第百二十五話
<マリオンズ・ニューギニア特別地区ブルーパプワ死神の陽炎訓練所>
「死神の陽炎の掟!復唱」
「「「おっす!」」」
「一、死神様に逆らわないこと!」
「「「一!死神様に逆らわないこと!」」」
「二、私達に逆らわないこと!」
「「「二!(デビル)ナンバーズに逆らわないこと」」」
パァン!
全く、誰がデビルナンバーズですか。
いつまで経ってもこの不名誉な二つ名がなくならなくて不愉快です。
「撃たれた者は3秒で起きる!1、2、3」
パァン!
起きなかったら追加制裁。
ブルーニーさんと私達の部下がこの程度じゃ困るんです。
死神と名のつく部隊がこの程度では私達の威信が下がっちゃいます。
そうなればニューギニア特別地区という私達の愛の巣が危うくなり、なくなれば補給が無くなるので私達(マリオンズ)が実体化していられなくなる。
ブルーニーさんの役に立てなくなるなんて私達には耐えられない……その時は本体になってるからそういう意識はないですけど。
「1、2、さ——」
ギリギリオーバーだったけど大目に見てあげましょう。
「では続いて、三!見敵必殺、一人十殺」
「「「三!見敵必殺、一人十殺!」」」
他国より国力が低い分、量ではなく質で勝負しないといけない。
そういう意味ではニューギニア特別地区とジオン公国は似てますね。
さて、いつもの掟復唱が終わった次は基礎トレーニング、続いて低酸素訓練ですね。
低酸素訓練、昔低酸素トレーニングというものが流行りましたがそれと名前が似ていますが目的が違い、低酸素の中で運動して身体能力向上を目指すものではなく、低酸素で活動するためのトレーニングです。
宇宙では限られた酸素で行動しないといけない、船などならともかく、モビルスーツは更に酸素が制限されますからね。
「6番、集中と無心の切り替えが鈍い。1番、人の失敗を笑ってる場合じゃない」
酸素が消費されるのは興奮したり焦ったり混乱したりした時ですから、座禅や反復練習など無意識に動かす訓練をパイロットスーツを着いた状態でしてます。
集中して戦い、無心で動かす。それが死神の陽炎の極意としてます。
パイロットスーツにある酸素は訓練時間より少し余裕がある程度にしか入れられてませんから不合格の場合は、酸素が少しずつ減っていく恐怖(残量は常に見えている)と臨死体験によって養殖ニュータイプへの道が拓けるという一石二鳥な訓練。
この訓練をしているのは死神の陽炎の中でも精鋭ですから養殖ニュータイプに覚醒した場合はアムロさんと同等の力を持つ程度に強いです。
これでニュータイプ専用機が完成すればしばらくは問題ないんですけど……あのサイコミュバックパックをどうにかしないと養殖ニュータイプには厳しいでしょうね。弱点があまりに露骨過ぎます。
訓練にはもちろんシミュレーションもあるんですけど私達が相手することはないです。
私達がシミュレーターで戦うと筐体がダウンしてしまうのもありますけど、一番の問題はシミュレーターが動く程度に手加減をすると負けてしまう可能性があることです。
死神の鎌と呼ばれる私達が負けるなんてことは補給が不足しているようなことがない限りはあってはいけない。
最近はサポートハロが導入されたことによって機体の反応速度が良くなってきてますからね。エラーがたまに出ますけど。
「確かこの部隊は宇宙配属ですよね」
「はい、このデスマーチが終わり次第サイド5に配属されます」
そのデスマーチという名前も気に入らないんですけど……まぁそこは大目に見ましょうか。
宇宙に行っても私達の監修の訓練は終わらないんですけど……心折れませんかね?折れすぎるとニュータイプ以前に廃人化しちゃうので注意が必要です。
<マリオンズ・サイド5>
今日も今日とて海賊だー。
「獲物確認、そして護衛部隊の出撃も確認しました……ってアレ?新型?」
その姿形はザク改のように見えます。でもどこか違う。
後でブルーニーさんに教えてもらいましたが、このモビルスーツはハイザックというそうです。
私はチューンナップした中身はほとんどαタイプのゲルググMで迎え撃つ……と言いたいところですが。
「では死神の衣を名乗るために頑張ってください。相手は新型ですからもちろん1機は鹵獲してください」
『『『イエッサー!』』』
死神の衣、養殖ニュータイプの人達が冗談で付けた二つ名です。
しかし冗談でも死神の一部を名乗ろうと言うならそれ相応の実力が必要、それからはビシバシと鍛えに鍛えてます。
軽く死んじゃったことも二桁を軽く越えてからは数えてませんが、最近は卵から雛ぐらいにはなったでしょう。
しかし死神の衣を名乗るのはまだまだ先ですね。
新型ザクはドムIIとそれほど性能は変わらないようですが……さて、なぜそんなモビルスーツをわざわざ作ったのでしょうね。
護衛をしながら戦うというのは難しい。
それがわかっているから船は急いで戦場から離脱しようとする……が残念、私を忘れられては困ります。
「まずは足止め、そしてその後揚陸艦を着け、ハロを流し込んで鎮圧。いつも通り……かと思ったんですけどね」
輸送船のコンテナから一閃、私に向かってビームが飛んできますがもちろんわかっていたので余裕で回避。
でも……この感じ、ニュータイプですね。
出てきたのはガルバルディβ、なんでここでジオンのモビルスーツなんでしょうね……ああ、パイロットがニュータイプということがわかった上で乗せてるということですか。
とりあえず、ニュータイプ対策としてプレッシャーを掛けます……が動きは変わらず、ここまで見事なスルーをされるのは初めて。
今までは戸惑ったり怯えたりすることがほとんどでしたが今回は違うようです。
特殊なケースはサンプリングするために確保が優先されます。
「幸い戦い自体はこちらが一方的に勝っているから大丈夫ですね」
新型ザク12機対死神の衣(自称)ゲルググM(ほぼαタイプ)5機でしたが既に10機の新型ザクが落ちて、こちらの損害は0。
あれだけ教育したんですから当然ですね。
「さあ、私達も戦いましょうか」
同時にビームライフルを撃ち、相殺。
動揺を誘うためのものでしたけど反応なし、よっぽど肝が据わっているのかもしくは……
もう1度試すために今度はこちらからビームライフルを撃つが躱される……が後ろにあった輸送船の動力部を貫く、普通なら自分が躱した攻撃が味方に当たれば動揺しそうなものですが、やはり反応なし。
「確保確定ですね。それにニュータイプ同士の戦いではライフルなんて唯の牽制」
ビームライフルを盾に収め、ビームサーベル抜くブースターを吹かす。
相手はあくまで射撃に拘る……いえ、近づくと斧……確かヒートホーク?に持ち替え始めましたがもう遅い。
『でた。デビルナンバーの四肢落とし』
『やってやれないことはないだろうけど、あの速さで成功率100%ってのはありえねぇ』
『テラコワス』
『草不可避』
『さすが死神の鎌、痺れ過ぎて内臓がだめになりそう』
どうやら追加の訓練ご希望らしいですね。
酸素0で10分シミュレーターとか素敵じゃないですか?
さて、このパイロットさんが、普通のパイロットでないことを祈ります。
普通のパイロットなら無駄に手間を掛けただけですからね。
お、マリオンズからの報告か。
新型ザク?これってハイザックじゃん。なんで生まれたよ。
しかもドムIIとそんなに変わらないって……ああ、なるほど、解析結果でドムIIはジオン系技術でハイザックは連邦系技術で作られてることが判明したのか。
原作通りビーム兵器が2つ同時に使えないという欠点がある。その代わり、ドムIIよりコストが低そうだというのが解析班の見解だ。
そして注目すべきはもう1つの報告だな。
マリオンズの威圧に耐えれるニュータイプパイロットが現れたらしい。
脅威とは思わないが、ちょっと驚いた。
俺もニュータイプレベルが上がってるからマリオンちゃんズの威圧がどの程度かわかってきたこともあって無反応でいられるというのはそれだけでレアだ。
ララァなんかがいい例だな。
そして箱を開けてみるとそこには14、5歳の女の子が……ただし、人形のように自我がない……いや育ってないらしい。
写真も同封されているがプルシリーズではなかった、だがそれに準ずるものであるのはほぼ確定だろう。
そういや若き彗星の肖像のエンツォがクローン部隊を作ろうとしていたって設定があったな。
もしかしてコレはテストか?
それとともに威圧に耐えられた理由も分かった。
自我が育ってないと怯える以前の問題だよな。
クローン技術ねぇ、既に人間どころか生物ですらない俺達だから別に忌避感とかないけど、そこまで手を出しちゃ際限なくなりそうだよな。
もういっそアーヴとか作っちゃえよ、そうなるとニュータイプとかなんとか言ってる場合じゃなくなるか、せめてコーディネイター……そうなるとアムロはイノベイドしそうだな。シャアはデスティニープランとか……うん、カオスだな。
「この少女はこちらに送ってもらうか、ある程度調べたらムラサメ研究所行きだな」
「あちらで成長すると感染患者になりそうですね」
……よし、しばらくここで面倒見るかな。
そこそこ使えそうならそのまま養殖ニュータイプ部隊に編入してもいいし。
「じゃあカーン一家のニートさんに面倒見てもらいましょう!」
ちなみにカーン一家のニートとははにゃーん様のことだ。
どうやらフラナガン機関での経験でコミュ障になったらしく学校に慣れなくて(まぁ特別地区とコロニーでは教育が色々違うから仕方ない気もするが)通信教育に切り替えている。
マハラジャはもちろん、マレーネも働いているし、セラーナはちゃんと学校に通っている。
「さすがに自我がない子ならニートでも大丈夫でしょう」
そういや自我がないのにどうやってモビルスーツを動かしてたんだろうか?