第百六十六話
今更だがミノフスキークラフトとはミノ粉の磁場を発生させて反発して宙に浮くものだ。
最近これに弱点があることが発覚した。
どうも大粒の雪や雹などはミノ粉の磁場を撹してしまって浮くことができない……わけではないがSEED風に言えばアークエンジェル程度の高度しか保てないようだ。
雪や雹に巻き込まれない高度なら関係ないが、発進時から悪天候だとビームコーティングしてても動く的だよな。
「改善できそうか?」
「難しいな。ミノフスキークラフトの技術的未熟さが問題だから開発に時間が掛かるだろう」
「ソフト面からアプローチできないか検証しましたが1m程度なら変化しましたが誤差範囲です」
ハードのギニアスとソフトのアムロ。
メイはサイコミュハロの小型化を目指して受信機の改造に着手しているからノータッチ。
おまけで言うとどうやらアムロとメイがくっつくかも、とマリオンちゃん占いで出ていた。
マリオンちゃん占いで『かも』なんていう曖昧なものがつくのはほとんど無い。それだけ恋愛は難しいんだろう。
もっともまだお互い好意を抱いているだけで開発が第1という感じらしいから俺達は口を出さない。
もし仕事に支障が出るようなら……その時が楽しみだ。
「今まであまり寒い場所に行かなかったことの弊害か」
「まぁロシアやカナダ、北欧などは独立戦争初期にしか大きな戦闘はなかったから仕方ないさ」
「それにニューギニア特別地区は1年中暑いし」
これでもコロニー落としで涼しくなったってんだから信じられないよな。
このミノフスキークラフトの弱点発覚にはロシアが悪天候の中ザンジバルを飛ばそうとしたことで発覚した。
幸い撃墜されることもなく、目的地にも到着したから良かったが正しいクレームは仕方ない。
その目的地が平壌、つまり決死の覚悟で増援を送り込むことで、そして成功した。
俺達がひたすらドップブースターを供給し、撃破されたとして戦闘機同士の戦いは案外死亡率が低い(誘導ミサイルが使えないため致命傷は機関銃が多い)ため、脱出したパイロット達は国民の手助けで帰還率が高いなど、粘るに粘って制空権を確保し続けることに成功している。
そのおかげでザンジバルが無事到着できたというのだから平壌も粘ったかいがあったな……戦力を分散させられてるような気もするがな。
「何より開発するものが多すぎる。特にサイコミュとIフィールドが重視し過ぎていて可変モビルスーツの開発すら困るぐらいだぞ」
「僕も可変モビルスーツの開発に携わってますから」
金はあれども人材乏し。
キシリア部から人材を何人か引き抜いたが、所詮焼け石に水。
フラナガン機関が傘下に入ったことでサイコミュの開発に新しい風が吹いたが、クローン兵にも熱中していて扇風機の風ぐらいでしかないようなイメージがする。
「3月後半に入っても寒さが衰えないのは寒冷化のせいなんだろうな」
コロニー落とし前はモスクワは3月の最低平均気温が-10度を下回ることはなかったが、現在は-14度と比較的暖かかったモスクワの影はなくなっている。
「そういえばヤマダ・ゴローさんはサイド5の責任者になるんですね」
ヤマダ・ゴロー??
……
…
ああ、シローの偽名か。というかそんな設定を律儀に守ってるのはアムロぐらいだぞ。
「ああ、今はマハラジャとマレーネが帝王学とか心構え、心理学などを学んでいるはずだ」
「そういえば前々から思ってたんですけど帝王学って何なんですか?」
「簡単にいえば家訓だ。私も小さい頃に父上に教わったものだ。サハリン家では華麗に、大胆に、そして愛には直向(ひたむ)きに、と」
それは帝王学じゃないと思うぞ。でも納得だな。アイナの若干ヤンデレな感じやギニアスのアプサラス愛は、そこから来たということだろ。
本人達が否定しても俺が認めん。
<ハマーン・カーン>
「温泉最高」
「いいんですか、ニューギニア特別地区に帰還するための、ひいてはマハラジャさんが顔を見せに来させるために頂いた休暇なのに、ソチで温泉なんて……」
「……クリス、入ってる」
クリスは生真面目過ぎる。
戦火で踊るワルキューレ達に休息があってもいいだろう?
「……自画……自賛乙」
「『達』って私も入るんですか?」
「無論。それに死神の衣などと物騒ではないか」
乙女に死神なんてちょっとネーミングセンスを疑うぞ。
「卓球がありましたからぜひやりましょうよ」
「「「だが断る」」」
「えー」
ナンバーズと卓球なんてしたら死ぬ……いや、殺される。
遊び半分でコロニーの地面を殴ったら貫通して大事になったあの事件は今でも忘れない。
宇宙に放り出されたやつら、よく無事だったな。
あまり慌てないリリーナがアタフタしてたのは面白かったが2度とゴメンだ。
「ハァ、良いお湯だ…………やはりロシアはやはり保たないだろうか」
「保ちませんね。ウラジオストクが落とされて戦線が増えましたし、平壌に予備兵力の半分を投入しました。ウラジオストクを奪還できればあるいは……」
「私達はモスクワから離れられません。それに何より資金の尽きかけてます」
私情で悪いが始めての仕事は勝利で終わらせたかったが……無理か。
「1つだけで可能性がないわけでないですけど」
「本当か?」
「ええ、今から持てる全財産を投入して私達、ナンバーズを雇うことですね」
……なるほど、確かにアプサラスVIを派遣されれば制空権の確保は難しくないし、私達も好きに動ける。
「ですけど、恐らく私達を正式に雇うとなれば国が傾くほどの国債を刷らないとなりませんから難しいでしょう」
連邦からの参加依頼キャンセル料か、その倍を払わなければならないというのはなかなか厳しいな。
傭兵という職業上仕方ないとは思うが、金のために敵だった者に味方し、味方だった者を敵とする……思った以上に殺し殺されより精神的に来るな。
「現実的にはコーウェン中将の首をあげればなんとかなるかもしれませんよ。ロシア解放作戦は元々連邦、特に反ティターンズ勢力であるコーウェン中将が主導したものですから討ち取った後に私達がティターンズと渡りをつければ……」
おお、クリス、いやクリちゃんが冴えている。
「その愛称はやめてください!!」
「……中将、遠い」
それが問題だ。
コーウェン中将が戦場に出てきていることは幸いだが、いるのは奥の奥。
私達だけで突破できるかという問われればできるだろう。しかしその代わりにどれだけ損害が出るかは考えたくもない。
「ナンバーズがちゃんと戦ってくれれば……」
「無理ですね。私はハマーン様を護衛するためにここにいるんですよ?戦いに来たわけじゃありません」
取り付く島もなしとはこのことだな。
しかし、一考の余地はある。
「……全軍突撃すれば、たぶん行ける」
全軍?それは死神の衣の交代要員も含めてということか。
「ん」
確かに……ん?
「おや、連邦陣地に大きな乱れが……」
気のせいかと思ったがナンバーズが察知しているのだから間違いない。
しかしロシアが攻勢に出ているわけでもないのになぜ?
「これはもしかすると勝ち目が出てきたかもしれませんね」
「何か心当たりが?」
「ええ、しかし今は休暇を楽しみましょう。ひょっとするとロシア解放作戦最後の休暇になるかもですから」
それほどのことなのか。
「じゃあ寿司食べに行こう」
「日本食はニューギニア特別地区で良くないですか?」
甘いなクリス。ロシアにはロシアしかないネタがあるのだ。
ニューギニア特別地区の寿司はザ・日本だからな。面白みにかける。
<連邦兵>
俺は悪魔の足音を聞いた。
間違いなく悪魔だ。
本来逞しいはずのビッグ・トレーが今では黄色いサタンだ。
コーウェン中将も黒い顔を真っ青にしている。
なぜだ。
なぜ、ここに。
なぜここにいる……
「お待たせしましたね。私が指揮するからには負けはありません」
なぜここにいる!ゴップ大将!!