第百二十六話
「自我が育ってない、か。確かにそうみたいだな」
何処を見ているかわからない瞳はまるで人形のようだ。
これならハロの方がまだ魂があると言われても信じれそう。
「話しかければある程度反応するんだったか……名前は?」
「……E115」
名前すらろくにつけられてないのか、ここまで来るとさすがに哀れだ。
そして数字から察するに少なくとも後114人は同じ存在が居る可能性があるし、頭のアルファベットから考えるともっといるだろうな……どれだけ生きてるかは謎だけど。
「情報通り返事はするな」
「まるで出来の悪いAIみたいですね。どうします?ニートさんに任せますか?」
「さすがに預けるのは悪いだろ。ナタリーに任せるか、そうすれば自動的にハマーン様とも仲良くなるだろう」
「なるほど、ナタリーさんですか。最近開発チームの方に入り浸っていてニートさんも随分やきもきしているようですからいい塩梅になりそうですね」
開発者、研究者というのはどうしてこうも仕事()熱心なのか、別に無理強いしたわけではないんだが……原作のアクシズよりは国力あるし、緊張状態もないんだからそんなに頑張らなくていいのに。
「追求者の定めかもしれませんね」
「ニューギニア人の開発者、研究者ですら働き者になるからなぁ」
最近は大学を卒業したニューギニア人からも研究、開発者がポツポツ誕生している。
そのほとんどはブルーパプワに所属している。
まだまだ最先端技術なんてものには追いつかないがこういうのは時間と金が必要なので仕方ない。
「働いているというより仕事が趣味なんでしょうね」
「いいのか悪いのか、それの恩恵を受ける俺達にとってはいいのか」
ギニアスなんてどんなに酷使しても疲れない身体にかまけて1日48時間とでも思ってそうなほど活動している。
マリオンちゃんズのヒールのおかげなんだから少し控えろよ……と言いたいがヒールを秘密にしているし結果も残してるのだから文句も言いづらい。
そういえばシーマ様が自分が若返っているような気がして訝しんでいるようだ。良いことなのでスルーしてるっぽい。
「それはおいとくとして……この少女、ニュータイプなんだからマリオンちゃんが感応で調教……躾けれないのか?」
「もう少し自我がないと脅すことも脅迫することも無理ですね」
その2つの意味に違いはないからな。
まぁ赤ん坊に泣け!叫べ!そして、死ね!なんて言っても通じないよな。
「ならナタリーに任せるとするか、ニートさんにも話を通しておいてくれ」
「了解です。ところで名前は与えないんですか?」
「ん?そうだな……リリーナ・クルスだな。マリオンズにはこの自我なしっ子は捕獲するようにしておくように言っておいて」
「わかりました」
名前の由来はもちろんマリーダ・クルスから来てる。
さすがにプルなんていう名前をつければ何か影響するかもしれないから少しひねってみた。
自我なしっ子と一緒に届いたハイザック、ブルーパプワで解析してみたがアナハイム製のものかと思われていたんだが、どうやらジオンが模倣して作ったものじゃないかという報告が上がった。
使われている冶金技術がアナハイムのものではなく、ジオンのものっぽいらしい。つまり今回相手にしたのはジオンの部隊だったという可能性が生まれた。
養殖ニュータイプ部隊とはいえ、正規軍相手に損害なしで撃破できるなら大したもんだ。まぁ確認のしようがないんだけどね。
「そういえば最近宇宙の治安維持政策としてノイエジールと護衛艦アイギスの投入が検討されているそうですよ」
「…………えーっと」
アレって防衛用兵器だろ。なんで海賊狩りに使おうとか思うわけ?どう考えてもブラフだろ。
「ええ、どうやら本気ではないようです。しかし海賊達への脅しになると考えているようですね」
脅しねぇ、正直ゲリラ相手に戦車だけ投入するみたいな話なんだが……効果あるのか?
「更に裏があってそちらは囮で、裏で精鋭部隊を大量投入するそうです」
なるほど、切り札を見せ札にして注意を逸らすわけね。
もしかして今回の自我なしっ子もそれに向けてのテストを兼ねてたのかな。
「海賊退治にはギレンさん、キシリアさん、アナハイムが共同で行うそうですよ」
ザビ家はともかくとしてアナハイムまで参加するとなると裏稼業は撤退するのかな……いや、もしかして俺達が頑張り過ぎて採算が合わなくなったか。
となるとターゲットはほぼ俺達に絞られるわけだが……さて、どうするかな。
ちなみに連邦が不参加なのは自分たちのテリトリーがあまりに狭いため、あまり意義がないからである。
「選択肢は2つ、1つ戦う、2つ撤退ですね」
戦うを選択すると養殖ニュータイプ部隊の経験値が手に入り、モビルスーツや艦を鹵獲することができる可能性がある。
その代わり、勝っても負けてもそれ相応の被害もあるだろうし、勝ち戦が続けばジオンの威信は丸潰れ、それは俺達にとっても嬉しいことではない。
撤退を選択するとボーナスタイム終了、実戦経験を積む機会が無くなる、俺達らしくない。
その代わり、被害は出ないし、収入はあくまで臨時ボーナスだから痛くない、そしてマリオンズに余裕が出る。
……うん、撤退だな。
「しばらく裏稼業はおやすみだ」
「じゃあマリオンズに伝えますね」
アナハイムはどうするんだろうね。
海賊全部潰したとは思えないから、残った奴等は……ジオンに狩らせるのかな?功績稼ぎに持って来いだし。
海賊狩りの規模がまさかソロモン決戦並みとは思わなかったな。
1つ1つの規模は小さいが、かなりの数が派遣されて徹底的に刈り取っているらしい。
そうなった経緯は俺達が知っていた数よりずっと多くの雑魚海賊がいたらしく、現在進行形で結構多くの戦闘が行われているようだ。
そんな今、俺達はオーガスタニュータイプ研究所に来ている。
「それで何の御用でしょうか」
目の前に所長がいるんだが……研究者じゃないのかな?あまりに太り過ぎている。
「サイコミュの小型化に成功したそうだな。それを購入させてもらいたい」
「そんなガセネタどちらで?」
「ティターンズトップのジャミトフからだ」
「…………」
俺の回答に目を白黒させてるな。そりゃそうか、ニューギニア特別地区は元々ジオンの領土から独立したから事情をあまり知らない人間はニューギニア特別地区はジオン寄りの勢力だと思っていることが多い。
だからこそ連邦の軍需産業と仲良くなれたんだけどな。ジオンとのパイプの1つとして。
そんな勢力から自分達のメインスポンサーの名前が出てくるとは思わなかったんだろうな。
「……確認しても?」
「連絡する前にこの書類を確認してくれ」
中身が何か知らないが恐らくジャミトフが寄越したもんだから円滑に進めるための何かだろう。
「…………分かりました。すぐには無理ですのでこちらからお届けいたしますので今日のところはお帰りください」
仕方ないので帰るか。
しかし、まさかオーガスタ研究所がティターンズ傘下になってるとは、やはりニュータイプの活躍のおかげかね?
ちなみに今回なぜサイコミュの小型化されたものを譲ってもらえるかというと、四川省開発の予算が思ったより必要で、モビルスーツの開発に回す資金がなくなり、ブルーパプワと共同開発という形ですることになったわけだ。
もっともモビルスーツ開発費用は全てこちら持ちでモビルスーツの生産自体もかなり勉強させてもらうことになっている。もちろん他国への輸出制限も掛けられ、監視も付いたが俺達も売る気がないので問題ない。
それだけサイコミュ小型化に価値はあると思う。
それに監視が諜報活動するようならこちらで処分すると伝えてあるので本当に問題ないしな。
「原作ではオーガスタ研究所の最初の機体はバウンド・ドックだったな」
確か30mは届かないサイズだったはず、しかも腰のスカート以外は細身だ。つまりオーガスタ研究所はサイコミュをかなり小型化できたんだろうな。
受け渡されるのは完成形ではないだろうけど、ムラサメ研究所で解析すればブレイクスルーになる可能性がある。
あの巨大バックパックを背負ったプロトタイプサイコガンダムのままでもマリオンちゃんズなら使えるのだからそれほど焦らなくてもいいような気がするが、やはり見た目がなぁ……マリオンちゃんズが乗るならもっと美しい機体がいい。え?私情だ?そうですけど何か?
「ドック?犬型の機体ですか?ブルーニーさんの耳好きには困ったものです」
「それは言いがかりだぞ?!」
それに俺はどちらかというと自由気ままなネコ派だ!もっと言えばトラ派よりブルマ派だ!道場じゃなくてプリズマだ!
「サイコミュが小型化すると以前ギニアスさんが言っていたアプサラス空母も実現するんじゃないですか?」
「さすがにサイコミュが小さくなった程度の広さで解決されるか?それに搭載予定のモビルスーツのサイズが大きくなってるからプラマイ0じゃないか」
「言われてみればそうですね」
クーンとかαタイプなら載せられるだろうけど、一騎当千できない機体を運んでいっても無駄に損耗するだけだろ。
「そういえば、水中ニュータイプ専用機の開発もしないといけないか?」
「ファンネルの代わりに小型潜水艦でも飛ばし——飛ばすじゃないでね。泳がしますか」
「……元々ミノ粉の影響をそんなに受けない水中で意味あるのだろうか」
「でもオールレンジ攻撃は意味ありますよ」
包囲する前に撃墜されて終わりそうだけどな。
まぁ一応検討させてみるか。