第百六十八話
ハッハッハ、まさかジオンまでBL文化が侵食……いや、腐食しているとは思いもしなかった。
さすがはオタク文化、前世でもフランスやドイツなどに侵食していただけのことはある。
ジオンはBLを厳しく禁止した。
規制じゃなくて禁止だ。いやー英断だと思うね。
大義的には現実に存在する人物を描いたものは肖像権侵害とした上で、暴力的表現以上に屈折した性への価値観を与える、というものだ。
だが当然反発するものがいた。
もっともらしい批難としては表現の自由、創作の自由の侵害だ。といつもながらの民主政()信者の権利の主張。
そして眉なしのブログを炎上させる腐女子達の罵詈雑言。
同性愛者からも盛大なバッシングを受けている。
とは言ってもジオンは公国、つまり独裁状態なのだから民主政?なにそれおいしいの?状態、デモなどもなかったことにより実質的に妨害に合わず、スマートに実施されることになった。
「さて、BL包囲網が着々と進んでいて嬉しい限りだが、今はそれどころではないか」
「ですね。なぜか連邦がソチに侵攻なんて無駄をしてくるなんて……」
「ハマーン様達が休暇中という最悪のタイミングで、か。作為的なものならマリオンズの防諜を突破して調べたんだから大したもんだ」
「ひょっとするとロシア側から漏れたのかもしれませんよ」
その可能性もあるか、しかしこうなると死神の衣20人も同行していてサイコタイプも各自持って行っていたのは不幸中の幸いかな。
今度から休暇移動でも自分達の機体と共に移動することにしよう。
「ですが、さすがに相手が多いですね」
「まさか半分も出すとかアホだろ。しかもコーウェン中将がソチにって……モスクワに張り付いてんのは誰だ?」
「マリオンズの報告だとゴップ大将だそうです」
…………ええええぇぇぇぇ、何しに来たの?コーウェンにそんなに勝って欲しくないの?
俺は今、連邦兵士と同じ思いだと確信が持てる。
ということはもしかしてこの作戦はモグラの作戦なわけ?ならある意味納得。
「それでハマーン様はどうするって」
「相手に不足なし!……と冷や汗ダラダラ流して言ってます」
不安を隠せてないが弱気でないところは評価しよう。
とは言っても予想される戦力はモビルスーツだけで18000という数だ。
それに比べてハマーン様達4人+死神の衣20人とソチ周辺から集めた急ごしらえな防衛部隊100機、更には制空権は100%連邦にある。
不安になるなと言う方が無茶か。
「防衛になるとろくに設備がないので敗北は決定的と言うことで野戦、ゲリラ戦で侵攻を食い止めるようです」
それしか選択肢はないか。問題は制空権が相手にあるのでモビルスーツによるゲリラ戦がうまくいくかどうかだな。
「私とマリオンズだったらゲリラ戦なんて楽勝なんですけどね」
「それは素手でモビルスーツと戦うゲリラ戦かな?」
「はい。以前話してくれた東方不敗師匠ほどではないでしょうけど、間接破壊ぐらいならできますし」
マリオンちゃんがGガンの世界の住人になったようです。
さすがに拳圧でモビルスーツを真っ二つにしたりはまだできませんけど、と謙虚そうに言うマリオンちゃんだが、十分だからな?
「補給はこれまで以上に欠かせないな。問題はルートと確実性か」
「制空権を取られているため1番安全な大気圏からの輸送も確保できそうにありません。追加で死神の衣を派遣すると同時に大規模な輸送部隊を送るという方法もありますけど、大量の物資は部隊の足を鈍らせます」
サイコタイプは対空戦も弱くはないが空から降るコンテナを護れるかどうか、と言われると不可能だろう。
大規模輸送を行うのは簡単だが、問題は現地で物資を守りきれるのかという疑問だ。
施設もなければ部隊も少数、どう考えても無理だし、何よりモビルスーツによるゲリラ戦も難しいがそれ以上にゲリラの拠点を構えるのは難しい。
「ある程度届くと思って大気圏から落とすことが最善と思いますね。もちろん1度は大規模輸送はしておく方がいいでしょうけど」
「なら追加で死神の衣100人を送るついでに大規模輸送を行いつつ、大気圏降下輸送も平行して行うということで……どうも不安を感じるが」
「そこはハマーンさんに期待しましょう。それに問題は他にもありますよ」
はて、他に何かあったか?元々数に差がある現状他の問題は大したことないものばかりのはずだが。
「指揮官が足りません。ただのゲリラ戦なら問題ないですけど、遅延も兼ねているので連携が大事ですよ」
そうか、他の養殖ニュータイプ・指揮官型はほとんどはにゃーん様とクリちゃんの代わりにモスクワにいるんだったな。
「仕方ない。シーマ様、ガイア、ゼロ……それとサラ・ザビアロフは士官コースをクリアしたんだったよな」
「はい、無事卒業していますが実戦はまだです。投入しますか」
まだ若いからなぁ……でも、はにゃーん様も実戦投入しちゃってるし。
「できるだけ指揮に限定させるようにして投入するようにしておけ。ここで潰れてもつまらないからな」
「わかりました」
<ハマーン・カーン>
「ふぅ、この数を私達だけで相手するなんて……正気ではないな」
『言い出したのはハマーン様ですけど』
『ロシアの兵士のことも忘れないであげて』
『……いっぱい、いっぱい』
初陣の時も寡兵だったが、今回は敵の数が増え、更に味方が減っている。
今までかなりの兵士を殺してきた。
もし戦いに敗れ、捕まりでもしたら……と思うと背筋が凍る。
嫌なイメージがなかなか頭から離れない。
援軍は4日後、補給物資自体は1日後に送られる手はずになっている。
先程からブンブンッとうるさいぐらいに航空機が多数飛んでいて鬱陶しい虫達だ。
今、私達は連邦の侵攻ルート上付近にある3000m級の山の頂上あたりから様子を探っている。
「私達に気づいている様子はない。作戦に変更はないということでいいな」
『と言うより他にできる戦術なんてないと思いますよ』
『異議なし』
「では……リリーナ、任せる」
『亀、撃つ』
相変わらず正確無比なスナイパーライフルでの狙撃で宙を舞うディッシュが爆発する。
それに反応するように航空機がこちらに多数飛んでくる……が、まだお互い射程外でリリーナの一方的な狙撃でいくらかのジェット・コア・ブースターを減らす。
撃破されたディッシュをカバーしようと別のディッシュがこちらに向かってきていたが瞬く間に狙撃で落とす。
私達の最優先で狙いはディッシュ。哨戒機として優秀なため、最優先に潰すべき敵の目だ。
航空機が射程に入——
「ここに来てもまた砲撃か!いい加減飽き飽きする」
モスクワでの防衛で砲撃は一生分迎撃したと自負しているが、どうやらまだまだ足りないようだ。
そして襲いかかる航空機から放たれた対地ミサイル。
直線的なミサイルだから躱すのは容易い、そして合間合間に航空機を撃墜していくがなかなか弾幕が終わらない。
「数が多いだけのくせに」
『こちらが圧倒的寡兵なんですから焦っちゃダメですよ。それよりそろそろ相手のキャノンタイプの砲撃が届きそうな位置に来ましたから私達は撤退しましょう』
「そうしよう。クリス、信号弾」
24人で戦う上で1番やられると困るのは給弾する間もなく襲われることだ。
それの実例が、今だ。
ほんの数分の戦いだった。だが有線式可動砲の砲身が熱くなり、Eパックも20%を切っている。
信号弾の合図で別働隊がキャノンタイプを襲撃しているので、ここにいる航空機以外はそちらに注目するだろう。
ここにいる航空機程度なら振り切ることなど難しくない。
さて、これで連邦は自分達の敵が死神の衣ということがわかったわけだが、どういう反応が返ってくるかな。