第百五十九話
<マリガン>
俺は今、帰路に立たされている。
宇宙の藻屑となったレインボーゴーストの再来によってドムII32、NN3、ムサイ3が落とされるという甚大な被害を被ったがNNとシン・マツナガのノイエジールを牽引しながら何処かへ消え去ったからまだいい。
問題は今、繰り返し流されている放送についてだ。
『という訳でサイド5、つまりニューギニア特別地区に世話になることになった。全軍、1度グラナダに戻り、私と同道する者は残り、そうでない者はグラナダに残れ。ただし勝手な行動はザビ家への敵対行動と見做し、それを裁く。これは陛下の命でもある』
陛下、つまりギレンも承知だということか……一体どうやって話を付けたのだろう。
戦争を仕掛けてきたのはギレンからだ。大義名分があるのは間違いないが内乱を起こすほどのものではなかった。
それにキシリアを生かしておくのも納得がいかない。
ギレンからすれば国内最大の不穏分子だろ。なのに追放、しかも聞いた話によると表の帳簿分さえ残していけば他は退職金で持ってけ、ってどんだけ太っ腹なんだ。
一年戦争……じゃなかった、独立戦争か……本当にどうにかしたい、何回も部下に一年戦争って言っちゃって『ハ?』って顔されてるんだよ。
じゃなくて、その時にオデッサやキリマンジャロで集めた腐るほどの資源をそのままポンっとくれると言っているのだ。
それに他にも色々裏金があることを知っている。なにせ俺も裏金作りに協力したからな。
アナハイムへの借金は年単位で決まった支払いだったからいまだにかなりの財産を保有しているんだが本当にいいのだろうか、と言うかアナハイムへの支払いはこれからどうなるのか。
そして、最大の問題は俺の身の振り方だ。
「ギレンにつくとシムスに刺される。そうじゃなくてもギレンから冷遇、いや俺がしたことを考えると抹殺される可能性も……キシリアについて行くと……先が見えねぇ」
別に未来が見えるなんて大層な能力はないけど本当に欠片も見えないのは不安を感じる。ニートとか引き篭もりの将来ぐらい何も見えない……いや、そちらの方がまだ見えるか。
どうする、返答はグラナダに到着するまであまり時間はない。
キシリアとニューギニア特別地区の繋がりの形がハッキリしないのが困る。
ネットの調べでは凄い良い国だと話は聞く、食べ物は美味いし賃金は少し安めだけど仕事はあるし休みもある。しかも休みは週に3日もあるというから現代日本から転生してきた俺からするとそれで社会は回るのか疑問に思ってしまう。
更には税が安いのに福祉の充実具合も先進国並み、いや、先進国ほど無駄がないらしい。
唯一の不安点は蒼い死神ことブルーディスティニーが独裁していることと、経済基盤がブルーパプワが支えていること、軍事国家っぽいことだ。
……ブルーディスティニーが独裁って何?ブルーディスティニーってモビルスーツだろ。パイロットが独裁してるんじゃないのか?
後、不可思議なことがある。それは調査のために送った人員帰って来ないどころか連絡すらもないってのはどういうことだ。
全員狩られたとでもいうのか?そうなると内通者がいる可能性があるが、毎回使う人脈を変えているのに全員を狩られるなんてありえない。
どうやって狩ってるんだよ。手駒が減って痛いっての。
それでニューギニア特別地区に親戚が住んでるっていう知り合いをツテに聞いたんだが……すんなり色々聞けた。いったい何のために手駒を減らしてまで……と、そんなこと考えてる場合じゃない。
「ブルーディスティニーのパイロットが転生者の可能性があるし、フラウも多分転生者……腐りすぎてて近寄りたくないけど、いざという時は頼れるかもしれない。日本も戦争中だしな」
それにあまり多く出てこないがファ・ユイリィも転生者だろ。原作で社長なんて裏設定あるはずもないし。
本当に、本当に頼りたくないが、背に腹は——いや、やっぱり頼るのは止めようかな。背に腹はぐらいならともかく尻にも変えられない。
それぐらいならキシリアにずっとついて行った方がマシだ。
ちなみにキシリアの性癖はSMのS、つまり女王様という見たまんまだったりする。
どうやって知ったかって?それは企業秘密だ。
「よし、付いていくか。そもそもギレンに暗殺されるかもなんていう恐怖に耐えながら生活するなんて無理。それにシムス中尉に絶対刺される……というか撃たれる。絶対」
という訳で身の回りの整理と家族友人知人に別れようのビデオレター……あ、両親はそのうち呼ぶのも有りか、まぁ平穏な日常が遅れるならだけど。
「後は……あ、飲み屋のツケ払っておかなくちゃな」
死ぬ前は15歳だったのに今が29歳、お酒が飲めるようになりました。前世のおやじと酒……飲みたかったな。
それにしても精神年齢は44歳……ハァ、ここのところこんな大人でいいのか悩み中。
最近は同じ年の女の子を見るとなんだか子供に見えてしまうのも悩みの種だ。勘弁してくれ、おかげで結婚ができないじゃないか……決してモテないわけじゃないぞ!
眉なしに紫ババァを引き取ると言ったら10秒ほど考えてOKがもらえた。
もうちょっと交渉する必要があると思ったんだけどな。
『正直軍をこれ以上疲弊させるのは面白くない。何よりアイギス級1隻とノイエジールを1機やられたのは痛い』
すいません、片方の犯人は俺達です。反省も後悔もせんがな。
「いいのか?不穏分子をそのままにして」
『ふん、今の状態で私から政権を奪い取れるわけがなかろう。それに奪い取られたところでキシリアが私を超えたということだ。ザビ家の栄光に変わりはせんよ』
なるほど、敵は敵でも兄妹だもんな。
公国、つまり貴族を名乗ってるんだからお家大事だから問題ない……のか?
そう考えるとニューギニア特別地区への亡命は最善かも、事故で即死しない限りはヒールでなんとかなるからな。つくづくチートだね。
亡命するのに時間の猶予を与えられ、身支度まで許されるなんて太っ腹だねぇ。しかも隠し財産まで持ち逃げしていいとか……最後の家族への情?……ないか。
他にも色々制限があったが、紫ババァの活動に制限を加えるようなものはなかったんだがそれで大丈夫か?
『先程も言ったが独立できるならばそれはそれでいいのだ。私を倒せるならば、な』
余裕ぶっこきすぎじゃね?フラグ立ってるぞ。
それはともかく、なんだか亡命してくる奴が結構力を持ったままやってきそうな件について。
今回は数が多い上に野心が高いから忠誠度上げても寝返る……ってそもそも家臣ですらないし。
まぁとりあえずサイド5のコロニーを一部貸して適当に力を搾り取るとしますか、幸い紫ババァは開発に力入れてるから俺達にも実入りがあるはず。
そういや、フラナガン機関をサイド6から追放という条件もあったからフラナガン機関も俺達の元へ来ることになるっぽい。
他国にあるムラサメ研究所だけでも面倒なのにその元締め的な存在がうちに来るのか、地雷臭いな。
まぁサイコミュの開発が更に進むかもしれないと前向きに考えよう。
「そして何より!」
「IフィールドGETですね!」
ノイエジールも確保したけど紫ババァから技術の提供があるんだから俺達自身はもちろん、サイコタイプやアプサラスにも搭載……できたらいいなぁ。
どう考えても現状のサイズじゃ収まりきらないだろうから実用はまだまだ先かな。
ゲルググNが大型化した理由は多分Iフィールド(劣)のよるものだろう。
サイコタイプをこれ以上大きくすると機動性、追従性に支障が出るから当面先送りになるはずだ。
アプサラスはIフィールドのサイズ次第ではそのまま搭載することができるかも?アプサラスの方が大きいから今度はジェネレーター出力の問題になりそうだけどな。
「今回の戦争は戦闘は1日で終わりましたね」
「そもそも国力も、戦争の規模も違うからな。所詮グラナダもいくつもある月面都市の1つに過ぎないってことだな」
5000万人規模のフォン・ブラウン市を抑えられたら話は変わっただろうけど、アナハイムや連邦が許すわけない。
「さて、俺達も色々忙しくなりそうだな」
Iフィールドはもちろんだがノイエジール、新型拡散メガ粒子砲、大型ゲルググNの解析、紫ババァ達をどう扱うのか、何処に住まわせるのか、フラナガン機関の受け入れもか。
「まぁ忙しいのは主にマハラジャとマレーネだけどな」
「仕事はぶん投げるもの!です」
でもノイエジールにしても拡散メガ粒子砲にしても大型ゲルググNにしてもすぐ喰えるわけじゃないんだよなー。
解析終了まで待たないといけない、ちなみにリック・ディアスも喰えてないんだよ。
こっちは単純にガンダリウムγが不足してて装甲剥いじゃってるんだよな。
復元にはサイコタイプの全力生産が終わらせてからになる……ああ、待ち遠しい。
食料が自給できるようになったはずなのにあまり満足に喰えないのが釈然としない。最先端近くを走り続けようと思ったら仕方ないこととは思うけど、本末転倒になってないか?
「キシリアさんの撤収作業は順調に進んでいます。亡命希望者は10000人ほどですね。亡命しない方の何十人かは何者かに殺されたり、行方不明になったり、謎の死を遂げたりしてるのはご愛嬌ですね」
後ろ暗いことを色々してきた紫ババァだから仕方ない。
あ、そういやシーマ様と相性最悪じゃね?(悪逆非道な行いを指示した側とされた側)
シーマ様の反応次第だけどニューギニア特別地区には来れないようにするかな。
2人のどちらを選ぶかなんて愚問だからし。