第百三十七話
今年は忘年会兼年度方針会議をする必要がなかった。
それは方針会議が政策部まとめてくれたおかげだ。
今年の方針は以下の通り。
・ロシア解放作戦で荒稼ぎ
・ロシア解放作戦に向けての生産体制の見直し
・第4コロニー、食の聖地『ルビー』の建造(ロシア解放作戦終了後)
・サイコガンダムを完成させ、サイコヴィエーチルへ昇華する
・アプサラスVIの開発(Vはアプサラス空母型で確定)
・支援砲撃機の新規開発
・宇宙船開発
・学校の増設(出産ラッシュによる生徒過多が予想されるため)
・南中国への投資減少、オーストラリアへの投資増加
・日本の対貴腐人党政党への支援
以上となっている。
上の4つは説明しなくてもわかるだろう。
アプサラスVIの開発は……まぁギニアス頑張れ。
そして支援砲撃機とはアプサラスVIとコンセプトは似ていて地上戦、宇宙戦において前線で一騎当千とは言えないまでも百人斬り程度には活躍が期待できるサイコヴィエーチルと養殖ニュータイプ達を支援するための一般兵士用のモビルスーツを考えようというものだ。
ニュータイプを養殖できる俺達にしかできないドクトリン、その名も『NT過労死ドクトリン』だ。
某遊びの王的なカードゲームの空気の読めない男も真っ青なドクトリン……いや、空気の読めない男の方がハードか。
現在は養殖ニュータイプとマリオンズに頼りきりなのが現状であるため、それの打開策でもある。
支援砲撃機のプランはいくつかあり、ガンタンクを手本に魔改造してどちらかと言うと種のザウートに近い無限軌道を採用した重砲撃型とザメルを手本にホバー走行が前提の長射程を重視した文字通りの砲撃型、ジムスナイパーやジムキャノン(原作で言うジムキャノンII)のように長射程のビーム兵器による狙撃機などが案に上がっている。
そういえば連邦はなぜロングレンジビームライフルを研究しないのだろうか、それとも隠してるだけか?
一応全種類開発してみようかって話になってる。
ドクトリン的には切り込み隊長サイコヴィエーチル、前線維持兼伏兵対策のαタイプ、前線の援護射撃スナイパー、中衛潰しのザウートもどき、後衛阻害のザメルもどき、と役割を与える予定。
宇宙船の開発は宇宙航行資格需要を見越してだ。
ブルーパプワにはフィッシュボーンという固有の宇宙船があるが、素人が動かすにはちょっと頑丈さが足りない上に、コンテナが外付けな上にユニットの拡張が簡単に行える反面、操縦が難しくなるなど少し玄人向けであるため、素人が迂闊なことをさせないように連邦のコロンブス級を手本にして硬い安い速くない(速いと絶対暴走する奴等がいるため)を目指している。
ちなみに硬さはザクバズーカを喰らっても運用に支障がないものを予定している。
安物買いの銭失いを狙ったわかりやすい商法なんてする気はない。
学校増設は以前ニューギニア特別地区の人口が3300万人だと言ったが……これ、未成年者を除いてなんだよね。
ここ3年の間に生まれた子供の数、660万人とか舐めてんのかって数字が叩き出された。
1年に直すと220万……現代日本の1億2000万人いて100万人だぜ?どんだけ頑張ったんだよ。
俺達が来る前のニューギニアは14万人程度だったことからしてどれぐらい大変な事態か把握してもらえるだろう。
義務教育である小中学校は当たり前として、高校と大学も増やさないといけないし、何より移民者はニューギニア特別地区より先進国で教育を受けたものがほとんど、つまり移住前の教育レベルを要求してくることは目に見えている。
教師や施設の手配……どんだけ金掛かるかなぁ。
まぁブルーパプワだけでするわけもなく……というかこういうのは国がすべきだよな。予算が足りなくて緊急国債を発行してブルーパプワが買っているにしても。
南中国の投資を減額する理由は、反対に増額するオーストラリアへの投資のため、そしてオーストラリアへの投資を増やす理由はオーストラリア政府が本当に限界です。助けてくださいと言ってきたからだ。
知っての通り、オーストラリアはコロニー落としの被害と連邦とジオンが激しくぶつかった地である。
酷い異常気象により穀倉地帯だったオーストラリアの面影はなく、インフラはズタズタ、企業は先鋭化していた影響で穀倉地帯への依存度が高かったため多くが倒産、人口の流出が止まらない。
しかもオーストラリアの首都キャンベラ、シドニー、ニューキャッスルの壊滅or消滅、ブリスベンとメルボルンは津波で大損害。
主要都市のほとんどは機能停止した。
これが独立戦争中と終戦後のオーストラリアの評価。
そして現在は全世界で多くの戦死者が出たので移民歓迎(ただし経済には打撃が大きくブラック企業もしくは奴隷のような立場になるが)状態で、人口流出は止まっておらず、企業も立て直しの目処なんてなく、連邦は威信回復と横領ばかりで戦後復興は地域政府に任せっぱなし。
他国企業を頼りたくても他国企業は自国の復興で手一杯、唯一日本とニューギニア特別地区が多少の手助けをしていたが本格的なものじゃなかった。
……そら、昔は自分より格下だった国でも泣きつきたくなるわ。
という訳でパパっとオーストラリアの一部を実質領有化しちゃおうと思う。
投資額は10兆ほど注ぎ込む予定。
この予算はロシア解放作戦での特需で稼ぐ予定である。
南中国の工業力もそこそこになってきているので期待できる……日本以外のアジア系によくあるルーズさがでなければいいんだけど。
そして最後の最重要項目、貴腐人の党対策として俺達と比較的友好的な現政権支援。
試しに現在BLステルスネガティブキャンペーンを実施中である。
規制を敷いたおかげで公共電波であからさまなBLは減り、広告マスコミも控えるようになった。
これで時間が経てば落ち着くだろう……と思ってたところで貴腐人の党だ。
下火になっていたのが大炎上、明暦の大火以上の大火事だ。
抑えようとしたことにより反動があったんだろうな。
ちなみに明暦の大火というのは江戸時代にあった火事で万単位で死人が出た火事だ。
その失敗も含めてステルスネガティブキャンペーンをしているわけ。
「1番金が掛かりそうなのが貴腐人の党対策とか」
「他のものは一時期は資金が必要ですけど見返りも十分ありますから……貴腐人の党はあくまで私達が勝手にやってることですからね」
そう言われると仕方ないんだが……現政権と仲良くはなっているけど、日本政府って頭が硬い上にアメ公の利権だから迂闊なことができないんだよ。
「そういやロシアには解放作戦のことは」
「営業ついでに伝えましたが、どうやら既に知っていたみたいで兵器を輸入してくれるそうです」
さすがアイナ、仕事が早い。
そしてさすがロシアだ。この世界ではまだKGB48は存在するのだろうか……KGB48が言いたかっただけじゃないぞ!
「ということは北中国もだな」
「はい、とりあえずロシアはドップブースター50000、αタイプ10000、南中国は10000と3000ほど欲しいそうです」
「…………マジか」
「大マジです」
いやいやいや、αタイプってNT-1やヤマトより安くて高性能(一般兵には)だと思ってるが、それでもドムIIシリーズやガルバルディβ、TR-1より値段は高い。
それを万単位とか、経済傾くぞロシア。
「あ、そうか、この戦いに負ければ賠償金とか色々あるでしょうから排水の陣なんですよ」
なるほど、その可能性は高いな……そしてマリオンちゃん、背水の陣な?排水の陣ってどんな陣よ。
「こりゃ先延ばしにする予定だった爆撃機の開発をしてもいいかもな」
「デブロックの設計図は既に手に入れてます」
本当に仕事早いなぁ。
そして喋り方がマリオンちゃんとアイナが似てるから区別がしにくい。
ちなみに今のはアイナのセリフな。
「なら予定を繰り上げて開発を始めるように言っておいて、優先順位は支援砲撃機の次で」
「わかりました」
そういや名前どうしよう。
戦闘機はドップの派生からそのままにした。それに倣えば爆撃機はドダイ……カッコ悪い。
「もう生姜焼きでいいか」
「いや、ダメでしょ」
間髪入れずにツッコまれた。俺達が喰えば生姜焼きなんだからいいじゃんよー。
「あ、忘れてました。ロシアからザンジバル級の製造依頼も来ていますがどうしますか」
……ザンジバル級は1隻で運用するのに向いていないんだけどな。
搭載できるモビルスーツにも限りがあるし、何より対費用効果が悪い。
俺達のように少数精鋭ならともかく、ロシアほどの軍になれば飾りにしかならない。
「それが10隻なんですけど」
本当にこの戦争で出し切る気だな、ロシア。
さて、ブルーパプワの生産力ではさすがに追いつかないか。
「ザンジバル級4隻を地球領へ——」
「地球領にも別口でモビルスーツの注文が行っていて手一杯のようです」
まだ頼む、だと?!
「サイド5にαタイプ製造を回して、こちらでザンジバルをできるだけ作ってみるか……こりゃ俺達も戦争だな」
「私達は何もしてないですけどねー」
「死神の陽炎には仕事依頼が来てませんが、いざとなればどうなるかはわかりませんよ」
どうせ連邦に仕事キャンセル依頼が来るんだから問題ないだろうけど。
「……そういえば仕事キャンセル依頼ってブルーニーさんとマリオンさん、ナンバーズの方だけですよね?」
……まさか……
「死神の衣の投入も考えてもいいのでは?予定通りならサイコヴィエーチルの開発も終了しているはずです」
なるほど、確かに契約で拘束されるのは戦局を単機でひっくり返す俺達とマリオンズだけだからな。
考える余地はあるか。