第百二十九話
俺自身の傷はどうもSD化していると回復が遅くなるようだ。
あまりに痛いんでマリオンちゃんに実体化してもらってヒールを掛けてもらったらアッという間に治った。
ちゃんと使う機会があったな、ヒール。
海賊達は無事サイド5に辿り着いたと報告が来た。
マリオンズ率いる死神の陽炎が包囲して降伏を促し、海賊達もそれを受け入れた。
自分達の殿を務めてくれたレインボーゴーストを討ち取った死神の陽炎に思うところがあったようだが最終的には死神の陽炎に加わることになった。
レインボーゴーストは極秘だから教えられないんだが……恩を感じてくれたのは少し嬉しい、ネコを助けたら懐いてくれたのと同じような気分だ。相手は海賊だけど。
それならバラバラでサイド5へ向かった時に捕まえればいいんじゃないか?と思うかもしれないが仲間とバラけていては決心がつかなかったり、心残りができる可能性があった。
普通なら戦力が集中して討伐する労力が増加するから各個撃破が基本だがマリオンちゃんズに掛かればたかが200機届かないモビルスーツ、しかも正規の軍ではないならなおのこと敵ではない。一網打尽とはこのことだ。
しかし思わぬところでザンジバル級を拾ったな、とりあえずニューギニア特別地区に向かわせて改修するべきだろうな。
ムサイ級はそもそも宇宙仕様……サイド5で巡洋艦の名に相応しい仕事をしてもらうとしようか、今まで巡回はフィッシュボーンで行っていたがやはり非武装というのは難がある。
最初はサイド6に売ろうかと思ったんだが軍を持つ時に結んだ条約の関係でビーム兵器や燃料などの制限されていて断念、確認してみると兵器は機銃と小型ミサイル(どちらもデブリ粉砕用)程度しか認められていないっぽい。
今まで艦艇には手を出してなかったから気付かなかった。
マゼランとサラミス運用はムサイと組ませるべきか悩むところだな。
ビンソン計画が不発に終わっているため両艦共にモビルスーツの積載能力がないので艦隊運用が基本なんだが、それには数が足りない。
艦隊運用の経験が得れるというのはメリットなんだが、死神の陽炎で艦隊戦なんてする機会があるのかという疑問もあるし、何より平時では維持費がバカにならない。
開発チームに改造、改修案を考えさせてみるか、それでもどうにかならなければ食料か資源にするかだな。
コロンブスとパプワはサイド6が欲しがったので機銃や小型ミサイル発射口を増設して売ることが決定している。
もっとも宇宙空間での実弾を撒き散らすのは巡り巡って自分達の首を締めるのであまり使いたくはないと言っていたが。
「それにしてもまさかアナハイムのライバル会社だけでなく、ティターンズも裏から支援していたとは思いませんでした」
「地球領に手を出さないからすっかり忘れてたが、ティターンズはアースノイド至上主義なんだよな」
バスクは殺したから非道さが薄れたティターンズだが根幹は変わってない。
今まで話題にしてなかったがティターンズには俺達に対して、好戦派と穏健派がいることも把握している。
アースノイド至上主義的にはスペースノイドを多数受け入れているニューギニア特別地区は忌々しい存在なんだろうね。
もっとも穏健派筆頭が組織のトップであるジャミトフ、そして現場でのトップであるイーさんもそれに加わっているのだから好戦派は小さい勢力であるらしい。
「海賊行為に抵抗がない者は参加もしていたらしいからな」
ヤザンとかめっちゃ喜んでやってそうだ。
「軍人が海賊なんて世も末ですねー」
まぁ休戦してても両国共に仮想敵じゃなくて敵国扱いしてるからな。
現代の私掠免許みたいなものだ。
討伐軍が結成されることがわかってから手を引いたようだが、非合法ではあるが良い経験値にはなっただろう。
それにしても貿易相手なのに遠慮ねぇな、それだけ恨みが深いってことか。
「ガルバルディβの解析結果ですけど、αタイプとの違いは多くあったようなので検証しているそうです」
「性能的にはそれほど差がないように感じたけど」
「やはり技術は国力がものを言いますからね。私達が先行している部分なんて連邦、ジオン両方の技術が手にあることと、アプサラスの高出力メガ粒子砲とその管制システム、水中専用モビルスーツ、SFSぐらいですよ」
いいとこ取りモビルスーツがブルーパプワの本領と言える。
ギニアスの設計能力頼りなところが強いけど。
「そういえば次世代モビルスーツ?であるαタイプ(改良しすぎてこういう扱い)が完成、プロトタイプサイコガンダムは完成こそまだですけど試作機までは漕ぎ着けましたし、農業用ハロも完成、SFSは目立った成果がありませんけど地味に改良されてますし、開発チームの当初の予定はほとんど終了してしまいましたね」
「そうだな。当面は自由に研究、開発させるかな。マゼランとサラミスは焦ってないし……そういえばプロトタイプサイコガンダム——面倒だから正式名はサイコガンダムでいいか、試作が終わればサイコヴィエーチルになるんだし——小型化されたサイコミュは搭載されたんだよな?」
「いえ、まだ搭載されていません」
なんでだよ!アプサラスIVには載せてサイコガンダムには付けてないのかよ!
「それがムラサメ研究所に渡したところ、ブレイクスルーとなったらしく、もう少し小型化ができる上に高性能化もできそうだから少し待って欲しいそうです」
「まぁ小型化されるならいいことだが……どれぐらいでできそうなんだ」
「今年一杯である程度の成果を見せれると言ってました」
よし、吐いた唾は呑めぬと思えよ。
もし成果が出なかったらお前達の成果である強化人間処置をお前達に受けさせるからな。
ゼロも喜ぶことだろう。
今が9月だから後3ヶ月で結果を出せるというのだから自信があるのか、それともオーガスタ研究所の成果をそのまま使うのが癪で見栄を張っただけなのか、楽しみだ。。
「あ、そういえば新型ビームライフルですが、ブルーパプワ製とアナハイム製のものを比較すると出力と命中率はブルーパプワ、連射性とコストでアナハイムという感じのようです」
「そしていいとこ取りするわけだな」
「はい、ただしアナハイム製のビームライフルですから共通規格部品ではないため少々改良が必要です」
「コストに優れてるはずなのにコストが上がるか」
「希少金属の使用量が少ないんですよ。ブルーパプワ製のものと比べると半分程度になってます」
それは大きいな。ビームライフルなんて消耗品だから安価な方がいいし、使われている希少金属はニューギニア特別地区でも採れるが半分ほどは輸入に頼っていたはずだ。
まぁモビルスーツにもっと多くの希少金属が使われてる。それのおかげで廃品回収業が盛んになってるんだけどな。
海賊狩りは10月初頭に終了。
成果は上々で、実際海賊がかなり減ったとあっちこっちから聞く。
それで国際信用を得て、国債や為替、株などが軒並みに上昇してウッハウッハ状態、バブルじゃなけりゃいいが。
それもあって連邦への食料輸出の値上げが深刻な問題になっている。
戦乱の火種がまた1つ増えたな。
「それにしても、連邦はいまだに復興が進まないのはなんでよ?汚職が進んでいるにしたって進まなすぎだろ」
すっかり執事が板についてきたマハラジャが答えてくれる。
「まず根本である食料自給が落ち込んでいること、地域政府同士利権争いをしていることです。そして何より問題なのが中国が分割され、ロシアが独立状態、オーストラリアはコロニー落としの被害から抜け出せておらず、ジオンが支配するインドネシアとベトナム、連邦の穀倉地帯が激減が主な原因です」
あれ、もしかして俺達のせいだったりするわけ?
「後、宇宙利権をほぼ全て失ったことで安定した食料生産が難しくなったこともありますね。ですから最近では宇宙利権でほぼ唯一残ったサイド7の拡充を検討しているそうですな」
その結果がグリーン・オアシスか?でもそうなるとティターンズが主導してることになるんだが……さて、どうなんだろうね。
「その辺を調べといて」
「了解しました」
いやー、できる部下って楽でいいね。
別にアイナやシーマ様達が無能というわけじゃないんだけど、やっぱり専門ほど有能じゃないよな。
さて、はにゃーん様とリリーナはどうなったかな。
「マリオンちゃん、ハマーン様とリリーナは何処に居るかわかる?」
「2人ならシミュレータ室にいるようですよ」
「ん?訓練させてるわけじゃないよな」
「そういう話は聞いてませんね」
いったい何があったのか、とりあえず会いに行ってみるか。
はにゃーん様はあまりシミュレータを好まないと聞いてたんだけど……まぁアクシズの時ほど必死になる必要性がなければやりたくないわな。
リリーナが誘った……わけないか、自我が育ったという報告は来てない。
ナタリーの進めという可能性が1番高いか、しかし女子がシミュレータで親交を深めるってどうなんだ。
さて、シミュレータ室についた——
「お姉さま、アレを使うわ」
すっごい棒読みなリリーナの声。
「ええ、良くってよ」
なんか嫌な予感がするはにゃーん様の声。
「うぉぉ?」
すっごく棒読みな(以下略
「スーパー?」
「イナズマッ」
俺達はそっとシミュレータ室から離れた。
なぜこうなった。