第百四十一話
ロシア解放作戦、始動。
連邦はヨーロッパ方面から、エゥーゴは何気に支配下に置いてるっぽい韓国から、ティターンズは本拠地である西中国から攻める。
主攻は連邦が務め、ティターンズとエゥーゴは助攻。
ただしティターンズだけはジオン地球領がこの隙に動かないと言えないためいい加減戦力が少ないのにロシア解放部隊と四川省防衛部隊に分けた。
他にも言い分的には治安維持部隊である以上侵攻することは本領ではないとも。
そうなると各個撃破してくださいと言っているようなものだが、ロシアとティターンズは秘密協定が結ばれているらしい。
ジャミトフは素直に教えてくれるけどいいのかね?そんなに俺達を信用して。
サイコガンダムをなんとか10機揃えて養殖ニュータイプと共に出荷、その代わりサラ・ザビアロフを引き取って教育することにした。
はにゃーん様とリリーナあたりと仲良くなってもらいたいものだ……いや、年齢からするとセラーナの方が近いか。
現在の戦況はロシアが有利と言っていいだろう。
別に連邦側が負けているわけではないが、進攻を見事に止められている。
初戦からこれじゃ先は思いやられそうだが連邦もまだ本気じゃない。
解放作戦前から連邦とロシアで激しい情報戦をやりあっていたんだがそちらは完全に互角で、ロシアがどの程度の戦力を整えているのか把握しきれていないので連邦は慎重な前哨戦を行っているのだ。
エゥーゴに関しては……ぶっちゃけほとんど相手にされていない。
あまりにも規模が違う戦力で、連邦も本格的に攻めていないため攻勢に出れない。むしろ少しずつ押し込まれているようだ。
ロシアが独自に生産している主力兵器は前衛ドムIIと中後衛に旧式になりつつあるザクIIキャノン。
いくらロシアが資源大国と言っても資源には限度があるから恐らくドムIIのいくらかはアナハイムが流したものだろう。さすがアナハイム汚い。
「そういえば連邦はGP02を開発したけどアレってどう考えても宇宙専用機だよな。地上ではどうする気なんだろ」
「情報は入ってきていませんが連邦の国土はほとんどは地球なのですからもちろん用意しているでしょう。まだ前哨戦ですから見せ札だけで様子をみているのでしょう」
そらそうか、前哨戦から最新兵器を使って対策なんて立てられたらたまったもんじゃない。
何より問題なのは技術を盗まれることだよな。ブルーパプワではそれで随分ショートカットしている。
そういう意味ではサイコタイプはハード(機体)はともかくソフト(ニュータイプ)はほぼ盗めず応用も簡単ではないから優れた技術と言えなくもない。
そのサイコタイプを唯一持つティターンズは様子見だけどね。
「それにしてもいいのか、いくら士官コースをクリアしたと言ってもまだ未成年のハマーン様を参戦させて……しかもロシア側に」
そう、はにゃーん様は無事士官コースを卒業した。
養殖ニュータイプが何人か死亡者が出たということがわかった士官コースだからさすがに辞めさせようと何回か話したが何処からそんな熱意が湧いて出てくるのか、はにゃーん様は頑なに受け続けて見事卒業と相成った。
マハラジャも本人が望むならそれでお願いします、と言われた……スパルタやね。
「ハマーンも将来は人の上に立つ役職に就くつもりでいるなら自分の言葉に責任を持つべきです。もちろん失敗した時は私も責任を取りますが」
これがエリートというやつか、現代日本なら未成年だから……とか言って有耶無耶にするか言い訳ばかりして責任逃れする親ばかりだったがなぁ。
まぁ俺の偏見もあるだろうけど、少なくとも俺の周りにはそんな親ばっかだった。
「精鋭の死神の衣と共に送り込んでいただいたので命の心配はしていません」
いつの間にか養殖ニュータイプの二つ名が死神の衣で定着してきているのか、まだ公式の二つ名じゃないんだけど……まぁ二つ名って本当は勝手に決めるものじゃないんだけどさ。
マハラジャが言っている通り、養殖ニュータイプの中でも優秀な人材をはにゃーん様と共に送り込んだ。
数は30人と小規模だが精鋭を選抜したから数字通りの強さではない。とはいえ、こんな小規模の派兵になったのには理由がある。
まずロシア側から依頼を出してもらえたのがこの程度だったことと兵站が維持できそうなのがこの程度だということだ。
「しかしサイコタイプの開発が間に合わずカスタマイズしたαタイプしか手配できなかったのが心残りなんだが」
サイコタイプ、正確に言えばサイコヴィエーチルの開発というか設計が間に合わなかった。
サイコガンダムができたのだから直ぐにできるだろうと思っていたがサイコガンダムができて運用を始めたばかりに修正案が次々出てきてサイコヴィエーチルの完成が遅れる結果となった。
完成は早ければ7月、遅くても8月には……という話だがサイコガンダムが前線で戦うようなことがあったらまた伸びるんじゃないか?
一応新型ビームライフルは完成して何処よりも先に配備したが安心要素としては心許ない、相手も新型ビームライフルを持っているのだから。
まぁ、マリオンズをこっそり送ってるから大丈夫だと思うけどね。
なぜそんなことをしたかというと、各国がマリオンズの人数を16人までしか把握していないことを知ったためだ。
現状で3人がフリーで動けるので1人ぐらい送ってもバレないだろうと安易な考えだったりする。
なぜこれほどはにゃーん様を守ろうとしているのかというと……まぁ原作で結構好きなキャラだったからと言うのもあるが、それは主因ではない。
一番の原因は……マハラジャが責任取って辞められたりとかされると俺達が忙しくなるからだ。
いや、マジで困るからね。降格とかされても困るし、マレーネにまで影響するから更に困ったことになるし。
いやー人間(?)って1度楽を覚えるとなかなか元には戻れない。
政策部をまとめてるのマハラジャだからなぁ……今はいいけどアンチ俺達ができたらどうしよう。
「戦場に絶対はない、覚悟はしておけよ」
「わかっております」
本当かね?なんだかんだ言ってマハラジャは独立戦争時、アクシズという戦争がないぬるま湯に浸かっていた。
もちろん辺境での暮らしは大変だっただろうがそれとこれとは話が別だ。
まぁ、はにゃーん様に関しての心配は死ぬことより——
<ハマーン・カーン>
……勢いで来てしまったが大丈夫だろうか。
私は……戦場に、来ている。
大丈夫、私は死なない。
リリーナもいるし、クリスもいる……あの怖い存在も今は頼もしい味方だ。
『ハマーン様、作戦予定時刻です』
「ひぅ……わ、わかった。では、これより朝鮮半島攻略作戦を開始する」
突然クリスの声に驚いただけだ、ビビっているわけじゃないぞ!
目の前にあったハッチが開き、薄い白い雲と地上に森林が見える。
私達はこれからエゥーゴの拠点の1つ、平壌を攻撃する。
西の連邦との戦線は始まって早々に膠着状態となっている今のうちに朝鮮半島を無力化したいというのがロシアの狙いだ。
私達が派遣されたのは早期決着を目指したからだろう。
「降下開始!」
宣言をすると隣にいたクリスが乗るαタイプが前進し、飛び降りる。
そしてリリーナも、もう1人の機体も船から消え、私の番がやってきた。
ああ、ここを飛び降りれば私は引き返せない……いや、もう引き返すことは許されない。
隊員を見捨てて逃げていくような自分は見過ごせない。
いけ、ハマーン。
「ハマーン、出るぞ」
『ご武運を!』
オペレーターからの返事を聞き、ハッチから飛び出す。
地上まではあっと言う間だ。
予め空軍で制空権を確保し、爆撃を行ったおかげで対空砲火はほとんど受けず、平壌郊外に着陸することができた。
「では予定通り、平壌を目指して制圧を——これは」
『敵、ですね』
ミノフスキー粒子が散布され、センサーが役に立たなくともニュータイプである私達にはわかる。
敵意を感じる。
しかし本来ここには敵がいないはず、それがいるということは——
「情報が漏れているのか」
そうなると西の戦線の膠着も囮か?
いや、それは気にしても仕方ない。
「クリスは味方の把握を、リリーナは敵から気を逸らさず警戒」
『了解』
『了解』
いきなり戦闘とは——運があるのかないのか。