第百三十八話
「ロシア防衛戦には私も参戦させてもらおう」
「厨二は安全なところでするもんだ」
「くっ、しかしパトレイバーを得るためには戦場で力を魅せねばいけないのだろう?」
「部屋に戻って自分の無力さに嘆くがいい、それが厨二にピッタリだ」
「ぐぬぬぬぬぬ」
全く、はにゃーん様には困ったものだ。
言動自体ハマーン様になったんだけど中身はハマーン様(笑)だからなぁ
厨二は害がないところでして欲しいんだよ。ロシア解放作戦に、しかもロシア側で参戦させて欲しいって無茶ぶりにも程があるから。
「しかしブルーパプワはロシアに兵器を売っているではないか、それなら死神の陽炎も参戦してしかるべき——」
「残念ながら物事はそう単純じゃない。それはロシアも理解しているから死神の陽炎の派遣依頼をしてこない」
今更説明するまでもないはずなんだがブルーパプワと死神の陽炎は同じ系列ではあるが別会社扱いである。だからこそ、死神の陽炎はどちらの勢力に付くこともできる。
まだはにゃーん様が覚醒してないから世間知らずのお嬢様になっちゃってるわけだ。
「マリオンちゃん、ブートキャンプ士官コースを発動!」
「あいさー」
「ちょ、貴方達何処から現れ——は、放しなさい!」
説明しよう!ブートキャンプ士官コースとは養殖ニュータイプ部隊が700人を超え、マリオンズが指揮を執るには規模が大きくなってきたので養殖ニュータイプの指揮官を育てるために編み出されたスパルタ教育、それがブートキャンプ士官コースなのだ!
もっとも今までもブートキャンプほどではないにしてもマリオンズに教育されていたはずなのになぜこんなことに……やはり恋愛と失恋が人間を育てるのか?
もし士官コースで覚醒、いや、少しもマシにならない場合は……こちらで男をあてがって盛大に降らせるのもいいかもしれんな。(ゲス顔)
まぁさすがに冗談だけどさ、そんなことしたらマハラジャとマレーネが離反しかねない。
「マハラジャ達にもしばらくはにゃーん様は帰れないって言っておかないとな」
もし覚醒したなら、成人を待たずして戦場に出すことも考えるか、パトレイバーはまだまだだけどな。
未成年で人殺しとか対外的によろしくないんだが……まぁ、それをいうとアムロが可哀想か。
そしてはにゃーん様がどこまでニュータイプとして覚醒するかも楽しみだ。マリオンちゃんズほどではないにしても人類最強にはなれるかもしれない……そうなると不老化確定かな。
とは言っても今のところマハラジャが不老化処理する予定だから配偶者と子供も不老化処理の対象内なんだけどね。
俺達で勝手に決めた重要人物の不老化処理は内密に行われる。
重要人物ともなればマリオンズが同行する機会が増えるのでその際に逆行させているわけだが、その対象は当人、そしてその子供となっている。
つまりはにゃーん様もその対象なんだよなぁ。ちなみにあまりに問題があった場合は子供であっても逆行させない(当人が望んでも)予定だ。
「しっかしアイナには悪いことをしたなぁ」
いまだに不明点が多いヒールは行う度にデータを取っているのだが、最近になって判明したことがあった。
それは妊娠もなかったことにしてしまうということだ。
アイナ自身のデータではないのだが、それでも現在に至るまで懐妊しないあたり……
妊娠の症状が出る前なら当人すら気づかないのは救いだが、さて、どうしたものか……アイナの仕事を減らさないとヒール無し、なんてしたら1ヶ月しない内に体調を崩してしまう。
「本当は子供なんて作ってほしくはないが……」
子供ができると孫が欲しくなるのは通り、そして不老化処理は孫の世代からは実力で不老化処理を勝ち取らなくてはならない。
俺達にも燃料という制限があるし、そこまで面倒は見れないが当人達からすれば不当な扱いを受けてるように感じるだろう……んー……30年以内には問題になるが、それまでは放置でいいか。
「まずはシーマさんやコッセルさんあたりに相談してみるといいと思いますよ」
「まぁ、なんだかんだ言って一番信頼できるからなぁ」
日頃は見せないがシーマ様達はニューギニア特別地区内でしか生きられないため、俺達以上に必死に働いている。
ギニアス達はアプサラスシリーズを手土産にすれば逆亡命も可能だろうし、カーン一家はまだ日が浅い、アムロはブルーパプワに就職しただけで、メイはシーマ様と立場は似ているがまだ若いし何より俺達に連れてこれらた存在だから何かの拍子で嫌な方向に転がるかもしれない。
不老は人類の夢だから俺達でも慎重にならざるを得ないわけよ。
それにシーマ様はどうも自分が老けないことに違和感を感じてるようだし、話してみるかな。
「というわけなんだよ」
早速シーマ様を呼んで話してみた。
「……なるほど、最近肌のハリが良すぎるとは思ってたけど、そんな裏があったとはねぇ」
案外スマートに受け入れられたんだが、どうしてだ?
返ってきた答えは自分に都合がいいことだから問題ない、とのこと……なるほど、真理だな。
「くれぐれも内密にな」
「もちろんさ、こんなこと死んでも話はしないよ。そもそも信じてもらえやしないだろうけどさ。それにしてもマリオンのおかしな身体能力もそれの一種だと思っていいのかい?」
「というかナンバーズ全員がマリオンちゃんだったりするんだけどな」
「…………?」
さすがにナンバーズがマリオンちゃん本人だとは思わなかったらしい、まぁ思っていたら神憑り的過ぎるけどな。
「マリオンちゃん」
「はい」
マリオンちゃんが返事をすると同時に扉が開かれる。
開いたのはマリオンズで、シーマ様は内密の話を聞かれたと思って口封じのためか、いつも上着の内側に常備してある銃に手を掛けている。さすがシーマ様、反応がいい。
ちなみに幹部に関しては常時武装していいことになってる。敵愾心があればマリオンズが気付き、俺達に対して銃は有効な武器とはならないからな。
「大丈夫、ナンバーズはマリオンちゃんだと言っただろ?」
マリオンズは瞳や髪、肌の色まで変えている。
今のマリオンちゃんは昔と違って背中の半ばまで届くロン毛に対して、入ってきたマリオンズだって赤毛でボブカットだ。
そしてシーマ様の視線が自分に定まったとわかるとマリオンズが変化を始める。
「な、にぃ?!」
まぁ突然髪の毛が伸び縮みして肌や瞳の色が変化すればそりゃ驚くよな。
「「と、言うわけなんです」」
マリオンちゃんとそのマリオンちゃんと全く違いがないマリオンズが並んでシーマ様に告げる。
「……つまり何かい、ヒールと同じでこれもマリオンの異能なわけか」
「「正解!」」
「……じゃあ他のナンバーズも——」
「「全員私ですね」」
「ハハッ、通りで強いわけだねぇ」
どうやら納得したようだ。
「異様な伝達速度もこれのせいだったんだのか、なるほど……このことは他には?」
「シーマ様が第1号だ。おめでとう」
「「おめでとうございます」」
「まぁ、信頼されてると思えば嬉しいけどさ」
その言葉に嘘はないようで嬉しそうにしている。
「それで今後のことだが……」
「うーん、妊娠を防ぐといえば聞こえはいいが、妊娠できないと言えば問題か。私は子供が欲しいとは今のところ思わないけど、確かにアイナあたりには問題あるね。少し仕事を減らすことはできないのかい?」
「代わりをシーマ様がやってくれるなら」
「冗談はよしな。私が調整役ができたのはあくまでブルーニー達の威光があってのことさ。特別地区から出れば交渉なんて脅しぐらいしかできないさ。アイナのように強かなことはできないよ」
そう、どの会社でも言えるけど、結局は営業の力が会社の力なんだよなぁ。
シーマ様も自身ではそんなこと言ってるけど強かさはあると思うがアイナには一歩も二歩も劣る。
ブルーパプワの人材不足はいつになったら解消されるのやら。
「1番の解決方法はやっぱり本人に教えることだよ。アイナにも不老化処理をするつもりならなおさらさ」
「やっぱりそれが1番かー……今は忙しい時期だからロシア解放作戦が終わったら話すかな」
「そうしな。今アイナに抜けられると損失がバカにならないからねぇ」
うん、自分勝手な俺達だが、やはり相談できる相手がいるとスッキリするな。
「これからも頼りにしてるからな」
「な、なんだよ。藪から棒に……ま、出来る限りのことはするさ。私自身のためにもね」
「今回の借りは将来コッセルとガイアのことで返すからな」
「え、あ、ちょ?!」
時が流れるのは早く、0084年2月。
サイコミュが完成したとムラサメ研究所から報告が上がった。
春というには少し早いが、エラーとか欠陥品でなければ早い分には問題ない。
早速サイコガンダムに載せてマリオンズの試乗。
『へぇ、新型というだけあって感度良好です。反応速度が30%ほど速くなってますね。それに何より負担が減っているようです』
ほほぅ、負担の軽減か。それはいいな。
アプサラスIVのパワーアップフラグキタ━(゚∀゚)━!
間違いなく可動砲やビットが増える。
それに養殖ニュータイプの継戦能力が上がるのもいい……でも弾の方が先尽きそうではあるが。
外から見ていてもサイコガンダムの動きは滑らかになっている。
これは期待できる機体だ!……
『なぜか凄く寒いです』
まさかそこまでダジャレが届くのか?!
「次は養殖ニュータイプに代わってくれ」
『はーい……クリスさん、操縦してみますかー』
『ええ?!わ、私ですか』
……通信から林原ボイスが聞こえたような気がするが気のせいだ。
きっと戦争が近づいてきたから浮かれて——
『ク、クリスチーナ・マッケンジーです!よろしくお願いします』
どうやら俺と話すのに緊張気味らしく声が硬い、初々しいもんだ。
それにしても幹部を除けば女性が少ない死神の陽炎の中でマリオンズが指名するほどの腕前ってすごいな。
赤髪の美人さんだからモデルでもできそうなのに……さて、そろそろ現実をみるか。
なんでクリスチーナ・マッケンジーがこんなところにいるんだよ!いや、別に問題ないけど!
そういや随分前に養殖ニュータイプの名簿の中で見たような……本人だったのか。
NT-1がアムロに渡ってる段階でポケ戦がなかったのはわかってたけど、なぜここに?
『では始めます』
……本当に有線式可動砲を動かしてるよ。クリスさん……本当にニュータイプになっちゃったんだね。
今ならバーニィも瞬殺だね!