第百六十五話
死神の衣追加派遣で人事関連の仕事をしていて気づいた。
「そういえばキシリア派から提出された名簿に目を通してなかったな」
「ダメじゃないですか、もう2週間も前に渡したものですよ」
1万もの移住者が一気に来て忙しかったんだよ。と言い訳してみる。
すいません、ただの怠惰です。
さて、誰が来てるかなぁ。
稲妻さんにキマイラ隊の面々を始め、フォン・ヘルシング、サイクロプス隊(ガルシア抜き)、ノルド・ランゲルとグラナダ特戦隊か。
原作キャラはこんな感じか、キシリア派と思われる人物はほとんど移住してきてることになる。主な理由が降伏したら戦犯にされるか謀殺されることを恐れたからっぽいけど。
モブキャラだとニュータイプや強化人間、クローン兵など人材は豊富だな。
量より質に拘った編成であるため凄腕が多く揃っている。もっともやはり戦力比3:1をひっくり返すほどではない。2:1ならひょっとするとだけど。
「と言うかノルド・ランゲルがいたならマリガンが指揮執る必要がなかったような」
グラナダ艦隊司令官の名が泣くぞ。
「艦隊全体の指揮は執られていたようですよ。マリガンさんは前線の指揮を執ってただけです。それとソロモン決戦での経験が評価されたようです」
言われてみればそんなこと言ってたな。
「それとノルド・ランゲルが死神の陽炎本部に所属したいと志願してきてますよ」
ん?本部にか?
キシリア派を吸収したことで死神の陽炎が大きくなったことにより組織の整理をした。
死神の陽炎を傭兵部隊の総称として本部は艦隊の運用と事務や経理を総括、死神の陽炎実働部はマリオンズや死神の衣を補助をメインとしていて外部の依頼は受けない。
死神の衣はニュータイプ、養殖ニュータイプ、強化人間、クローン兵が所属する部隊で兵站は本部が管理するが権限自体は本部より死神の衣が上位である。
死神の鎌ことマリオンズはもちろんブルーパプワ、ニューギニア特別地区、サイド5などを含める全ての組織の最上位権限を持ち、兵站は独自に運用もするが本部から提出させることもでき、死神の衣や実働部に命令する権限を持つ……なんて説明は今更か。
防衛部はニューギニア特別地区とサイド5の正規軍扱いの死神の陽炎で兵站はそれぞれの組織が担う。
警備部はニューギニア特別地区、サイド5、民間からの依頼を受ける部で商船や輸送船、護衛、治安維持などを請け負う……が、マリオンズと死神の衣が暇な場合仕事を奪われることがしばしばある。
つまり今は結構忙しい部だ。
そしてキシリア部……うん、この名前どうかと思ったんだけど皆わかり易さ重視で、ということでこんな名前になった。
今のところキシリア部の仕事は決まっておらず、コロニー清掃やモビルスーツの部品工場、警備部の仕事を一部の仕事を回してなんとか組織としての意義を示している。
まぁキシリア部的には死神の陽炎は仮宿にすぎない……はずなんだが。
「それはキシリア派から抜けるということか」
「ですね。話した感じだとそもそもザビ家の独裁が気に入らなかったようで、これを機に抜け出したいようです」
いや、ニューギニア特別地区やサイド5だって俺達の独裁なんだけどいいのかな。
「少なくともザビ家より断然マシ、とのことです」
まぁ国益第1な考え方をしているし、何より市民に還元している自負もあるからな。
俺達はたまにモビルスーツという給料を貰っているが、これも巡り巡って還元される……養殖ニュータイプやシーマやギニアス達の若返りと健康に、だけどな。
「特に反対意見が無いということはスパイという可能性は」
「ありません。裏を取りましたがどうやらギレンさんに母方の親戚がまとめて殺されたことを怨んでいるみたいです」
うは、凄いな。今までよく働いたもんだ。
ザビ家の負の遺産はどれぐらいあるんだろうか……俺達には関係ないけど。
「問題がないなら本部に所属してもらって……ジオンで元少将ってことは有能だろうからコッセルの補佐にでもつけるか」
「わかりました。コッセルさんに確認を取ってからでいいですか」
「身内だったことを考えると本人に選ばしてやるか」
後日、ノルド・ランゲルが本部に移動となった。
これを知ったキシリアを崇めているマレット・サンギーヌが激怒して本人に詰め寄ろうとしたが本当に偶々近くに居たマリオンズに鎮圧されるという事件があったがこれは余談か。
<ハーディ・シュタイナー>
「ハァ、まさかガルシアの仇の国に逃げ込むことになるなんてな」
「しかし戦ったことがある自分達はまだ納得できますが他の者は難しいでしょうな」
ミハイルとアンディが言っていることは間違っていない。
私はガルシアの仇を、などとは思わないが好き好んで仇の世話になったわけではない。
命惜しさと言われればそれまでだが、ガルシアの分まで生きなければならない以上、ギレンの下に降るのは抵抗があった。
私達は特殊部隊という性質上、同じ国の者に銃口を向けたこともある。
それが表に出れば嬉々として民衆への贄とされるだろう。
これを避けるために苦渋の決断をしてあの蒼い死神を頼ることにしたのだ。
決してキシリアが慕ってこちらに来たわけではない。
しかし私達は蒼い死神の強さを直に経験をしているため、あまり抵抗はなかった。
あの強さは規格外という言葉では安っぽすぎると言えるほど規格外であり、敵にして生き残った私達は幸運だ。
そしてあの死神の応護下にいるとなれば死ぬことなどそうそうないのではないかと思う。あの存在は軍でどうにかなるものではない。
しかも死神の鎌などという蒼い死神と同等かそれ以上の化け物が10人以上いるという話を聞いて移住する時にはどんな修羅の国かと思ったがサイド5のコロニーは至って普通だ……今考えると当たり前だが。
キシリア派と呼ばれる存在はソロモン決戦と先の内乱しかほぼ実戦を経験していないため蒼い死神を軽く見ている風潮がある。
「この前、サイド5をキシリア様に献上すべき!なんて言ってた奴が居たが正気の沙汰じゃないな」
「ハッ」
つい笑ってしまった。
怖いもの知らず、厚顔無恥、井の中の蛙大海を知らずが掛け合わさったようなやつだな。
「しかも近くに死神の鎌がいたんだぜ」
おい、それはちょっとシャレにならないぞ。
下手をすると私達までとばっちりを喰らうかもしれない。キシリア部なんて言っていても所詮居候にすぎないんだぞ。
「大丈夫ですよ。その前に諜報部の奴等に制裁喰らってましたから」
「さすがは名高い諜報部、何処にいても機能している」
「真っ先に死神の鎌の餌食になったのは諜報部だがな!」
本当は私達にも諜報任務が与えられたのだが、キシリアの命令じゃないからと頑なに拒否して正解だったな。
そうじゃなければ今頃……うん、モビルスーツの装甲を引き千切る死神の鎌を相手にするなんて……悪夢だ。
「そういや、結局欠番の補充はできませんでしたね」
「予定はあったんだが、なにせモビルスーツの新調にも困っていたからな」
ガルシアが欠けてからはソロモン決戦もあって迂闊に誰かを連れてくれば連携が崩れるということで先送り、戦時が終われば軍縮傾向で補充が先送り……キシリア派の敗北はなるべくしてなったのかもしれない。
「いっそ司令官を習って俺達も死神の陽炎に所属させてもらうってのはどうだ」
「それはいいかもな。先例ができたことですし」
「……時期尚早。もう少し様子を見てからだな」