第百四十四話
<ハマーン>
舐めていた。
グラサンは伊達ではないことはわかっていたし、気に入らない黒い方も気に入らない(大事なことなので以下略)がプレッシャーで強いことはわかっていた。
なら何を舐めていたか……それは——
『第12小隊撤退!』
『こちら第3小隊、救援を——』
『支援はまだか!!』
この通信を聞けばわかると思う。
エゥーゴの強さが…………ではないぞ。
この通信はエゥーゴが出しているもの、つまり私が苦戦している間に——
『第2塹壕制圧完了、そちらの支援は必要でしょうか?』
『第2中隊、後方の敵半数撃破。こちらの被害は2機が中破、現在修理中』
『スナイパーライフルが酷使により1丁損失』
舐めていたのは己が所属するニュータイプ部隊の強さだ。
それに途中補給物資(ビームコーティング済みコンテナ)が投下され、無事受け取れたことが追い風となった。
支援は断り最後の塹壕攻略を指示して目の前の赤い1つ目を見据える。
「後は奴をやれたらいいのだが——」
サーベルで装甲をいくらか溶かすことには成功しているのだが、決定的なダメージを与えることには失敗している。
私にはほとんどダメージがない。
唯一完全に命中したのは頭部に隠されていたバルカンによる不意打ちのみだ。
『くぅ、こんな子供に押されるだと!』
「戦場に年齢なぞ関係なかろう」
『なぜ君のような子供が傭兵なんてしている!』
「ふん、貴様にはわからん私の理想(パトレイバー)があるのだよ」
この共鳴もだいぶ慣れてきた。
そういえば部隊の者やナンバーズとは共鳴をした覚えがないが……と、そんなこと考えている場合ではないな。
「フッ!」
右手に持つサーベルを振るうがもちろん躱される。その際に隙を作って誘ってみたが、さすがにそれに引っかかるほど単純な相手ではない。
「これは決着がつかんな。サイコタイプなら勝てたのだろうが……」
奴も同じことを思っているに違いない。
しかし持久戦がこちらに有利になるとなれば奴もこのままではいられまい。
攻撃して躱され、攻撃されて躱しがしばらく続いたが戦況に変化が生まれる。
黒い方がクリスとリリーナの攻勢に耐え切れなくなり、肩から先が斬り落としたのだ。
これで形勢は決した……と思ったんだがな。
「ち、増援か」
ここに来て同じ新型が2機、とは言ってもニュータイプではないようだ。
さすがに戦況が厳しいと予備兵力を投入……にしては様子がおかしい……なるほど、グラサンを逃がすために自分達が殿をするというのだな。
奴は黒い方を助けに行くのか、そしてこの2機は私を足止めか。
「しかしオールドタイプが私を相手すると舐められたものだな」
この増長が切っ掛けで後に死にそうな思いをするのだが、この時の私はまだ知らない……ナンバーズの天狗鼻叩き折りコースは本当に死ぬかと思った。
「2機で私と戦おうというするその姿勢には敬意を払おう」
相手がニュータイプでないならライフルで十分だが、あえてサーベルで戦う。
ライフルで牽制してくるが、その程度で当たるものか。
「なんだ。殿を務めるのではなかったのか、逃げ腰になっているぞ。やはりその程度か凡俗共」
まずはコクピットを……と思ったがオールドタイプとはいえ、さすがは熟練者、突きが躱されるとはな。
「代わりに腕をいただこう」
空振りになったサーベルの機動を上に変える。そこでもう1機の黒いのが援護にライフルを撃ってきたせいで肘から先しか斬り落とせなかった。
ライフルを躱すのに距離ができる。αタイプは元々高機動機として開発された機体だからサブウェポンが豊富ではないから中距離はあまり得意ではない。
サーベルで相手をすると勝手に宣言した手前、ライフルを使うのは個人的に気が引ける……が、相手は私のライフルがエネルギー切れしていて撃てないと判断したらしく距離を取り始めた。
「面倒だな。誰かに宣言したわけでもないしライフルを使うか」
あくまで私の矜持の問題だからな。
なんだか平行世界の一騎打ちに拘った私に怒られそうだが……ん?電波か?
騙し打ちをしたような形になるが……そんなことを気にしていたらナンバーズの拷問にあってしまうので気にしない。
「凡俗は凡俗なりに楽しかったぞ凡俗」
サーベルの間合いにしようと距離を詰めるように動く、すると相手は反対に遠のく……がそれが私の狙いだ。
技術格差がなくなっている現在のモビルスーツではこちらがスラスター全開で動けば相手も同じようにスラスター全開で後退しなくてはならない。それでも前に向かう方がスラスターの配置の関係で速いんだがそこは気にするな。
大事なのはスラスター全開で後退すると変化が乏しくなり、Gの掛かり方の問題で操縦も難しい。つまり——
「いい的になるのだ」
私も散々ナンバーズにやられたからよく知っているぞ。
腰のハンガーに片付けていたライフルを引き抜き、片手がない機体は脅威度が低いからもう1機の方を狙う。
構えはぞんざいだが外す気はしない。素早く引き金を引き、それは狙い違わずコクピットを撃ちぬく。
『ロベルト……後は頼む』
ロベルトというやつがもう1機のことなら大丈夫だ。すぐに送ってやる。
動揺している1機にライフルを向けて引き金を引いた……が目標には命中しなかった。だからといって私が外したわけではない。
『ごめんね。手出しするつもりはなかったんだけど、ハマーンさんがちょっと考えなしだから出しちゃった』
……厳密には手を出したのではなく、蹴り飛ばしたのだが。
蹴り飛ばしたのはもちろんナンバーズが操るαタイプだ。
「む、私の何処に落ち度があると——」
『士官マニュアル第3章10項』
「未確認兵器は可能な限り完全に近い状態で鹵獲…す…べ…し?」
あ、私、また死ぬな。これは。
戦争、しばらく続いて欲しい……ナンバーズが忘れるぐらい。
『今のところ70点、これ以上減点するようなことがあったら……今度はフルコースか、もしくは新コース開拓ですね』
「イエス、マム!」
新型をシャッフルしてパイロットの無力化をしてながら言われるとよけいに怖い。
ここで刃向かえるやつがいるなら会ってみたいものだ。
『ちなみにオールドタイプだと舐めた態度が癇に障ったので強化合宿はしますからね』
私\(^o^)/オワタ
なんだか久しぶりの出番な気がするブルーニーだ。
はにゃーん様が随分無茶な作戦に参加したことに今更になって顔を青くするカーン一家……本当に今更すぎるだろ。
朝鮮半島攻略作戦の初動である平壌への奇襲は情報漏れで敵が配備されていたものの養殖ニュータイプ部隊が粉砕、見事平壌を制圧してみせた。
これでその周辺も制圧できたなら黄海→西朝鮮湾→大同江で補給物資が届けられるようになる。
そしてビックリなことにアポリーが死んだこととロベルトが捕虜、そしてリック・ディアスが鹵獲できた。
リック・ディアスは元々ドムの系譜ではないか?という話があったが、生で見るとほぼドムだ。
恐らくエゥーゴがアナハイムに製造を頼んだんだろうが……そうなると実はネモもこっそり仕様変更がされる可能性があるな。
……リック・ディアス、スカート履いてるし、ね。
シャアとララァとも戦闘になったらしいがハマーンはシャアを圧倒、クリスとリリーナはララァを倒す目前までいったそうだ。
はにゃーん様がハマーン様に変わるのも近いかもしれんな。
リック・ディアスはロシアのマスドライバーで打ち上げてもらって今はエメラルドで解析中。
ロベルトはどうしようか、エゥーゴと取引で何か引き出せるかなぁ。
「ハマーンさんは操縦自体はもうほとんど言うことはないですね。ただニュータイプレベル優れていて相手の精神を察しすぎていることと、指揮能力には今も不安が残りますがクリスを副官につけていれば問題ないと思います」
でも、クリスが指揮官でもいいのが難点だよな。
まぁこれも育成と思って気長に様子を見るか。
そういやはにゃーん様からのレポートで気づいたんだが養殖ニュータイプはなぜかニュータイプと共鳴することはないようなのだ。
養殖ニュータイプは強化人間でもなく、ニュータイプでもないってことなのか?
マリオンちゃんズが他と共鳴できないのは圧倒的上位者であることと人間でないことが起因しているだろうと予想がついてるんだが。
まぁ共鳴って相手は精神と精神の会話だから同情や親しみなどが生まれてやり辛くなるだけだから起きない方が楽でいいんだろうけど。
「ロシアは平壌までの補給ラインをなんとか確保することに成功していますが、朝鮮半島が攻められていると知った連邦が激しい攻勢に出るようになってきてロシアに余裕がなくなってきたようです。」
「まだ開戦して半月と経ってないんだけどなぁ」
国力の違いは軍事力の違いだ。
今のロシアを見ていると第2次世界大戦の日本を見ているようだ。
巨大な敵(アメリカ)に足掻く小国(日本)って感じだよな。
まぁそれでも国土差はまだこちらの方がマシだけどさ、俺達も支援してるしジオンも間接的ながら支援してるし。