第百五十七話
あのティベ級から苦労人のオーラを感じる。
ただしマリオンちゃんは特に感じないというからニュータイプではないらしい。
「やっぱりアイギス級ができて艦隊の戦い方を変える必要があるな」
「私達には無縁ですけどね」
アイギス級がグワジン級のメガ粒子砲を防ぐのを見てると改めてそれを感じる。
ソロモン決戦ではマゼランとサラミスが相手だったからイマイチインパクトがなかったんだ。
だってほら、マゼランとサラミスってやられ役的な感じだからさ、Iフィールドが凄いのはわかっててもどうも実感しづらいというか、先入観のせいで受け入れ難い。
それに比べるとグワジン級はギレンの野望の一年戦争ではある1点を除くと最強の艦だからな。
ちなみに弱点は1射程の武装がないことだがこの世界ではちゃんと対空砲がハリネズミのようにあるから死角なしの資源食いな艦である。
なんとなく戦艦大和を思い出させるな。
「せっかくビーム兵器が流行ってるのにまた実弾兵器に逆戻りか?」
「でもそうするとスペースノイドは困りますよね。流れ弾が当たっちゃう可能性があるんですから」
「だよなぁ」
自分達でアンチ兵器作るなんて皮肉だな。
まぁ、実弾兵器に戻れないと言うなら選択肢はそう多くない。
1番有力なのがこれまで以上にモビルスーツ開発が盛んになるってことかな。
アイギス級はグワジン級と同じぐらい大きいこともあってIフィールドの範囲も広い。その範囲の内側にモビルスーツが入ればビームライフルでどうとでもできる。
現に紫ババァ側のアイギス級が4発ほど被弾しているからな。幸いIフィールドが生きてるし、沈む様子もない。
もしかして可変モビルスーツの時代が来るのか?推力を一方向に集中するから機動力があるから一撃離脱戦法が得意だし……やべぇな、出遅れたかも。
まぁぶっちゃけアプサラスIVとアイギス級が組んだら無敵……いやアプサラスIV単体でも無敵だから鬼に金棒か?でもマリオンちゃんが鬼ってのはちょっと……って話が逸れてるな。
「可変モビルスーツの開発を急がせるべきか」
「でも今開発してもフジのパチもんができるだけですよ」
そうなんだよなー、ムーバブルフレームができればZガンダムができる……って量産機には結局可変機能がなかったりメタス系の簡易可変になったんだっけ。
つまりメタス系が正解なのか?個人的にはハイエンド機(マリオンちゃんズ)こそ正義なんだけど。
ロシアから鹵獲したフジのデータを貰ったけど可変機構が複雑で、更に全てがヤマトとは別規格の部品なのだから恐れ入る。
いくら発泡金属の方が安いとはいえコスパが酷そうだ。可変機構ってメンテするの大変そうなんだよなぁ。
いい加減サイコミュのメンテでも面倒なのにこの上可変機構とか……再設計も必要だし、生産期間も長そう、メリットよりデメリットが多くないか、これ。
こうやって考えてみるとマクロスのバルキリーって凄いな。
「あ、戦況が動き始めましたよ」
「とうとうノイエジールのお出ましか」
その姿はやはり紫ババァ側から現れた。
それと同時に大型ゲルググNが補給のために後退。
ノイエジールはニュータイプ専用機化が更に進んだのか、ただ改造改修しただけなのか姿がそこそこ変わっている。
まず腕が4本になり、ビット・キャリアーはSEEDのミーティアみたいにゴツくなってる。
何より——
「本体だけでもメガ粒子砲の数が増えてるな」
「観測結果、偏向メガ粒子砲13門、メガ粒子砲10門ありますね。他にも何かありそうです」
「……もしかしてアプサラスを意識して作ってたりするかもな」
「可能性は高いと思います。これ以上アプサラスIVに近づくことはパイロット的に無理でしょうけど」
そりゃそうだよな、23門ものメガ粒子砲を操るのはなかなか難しい。
「何よりあのメガ粒子砲の数を操りながらファンネルは飛ばせないんじゃないでしょうか」
「言われてみればそうだよな。パイロットへの負担が大きすぎる」
サイコミュ開発の先駆けとは言っても紫ババァの資金力では俺達とティターンズが共同で開発しているサイコミュを上回っているとは考えづらいから恐らくノイエジールに搭載されているサイコミュは旧式、もしくは俺達のサイコミュを下回っていると考えられる。
しかもアプサラスとは違い高機動を売りにしているために機体操作までやらないといけないから難易度は比にならない。
ビットが最初にモビルアーマーに付けられた原因は恐らくモビルスーツのような複雑な機動をすることが難しかったからじゃないかと思う。
「おっと、あまりお目にかけない拡散メガ粒子砲か、しかもさっき沈んだ金太郎飴ザクレロより収束率は落ちるけどなかなかの威力だぞ」
「つまり金太郎飴ザクレロはこの拡散メガ粒子砲の試験機だったということですね」
なるほど……やっぱり鎌いらないだろ。
<クスコ・アル>
この感覚、いつまで経っても気持ち悪い。
私にはララァのように信念はない、あるのは連邦への憎悪と復讐心だけ。
「なのに……なんでジオン(仲間)を殺してるのよ」
わからない、わからないけど、殺らないと殺られる。
パパとママみたいに殺られる。
「近づくなぁ!!」
ファンネルを飛ばして嫌な奴を消していく。
『クスコさん、大丈夫ですか』
新人の時は弱気だったアスナ、シャリア大尉に救われてから強くなった娘。
今となっては信念がない私より彼女の方が強いわね。
「大丈夫よ。そちらこそ大丈夫?」
『はい、さっき補給を済ませてきましたから』
その言葉の裏には休憩もろくにせず、メンテナンスも最小限で再出撃したということね。
いつもなら叱るんだけど、この戦況だと仕方ないと思ってしまう自分が嫌になる。
「じゃあ行くわよ。狙うのはアイギス級よ」
『それってまさか敵陣を突っ切って行くってことじゃ』
「その通りよ」
アイギス級さえ沈めてしまえば艦隊戦は一方的な戦いになる。もちろん敵も味方もそんなこと承知しているからモビルスーツが徹底して攻め、守っているわ。
だから今はモビルスーツ同士の潰し合いになってる。
「でも私とノイエジールNなら!」
『私の事を命知らず、死にたがりって日頃言ってるくせにクスコさんの方が絶対そうですよ!』
あら、私には勝算があってする行動ですもの、貴女と一緒にしないでください。
それにこのまま戦闘が長引けばどちらにしても死ぬことになる可能性が高い。
不確定要素は随分遠くから観測しているただならぬ気配を放つ存在がいることだけど、偵察しているだけで参戦するとも限らない。
それなら短期決戦こそ私達が生きるための勝ち筋。
『私だって死にたくて無茶な戦い方してるわけじゃありませんよ』
「本当にそうかしら?」
シャリア大尉を追い越そうとしていることはわかってる。それに後悔や自責の念に囚われていることも、でも何より死んで楽になりたいと心の何処かで思っているんじゃありませんか。
戦場で話すようなことじゃないので言いませんが。
それに文句言いながらもきちんと付いて来てるじゃないですか。
「私達も結構長い付き合いになりましたね」
『ダメですよ!!そういう話をすると戦死する可能性が跳ね上がるって教官が言ってましたよ!』
死亡フラグというやつですね。
その程度で死ぬなら私もその程度の人間ということですよ。
十数機ガルバルディβを落としながら前進し続けるとアイギス級が射程にもうすぐ入る。しかし相手もIフィールド発生装置を搭載している以上、まだダメージを与えることは無理。まだ近寄らなければならないけど——
「やはり出てきましたか」
もちろん相手も黙ってみているはずもない。
胴体が緑で四肢は青、相手はアナベル・ガトーか。
「相手に不足なし……なんて言えるほど私は傲慢じゃないわ」
相手が同じノイエジールであることは予想済み、そしてお互いIフィールド発生装置を搭載しているのだから半分以上の武装が無効化される。
「でもこれならどうかしら」
ファンネルを飛ばすが相手は気にせずミサイル放ちつつ、アームも飛ばしてくる。
ビーム兵器であるファンネルは至近距離から撃たなくてはIフィールドで防げるから無視するのはわかる。
「わかるけど舐めすぎでしょう」
ガトー機の右翼が爆発するのを確認する。
くっ、今のでスラスターを壊すつもりだったのにギリギリで躱されたわね。
Iフィールド搭載機が敵となることを想定して開発された兵器、ミサイルファンネル。
ファンネルにミサイルを搭載させただけの乱暴な兵器だけど実用的ね。
飛ばしてきていたアームのワイヤーをビームサーベルで斬ることに成功、そして私の周りにファンネルをちらつかせる。
ミサイルファンネルは単発しか装填できず、誘導も効かないし、補充もできないし、あまり多くの数を用意できなかった。
だから普通のファンネルと見掛けが変わらないことを利用して混ぜて牽制に使う。
「アスナさん、艦は任せましたよ」
『ええぇぇ、まだ10機以上護衛がいるんですけど』
「努力なさい」
『わ、わかりました』
そういう素直なところが好きですわよ。
夜を共にしたいぐらいに。