第百二十八話
あれから1週間。
俺達はあっちこっちで暴れて、逃げたり、全滅させたりしていたんだが……
「なんでこんなことになってんの?」
「なんででしょうねー」
周りは数多くの……海賊達。
これが敵だったら全滅させて資源、食料ウハウハなんだけど迷える子羊なんだから困る。
事情を聞くと彼らはアナハイムのライバル会社——詳しく聞いてないが恐らくハービック社やヴィックウェルトン社など——が雇った海賊達で、今回の海賊狩りでも序盤はいつも以上に補給がされたりしていたみたいだが、最近雲行きが怪しくなってきたので蜥蜴の尻尾切りされたっぽい。
途方に暮れているところに俺達と遭遇、そしてなんか金魚のフンと化したわけさ。
「本当にどうしてくれよう」
「集まり過ぎて近隣にいた討伐軍も援軍待ちで手を出してきませんが、攻撃されるのは時間の問題ですし」
現在海賊戦力はザンジバル級1隻、ムサイ級10隻、サラミス級3隻、マゼラン級1隻、パプワ級5隻、コロンブス級5隻、モビルスーツも最新鋭ではないがまだ前線で活躍しているものを100機以上保有している……と言うかザンジバル級って!海賊にしては贅沢過ぎる。しかも原作で言うシーマ艦隊より戦力が充実してるぞ。
もっとも、これらは海賊の中でも大きい3つの勢力が集まった結果だ。
こうなるとシーマ様はよく中佐で残党を維持できたよな。帰る故郷がないというのもあっただろうけど人をまとめるのって難しいのに……俺達なんか力で押さえつけているだけだしなぁ。
それは置いとくとしてこんな大所帯になると当初予定していたことが狂ってしまうぞ。
「サイド5の暗礁宙域に逃がしますか?レインボーゴースト状態の私達ではブルーパプワに引き入れることもままなりませんし、皆殺しするならマリオンズに対処させれば戦果とすることができます」
「いいね。それで行くか……しかしこの規模の海賊を移動されば察知されるだろうな」
ミノ粉もそこまで便利じゃないからな。濃度が薄いとセンサーを誤魔化しきれず外縁部の艦が捕捉され、濃度が上がればそれだけで艦隊の規模がある程度推測できる。
バラけてサイド5に向かわせるとなるといくらか海賊は捕まり、情報が漏れるからニューギニア特別地区が裏で糸を引いていたのでは……などと不審に思われると困る。
「……よし、サイド5に隠れ家があると言って向かわせて途中で討伐軍に捕捉されそうになったら死神の陽炎に狩らせて保護するか」
「マリオンズがミノフスキー粒子も無視して連絡できるからこそやれることですね」
今もミノ粒戦闘濃度で散布中であり、本来なら遠距離通信なんてできないんだけど俺達には関係ない。
「現在討伐軍の配置は……それと照らし合わせて航路を……よし、これをマリオンズに指示。後は海賊達を説得するだけか」
「じゃあ行ってきますね」
さすがに俺が表立って動くわけにはいかないので久しぶりのマリオンちゃん交渉だ。
今回は女性だと舐められたり、マリオンちゃんズだと悟られないように人外スペックを隠すために胸はサラシを巻き、声も男性的なボイスチェンジャーを使用している。
まぁ顔を隠しているからどれほどの効果があるかはわからないけどな。
「海賊達はこちらの指示に従うそうです。思ったより素直でしたよ。スポンサーが撤退したので宇宙で孤立はさすがに怖かったんでしょう」
宇宙での孤立は相当な施設がない限り死しかないから弱気になっても仕方ない。
「俺達は殿(しんがり)という名の狩りをもう少し続けようかね」
「予定ではもう終わってたはずなんですけどねー」
俺達が暴れれば討伐軍の戦力は集中することになり、結果的に海賊達の支援をすることになる。
まぁ、元々こういう計画だったからで、決して海賊達のためじゃないんだからね!……いや本当に。
まずは足が遅いコロンブスやパプワを先にサイド5に向かわた。
それはモビルスーツの大半を戦線から離脱させることになるので海賊達が反発したが、それじゃ討伐軍を振りきれないので軽く拳を交えて説得した。もちろん説得したのはマリオンちゃんだが。
こちらの数が減ったので討伐軍がチャンスだと思ったんだろうな、攻撃を仕掛けてきたが見事返り討ち。
いやー、味方がいるって楽だね。
普通の人間とあまり組む機会がないから不安だったが、マリオンちゃんの操縦技術はもちろんだが連携も上手くなっている。連携というより、味方の利用方法と言った方が正しそうだけど。
マゼランとサラミス、ムサイ3隻ずつ、ザンジバルとムサイ2隻という順に離脱していき、今は俺達だけとなった。
そして目の前には——
「アプサラスIVまで出してくるとか聞いてないんだけど」
「サプライズです」
そんなサプライズいらねー。
他にもリリ丸とフィッシュボーンから次々とモビルスーツが出てきている。
基本的にはαタイプで、3機ほどヴィエーチルが混ざっている。
つまりブルーパプワ、いや、死神の陽炎が相手と言うわけだ。自作自演乙。
「どんだけぇ」
「こんだけぇ」
数は100機、しかもご丁寧に養殖ニュータイプ部隊だし……まだ死神の衣なんていう2つ名は認めん。
と言うか自由枠のマリオンズがほとんどここにいるじゃん。
「ちなみにアプサラスIVのサイコミュは小型化して有線式可動砲の機動力が上昇してるので注意してください」
「うげ、前の段階でも厄介だったのに更に強化だと」
そりゃ内蔵機器が小型化されれば追加装備とか基本スペック上昇とか本体そのものの小型化をするのが当然とはいえ厄介なことこの上ない。
と言うか早速小型化されたサイコミュが導入されているだと?!
「優先順位を1番にしてましたから解析も終わり、製造もコストを度外視すればそれほど難しくなかったようですよ。まぁ量産にはもう少し詰めないといけないそうですが……来ます」
アプサラスIVの可動砲から一斉に加速された粒子が降り注ぐ。
距離があるから有線のメリットが生かされず弾幕と変わりない……なんてことはなく、回避行動の先読みまでされていて何発か当たる。
今回は俺が動かしているんだが……無理ゲー過ぎないか?しかもレインボーゴースト仕様での戦闘はこれが初めてなんだけど。
しかもEXAMシステムは稼働しているがマリオンちゃんとの共有無し、つまりほぼ俺だけの実力で頑張るつもりでいる。
……まぁだから何発か当たっちゃったんだけどな。
「フルアーマー思ったより重てぇ、しかも弾幕厚すぎるだろ」
「さすがにキツそうですね」
以前模擬戦した時は可動砲が有線ではなかったし、サポートハロの蓄積データも少なかった。
あの頃と比べたら雲泥の差、これを本気で相手しないといけない皆さん(-人-)ナムナム
「くそ、同じ場所——で被弾しないようにするだけで精一杯」
「同じ場所で受けると貫通して痛いですからねぇ」
そして悪いこと、というより当然だがモビルスーツ隊が迫り来る。
アプサラスIVの有線可動砲の恐ろしさは射線が自由に選べることにある、どういうことかというと……モビルスーツの合間から攻撃され続けるということなのだ。
本来なら誤射が怖いところだが、そこはマリオンズと養殖ニュータイプであるからしてそんな失敗は望めない。
「このゲームにはスペルカードはないのか?!」
「スペルカード?」
モビルスーツの密集率が高くなったためアプサラスIVの攻撃数も減ってきているが、無駄が減って養殖ニュータイプのフォローするような行動に切り替わっている。これで楽になる……なんて考える奴はあまちゃんだ。海にでも潜ってろ。
続いての相手はマリオンズ操るヴィエーチル、しかも3機もいる。
『ブルーニーさんの仇ィ(笑)』
いつの間にか俺は殺されていたらしい。
まぁ今まさに殺されかけてますけど……マリオンズの手で——
「痛ー!チョバムアーマー貫通しやがった」
「同じ所で受けちゃいましたね。それとどうやら痛みは共有されないようですよ」
部品痛の時からなんとなく予想がついてたが、痛みは俺だけかよ!まぁマリオンちゃんに痛みを与えるのは忍びないからいいけどな。
「ぐっ、ブースターが——養殖ニュータイプもやるじゃねぇか」
「この状態で機動力低下は——」
機動力が落ちて次々被弾するようになり、超痛いっす!横綱に乗られたぐらい痛いっす!
「マリオンズに終了を伝えました!」
「あい、よ。SD化!」
SD化した瞬間にヴィエーチルのビームサーベルが3方向から胴を刺し貫く。
俺達は密着状態のヴィエーチルのコクピットへ移り、マリオンズと再会……でもコクピットは狭いので操縦していたマリオンズを融合して操縦は俺がする。
「ぐぅ、これは思った以上に——痛い、な」
これも経験か、しかしあまりしたくない経験だな。
操縦してヴィエーチルをレインボーゴースト(外身だけ)から離れるとアプサラスIVの一斉射撃でほとんどが消滅した。
実はチョバムアーマーはアレックスのものとそっくりだと言ったが少し違いがあったのをいい忘れていた。
アレックスと同じチョバムアーマーだと俺達の青色が見えてしまうため察知される可能性があったので間接にはシートを被せ、足の爪先まで追加装甲が装備されている。
塗装できりゃ簡単なのに……融通が効かない身体である。
SD化すると手が無くなるのはどうしようもなかったので見えないように位置取りして対処した。
そんな仕様だったおかげで今回の空蝉の術が成立したんだけどな。でないと抜け殻もろバレだし。
そしてこの戦いは録画していて、後でジオンやアナハイムに提供されるので公式ではレインボーゴーストは死に、死神の陽炎の名声は高まる。
それにゴーストという名前だから再び現れて暴れるのもいいだろう。その場合、偽者説が流れるかもだが……細かいことは気にしない。
「……くそ、もしかして重傷だと治りが悪いのか?ビームコーティングの復元とかから比べると遅いぞ」
こうして、レインボーゴーストは一時的にだが表舞台(?)から退場することとなった。