第百五十六話
「オッゴ頑張れ!負けるなオッゴ!」
「そっちはダメですよ!右です!ああ、掠っちゃいましたよ」
地味な戦いばかりしているから暇になった俺達は一生懸命生きようとするオッゴを応援中である。
ただ、驚くことに10機いるオッゴ達は開戦30分が経った現在も全機無事という奇跡を見せる。
オッゴなんだから支援部隊とかそんなもんだと普通思うだろ?でも今戦ってるのは宇宙で、しかも戦力に差があるんだから支援部隊、つまり後方まで部隊が抜けられることが多々ある。
それにオッゴが対応しようってんだから……(´;ω;`)ブワッ
「というかなんであんなに無駄に操縦が上手いんだ?オッゴなんて下っ端に使わせてなんぼの兵器だろ」
「キシリアさんのことですから気に入らない、反乱分子なんかをオッゴに乗せてるんじゃないですか」
ありえるな。
それでも全機生きながらえているのはやはり連携がいいことと、オッゴなのにビームライフル装備という点だろう。
オッゴにビームライフルとか贅沢過ぎる。
そのおかげで2機のガルバルディβを落としてるんだから大金星だよな。
「お、補給の時間か。オッゴ、お疲れさん」
「お疲れ様〜」
これで無事帰還するとガルバルディβ2機を落とす優良機に見えるから困る。
あくまで数的有利の上に、命の危険を顧みないことが前提となる兵器だから正規軍人を乗せるには役不足(正しい意味で)だ。
民兵に使わせるにはいいけど人道的にどうかという問題もあるし、下手をすると命惜しさに寝返る可能性まで上がるんだから本当に緊急事態の時にしか使えない。
「小型ビグロは自分達の編み出したモビルスーツを否定するようなコンセプトだな」
「ですね。まるで少し大きめの戦闘機ですよ」
その動きが一番近いものはメガライダーかな。
基本的に高出力なメガ粒子砲と機動力を活かして高町なの……じゃなかった移動砲台、偶にモビルスーツを乗せてSFSのような役割を果たしている。
どうも大型ゲルググNと組んで運用するものっぽいんだが、サイズの問題で挫折したんじゃないかと予想してみる。
簡単に言うと俺達がサイコタイプを空母型アプサラスを開発しているのと似たようなものだろう。
……あ、Gファイターの方が近いか、TV版は1回しか見てないからすっかり忘れてたわ。
「デザインがビグロなところは小さな抵抗なのかねぇ」
手も何のために付いているんだが……ボールのように宇宙で作業をさせること前提か?あ、これは普通のビグロにも言えることか。
わざわざコスパが悪いビグロで作業をやらせる意味は無いし、接近戦なんて一撃離脱戦法が基本のビグロの長所を消すだけだろ。
……あれ、そういやビグロの開発元ってMIP社じゃなかったっけ?
それはともかくとして、いま注目すべきは——
「大型ゲルググNのIフィールドとグフのビームマシンガンは相性が悪いな」
「1発程度ならIフィールドで防げても続けて2発当たるとジェネレーター出力を上回って貫通しちゃいますからね。パイロットがニュータイプじゃなかったら大半は撃沈判定です」
Iフィールドしょっぺぇ。
普通のビームライフルは遠距離じゃないと防げない。
ビームマシンガンだと続けて2発は防げない。
わざわざ大型にしてまで載せる価値あるか?これ。
まぁ背後からの不意の一撃とかには有効かもしれないけど……もう少し出力が上がれば超遠距離の狙撃なら大気で減衰して着弾する頃にはビームコーティングと合わせれば防げるかもだが、やはり大型化するほどの価値はないかな。
そもそも死神の衣の被害は10機程度だから致命傷とはいえないし。
「一般兵にはその程度のものでも多少は安心して戦えるなら効果はあるかもしれませんよ」
パイロットは一般兵じゃなくてニュータイプだけどな。
まぁ貴重なニュータイプの死亡率を減らすこともできるからいいのか……それにしても紫ババァの護衛についてる部隊が強すぎる。
旗艦を狙うグフ9機とガルバルディβ30を魔改造ドムII6機で瞬く間に撃破している。もしかしてキマイラ隊か?ただ、俺はキマイラ隊が出てくるジョニーライデンの帰還は読んでないから確証はない。
ジョニー・ライデンらしい機体もないから余計にわからん。
「あの人達、ニュータイプでもないのに凄いですね。下位の死神の衣なら瞬殺されますよ」
マリオンちゃんお墨付きか。
言葉の裏には中位以上、つまり大半の死神の衣には勝てないと言ってるんだけどな。
それでもニュータイプカウンター……だったか?の役割は一応成していることになる……のか?
<マリガン>
転生してガンダム世界キタ━(゚∀゚)━!……のはいい、ガノタの俺が原作知識チートしてやるぜ。
と最初は思ってたんだ。自分の名前を知るまでは。
なんでこんなマイナーキャラなんだよ。
原作知識チートを使うんだったらあまり関係ないか、と思ったんだけど人脈はなく、金は普通の家よりは裕福だったけど金持ちではないし、頭脳チート(1回見聞きしただけで覚えれるとか)もなかったから勉強も全然ダメ。
弱そうな見掛けなせいかドズルから声がかからず、ギレンは忠誠度を示せず、仕方なくキシリアんとこに所属することになったし、コロコロ声は変わるし、グラナダ勤務だから戦況を左右させるような何かができるわけじゃない。
唯一誇れるのは原作では大尉でしかなかったマリガンだが、今の俺は中佐だ。
アナハイムが重要になることはわかってたから営業を掛けまくって資金援助や開発協力などをさせることに成功した功績が認められたんだ。
決してアナハイムからの圧力じゃないと思う。
しかし順調だったのはここまで、そろそろアクシズ当たりに逃げないといけないかなぁと思い出した1年戦争中盤、そこから突然原作とかけ離れた展開に訳ワカメ。
調べてわかったのはどうも転生者は俺だけじゃないみたいということだ。
アムロがフルバーニアンもどきに乗ってたり、バスクが死んでたり、ジャブロー強襲でアプサラスが出てきたり、特筆すべきはブルーディスティニーなんていうマイナーな機体が無双ゲーしてるってことだよな。
ブルーディスティニーだけガンダム無双の世界からやってきたんじゃないかと疑いたくなる。燃料切れ起こさないってどういうことだよ。
ガンダム無双にブルーディスティニーは出てないけどよ。
一体何人の転生者が関わったらこうなるんだ?
何はともあれ、ジオンが実質勝利して俺の死亡フラグは立たず平和な日常が……待ってなかったんだなぁ、これが。
「右翼が後退!押されています!」
「第13小隊とキマイラ第3小隊を向かわせろ」
「中央突破されました!β3、グフ3!」
「ビーム撹乱幕を発射して時間を稼げ、どうせメガ粒子砲はなかなか当たらんからな。代わりに艦隊を集結させ対空砲を集中させて早く落とせ」
「了解!」
俺が今いるのはティベ級巡洋艦ドイッチュラント艦長にして前線指揮を執っている。
キシリア派ではなかったんだけど仕事を真面目にしてたら知らない間にキシリア派にされてた。
なんで俺が前線で指揮を執ることになったのかというと、グラナダ勤務と言ってもずっとグラナダにいたわけじゃなくてソロモン決戦の時に俺も参戦してたんだ。
そこでの指揮が認められたんだけど……嬉しくない。あの時は死に物狂いだったからさ。
ソーラシステムで隣の艦が沈んだ時は冷や汗でたよ。
「NN(大型ゲルググNのこと、エヌツーと読む)を交代させます」
「ドムII、15%損耗、再編を行います」
前線指揮を引き受ける代わりに艦橋スタッフを女性だけにしたいなんて言わなきゃ良かった。居心地が悪くて仕方ない。
まさかキシリア閣下にこの手の冗談が通じるとは思わず、悪ければ銃殺か、と思ったが躊躇なく頷かれた時はしばらく理解が追いつかなかったね。
と言うか、誰だ!俺のパソコンに入ってるエロゲーのリストなんて提出したの!
スタッフがみんな美人で嬉しい……なんて思うのはよほどの馬鹿だ。
自分の面に自信があればもしかしたらあるかもしれないが、むしろブサイクよりだと思ってる俺はヒソヒソと内緒話をしているだけで俺の悪口を言っているように見えてしまう。
ああ、早く解放されたい……いや、死にたいわけじゃないからな?
まぁ唯一ハズレっぽい——
「なんですか、その失礼な眼差しは」
「なんでもありません!シムス中尉!」
原作キャラが配属されたと思ったらこのドSさんなんだよなぁ。
副官としては有能なんだけどヒステリックなのでご機嫌を損ねると一気に仕事しなくなる。
もう少し私情を抑えて欲しい。
あ、他にも何気にユウキ・ナカサトとかもいたりする。
オデッサ作戦で死ななかったんだね。良かった良かった、あの巨乳が無くなるなんて人類の損失だからな。
おっと、変な妄想してたら環境スタッフ全員から冷たい視線が……皆さんニュータイプですか?それならキシリア閣下に推薦してあげますよ?
ああ、胃が痛い。
「おっとっと」
艦橋が揺れる。どっかに当たったか。
ビーム撹乱幕で減衰してるからダメージは少ないはず。
「右舷に被弾、被害軽微、修復作業開始まで3分」
「グフ1、β2撃破。敵、後退します」
「密集態勢解除、アイギス級からはみ出してるムサイを狙え」
「当たるとは思えませんが」
「アイギス級がいる限りこんな方法しかないだろ」
「ふん」
わかってて言うんじゃない。
今は実戦、本番中だぞ。模擬戦じゃないんだ。
「現状互角、予想よりNNとキマイラ隊が奮闘してくれているからどうにかなってるがこのままだと切り札を出すのはこちらが先になりそうだ」
ニュータイプ専用ノイエジール、1年戦争……じゃなくて独立戦争か、いまだに慣れないんだ……の時にも活躍してたがそれを改修した機体だから活躍が見込める。
なんて思わない。
そんなことギレンもやってるに違いない。
くそ、ガトーの兄貴が敵とか罰ゲームかよ。