第百六十三話
アプサラスVIが目の前にある。
その姿は……
「全然変わらねぇ」
「見た目は可動砲の数と配置が違うだけですからね」
代わり映えしないデザインは仕方ないだろうな。原作とかけ離れすぎると読者が想像しにくいし。
「データ通り、可動砲を減らしてしまったが簡易Iフィールドとビームコーティング、ガンダリウムγ、更にリック・ディアスのスペースドアーマーを利用することで防御力はかなり向上した。……予定外なのは凡庸な兵どもが使えるようにサポートハロを5機も載せることになったことぐらいだ」
設計段階では3機だったはずだが、それでも足りなかったのか。
アプサラスVIは60門の可動砲があるのでハロは1機で12門を動かしてフォローをしていることになる。
ちなみに簡易IフィールドはIフィールド(劣)のブルーパプワ内での呼称だ。
「実弾兵器に対しての防衛は可動砲で誘導なしのミサイル程度なら問題なく撃破することができる。それ以下の物は装甲を多少凹ませる程度だろう」
ビーム兵器は遠距離からだと簡易Iフィールドで、貫通しても減衰した状態でビームコーティングでほぼ無効化、実弾兵器もほとんどがカバーできる……聞いた感じだと完成度が高い兵器だな。
「攻撃に関しては、ハロでは戦闘機の期待値は60%、日本のフジという可変モビルスーツだと40%程度か」
決して命中率は良くないな。
まぁ60門もあるからなんとかなると思いたい。
「1番の問題はやはり出力だ。簡易Iフィールドの稼働時間は被弾なしで最大2時間、被弾すればもっと短くなる……もっとも!空をアプサラスで覆い尽くせば問題ないがな!!ハッハッハッハ!!」
アプサラスで物量作戦とか……作物に影響が出そうな光景だな。
そして撃墜されるだけでその土地の被害は大きそうだ。
まぁどう考えても簡易Iフィールドで可動砲のビームが減衰して戦いにならないけど。
「VIは防衛以外に使わないのだったか」
「ああ、誰でも操縦ができるというからには輸出するわけにはいかないだろ」
「そうか……日の目を見るのはまだまだ先になりそうだな」
いやいやいやいや、日の目を見るってことはニューギニア特別地区が何処かと戦争するってことだろ。違うな、何処かとは十中八九連邦だろう。
ジオンは独立して間がないから戦争があるとすれば売られた喧嘩以外にない。
……いや、連邦とジオン共闘で俺達を潰しに来る可能性があるか……のか?正直市民の被害を考えなかったら負ける気なんてこれっぽっちもないけど。
何にしても出番なんてあってたまるか。
「戦争が終わった後、2機追加して連携テストもするべきか」
「始めてのIフィールドだからね。それが正しいと思う」
Iフィールド同士が干渉し合うとどうなるかは俺達の手元にはデータがないため試してみないとどの程度量産するか目処が立たない。
それにギニアスやアムロ達に言わせれば簡易Iフィールドはまだ改良の余地があるようで、本格量産はしばらく後になるらしい。
ならガンダリウムγも余裕がないんだからこんなに急いで作る必要なかったような気もするが、開発者ってのはこういうもんなんだから仕方ないともう半分以上諦めている……マハラジャとマレーネはいまだに慣れずに大変そうだけど。
「とこで噂に聞いたがサイド5の最高責任者というものを作るとか」
「ああ、今はナンバーズが交代で務めてるがナンバーズも暇じゃなからな。誰か責任者に据えようかと思ってね」
能力的にはマハラジャが適してるんだけど俺達の仕事が増えるから駄目だし、マレーネもできなくはないと思うけど若い女性では周りがついてこない可能性が高いしやっぱり俺達の仕事が増えるから駄目だし、はにゃーん様はまだまだだし、セラーナは……って言うまでもないか。
アイナに頼もうかと思ったら0.05秒ほどで断られたし、シーマ様はコロニー自体にも若干トラウマがあるようだから無理。
「ギニアスは——「やるわけないだろう」——ですよね」
ヒールせずに放置してたら死んじゃうほど開発してんだからな。
「シローにやらせたらどうだ」
「……マジで?身内贔屓なんて珍しいな」
「そういうわけじゃないが、シローはあれで人を惹きつける才能があると思う」
まぁ確かにシローは老若男女関係なく人気があるのは間違いない。
それに清廉潔白と言えば言い過ぎかもしれないが大衆受けする正義とブルーパプワの裏の顔などを知っていても表に出さない程度には顔を使い分けている。
しかし実績なく、いきなりシローを最高責任者に据えるのはさすがに無理があるだろ。
「別に最高責任者がすぐに必要というわけではないのだからシローを教育し、その後に任せればいい」
ちょっと前向きに考えてみるかな。
おっと、その前にアイナに話を通さないとあとが怖い。
話した結果、家族会議を行うので待って欲しいと言われた。
まぁアイナは地上勤務だから離れ離れになっちゃうから戸惑うのもわかる。
「ハァ……」
最近ため息がよく聞こえる。
その発信源はマハラジャからだ。
仕事はちゃんとしているので面倒だからスルーしてきたが、そろそろ鬱陶しい、とはマリオンちゃんの発言だ。
「最近ため息が多いがどうしたんだ?」
実はマリオンちゃんにより、寂しい、心配という感情であることが判明しているから理由はほぼ理解しているのだが、あえて聞くのがマナーだろう。
「いえ、特には——」
「いや、そういうのいいからとっととゲロれよ。面倒だから」
いい年したおっさんが片思いの乙女のような反応しても誰得って話だから。
「ハマーンはいつ頃帰ってくるのでしょうか」
やっぱりか、他に寂しいとか心配とか思うようなことはないよな。
「随分元気に活躍しているから当面は帰って来ないかもな……もしかしたら男でも拾ってきたり——」
バキィンッと手に持った高い万年筆を破裂する。そんなに力あるんすね。
「ロシアは現在踏ん張ってはいるものの劣勢です。直ぐ帰還させましょう。そうしましょう」
「あのな、お前も派遣に賛成しただろうが」
「こんなに長い間掛かるとは誰も思いませんよ!」
いや、戦死する覚悟で送ったんだから頑張ってる娘を応援するならともかく、娘が恋しくなって帰還させようとするなよ。
離れてから半年以上経つから仕方ないのかもしれないが。
「それになぜ定期的に入れ替えているメンバーの中にハマーンとリリーナはいないのですか!」
「本人達が残りたいというから残してるんだけどね。専用機がそれだけ欲しいんだろうな」
と言うかちゃっかりリリーナも混ぜてるあたり、家族として受け入れられてるのかな。
それと専用機を本格的に用意しないといけないか、撃墜数が既に300機を超えてるし……デザインはあのままでいいのか確認しておくか。
「それにロシアがハマーン様とリリーナ、クリちゃんには残って欲しいと熱烈に——」
「おのれロリ熊野郎、俺の娘達に手を出したらただじゃ済まさないからな!」
……キャラ変わりすぎだろ。世のお父さん方はこんなもんなんだろうか?それとサクッとクリちゃんを無視したよな。
「お父様、少し落ち着きましょうね」
「しかしだな!」
「落ち着きましょうね?」
「う、うむ」
世のお父さん方はやはり娘に弱いのだろうね。簡単にマレーネに負けたぞ。
「しかし、平壌が陥落間近と聞いています。どう考えてもロシアに勝ち目はないかと……」
「お父様、勝ち目がないから契約を反故にしてもいいなんていうのは些か死神の陽炎の武威を甘く見ているようですね」
よく言った、マレーネ。
どうもマハラジャは政治家、もしくは文官、官僚のような考え方をするのが玉に瑕なんだよな。
前にも説明したのに。
「むっ、だが、負けるとわかっている戦いを避け、勝てる戦いをするのが戦略というものだ」
「違うな。マレーネはわかるか」
「おそらく負けるとわかった戦いには信用を守(も)って戦い、勝利を。勝てる戦いは勝って当然」
「正解だ。付け加えるなら、戦略や結果は関係なく、俺達が勝ち続けること、つまり戦術的勝利こそ大事なのだ」
ココア閣下は戦略を重視したが、俺達は逆に戦術を重視する。
それは『依頼主に勝たせる』のではなく『俺達が勝ち続ける』ことに意味があるからだ。
「お父様、大丈夫ですよ。ハマーンは元気に戦場で暴れています」
「人殺しをして元気でいられると色々思うところがあるのだが……」
だからお前も派遣に同意しただろうが!