭載し直したって話があったような気がする。
その辺りも絡んできてるのかもな。
「あ、プロトタイプサイコガンダムが止まったぞ」
「……マリオンズが調子に乗って本気で動かしてオーバーヒートを起こしたようです。それとCPUも追いつけずに熱暴走しているみたいです」
「またか……マリオンズの反応速度に追いつくのはまだまだ先だな」
と言うか俺に乗って模擬戦や海賊ごっこをしていたせいで、ここのところマリオンちゃんの操縦技術は向上して、結果的にマリオンズの操縦技術も向上している。
いったいいつテクノロジーはマリオンちゃんズの追いつくのだろうか。
「そういえばこの前の報告の件、どう思います?」
「エゥーゴ、ティターンズの抗争開始についてか……」
半月ほど前、エゥーゴのモビルスーツ部隊の訓練とティターンズのモビルスーツ部隊の警邏隊が予期せぬ遭遇、新設のエゥーゴの部隊はモビルスーツの影に焦って発砲、しかもなぜか訓練だというのに実戦装備だったことが災いし、ティターンズも応戦するという事件が発生した。
ジムクゥエル18機のエゥーゴとドートレス9機のティターンズ、勝敗はエゥーゴ7機大敗、ティターンズ3機大破ということでティターンズの勝利となった。
さすがエリート部隊、エース級ならともかく一般兵の質はティターンズが上回っているな。
それとこの事件、たまたまの遭遇ではないようで、影でジオンが動いてたいらしい。
この情報はダイクン派からだ……彼らの情報網は俺達が思った以上に広くて深い。
指示したのが誰なのかはわからないが、壺さんが影で動いていたのは間違いなさそうとのこと。
「おそらく自分達が内乱という爆弾を抱えているので平和な内に連邦にも少し火種を、というあたりだろうな」
「危険な火遊びですねー」
「連邦がもしジオンに戦争を仕掛けるなんてことがあっても、国内がまとまって内乱が先延ばしにできるし眉なしと紫ババァはお互いを連邦に殺させようって腹だろうさ」
特に眉なしは国のトップ、紫ババァを最前線とはいかなくとも死ぬ確率がある戦場に送ることができるんだからな。
もう1度戦争になったとしてもジオン有利は変わらないだろう。
なにせ連邦の生産施設が地球にあるから打ち上げなど手間が多い、その上経済状況もよろしくない。
もし戦争になったとしても短期的な戦争になるだろうから大した痛手にはならないという思惑もあるかもしれない。
今ならまだノイエジール無双も有効だろうし、ジオン地球領は動かないし連邦も手を出せないだろう。俺達が出させないんだけどね。
「エゥーゴとティターンズが戦争、いえ、内乱なんて起こるんですか?同じ連邦の組織ですよね?」
「それを言ったら日本も中国も連邦の1地域だぞ」
「そうでした」
連邦は敗戦してからまとまりが欠けているのは明白で、地球連邦が分裂してしまうかもしれない……と思ったけど、地球連邦が分裂するとジオンの方が国力が上になるからそれはないか。
やっぱりあくまで主導権争いだったわ。
そして笑うのが以前起こった眉なしと紫ババァの小競り合いだが、アレは連邦の陰謀だったとダイクン派に教えてもらった。
うーむ、外の国々は黒い戦いしてんなー。そういう意味では俺達はわかりやすくて扱いにくいだろうね。
圧倒的武力による軍事政権(善政のつもり)だからな。
好き勝手やってるけど、最近ブルーパプワの評判が良くなってきてる。
特に農業用ハロはなかなかに評価が高く、売れ行きもいい。
戦争ばかりしているイメージが、長らく(特別地区は)平和になっているため薄れてきたのも大きいようだ。
国際的にも日本とか地球領なんかと友好関係を築いてることも一要因だな。
「また戦争かねー」
「嬉しそうですね」
早く戦争になーぁれ!なんていうどっかのお嬢様ではないが、やはり戦争があったほうがメリハリがあるよな。