第百七十八話
シローが単身(アイナを置いてという意味)、サイド5へ。
今は食の聖地『ルビー』の建造で仕事が山ほどあるのでとっとと叩きだした。
アイナから人が殺せる視線を浴びたが生憎俺は人じゃないから殺せない。
サイド5は新しい土地であるのと同時にブルーパプワの私有地も同然なので統治は比較的楽な部類だ。
補助にはモブキャラだけどそこそこ優秀な者を付けてるから大丈夫なはず。
そういえば朗報、オタクの聖地サファイアが可動を初めて2年、早くも元が取れた。
いやーオタクの力は偉大だね。現代でも経済効果がそこそこあったんだけど、この世界だと更に凄い。
円にすると数兆円規模だし……どんだけオタク文化は広まってるのやら。
とうとうオタクの、オタクによる、オタクのための祭典、コミケがついに来年から年に1回行われることが決定した。
今まではまだ交通機関の整備不足や世界情勢の不安定さ、そもそもまだ参加者サイドの準備不足、著作権保有者との折り合いなどで延期されてたんだけど、ついに全てが解決した。
交通機関の整備は元々時間の問題だったが、世界情勢は一応の安定を取り戻し、コミケの認知度も上々となり、参加者に規則の通達や作品の準備なども上手く行っているようだ。
そして何より二次創作で問題となる著作権だがコミケマークというものを作って、限定的著作権フリーにすることになった。
ずいぶん抵抗してた企業があったけど戦争が終わると黙ったな……ナンデダロウネー。
ちなみにこの件に関しては貴腐人の党の協力も得た。すっごい地雷臭いけど同人合法化は必須だったから仕方ない。
TPPなんて糞食らえ!……おっと私情が混ざったな。
「まさか工業コロニーよりオタクの聖地が先に黒字になるとはな」
「ロシア解放作戦が功を奏しましたね。北中国や西中国、日本や韓国から戦争を逃れるために移民してきたり、一時避難を兼ねた旅行などで一気に知名度が上がって、今となっては日本で『行ってみたい旅行先ランキング』でトップ5に入ってますよ」
そんなわけでサファイアは活気に溢れている。
そういえば重要なことに気づいてしまったんだよ。
サイコミュの研究、開発のデータが俺達にほぼ集中しているためバイオセンサーとその進化先?正統派?であるサイコフレームなどが開発されない可能性があることに。
民間企業にサイコミュの機密が漏れたのはジオン(フラナガン)→アクシズor連邦→アナハイムと言う流れで、アナハイムで両軍のサイコミュのデータが集まったからサイコフレームができたと考えられる。
しかしこの世界の連邦はジオンの研究データを確保できず、独自開発の色が強く、ジオンのデータはほとんど俺達の手元にある。
つまりバイオセンサーは連邦が開発するかもだが、サイコフレームの開発は俺達がしないといけないようなのだ。
アナハイムほどの資金も人材もいない俺達が、である。
「サイコフレームを独占できたら俺達の無双はもう止められないだろうなぁ」
「流出しても私達以上に使える人なんて多分いませんよ」
おっと、それはフラグというやつだぜ。
ひょっとするとギアスのロロみたいなことができるやつがいたらさすがに無理ゲーだろうし……サイコフレームがどこまでの力があるか未知数な段階で甘く見ると痛い目を見ることになる。
「とは言っても開発の目処も立たないんだけどな。メイが思念操縦システムなんていう変わったものができそうという話だけど」
実現すれば機動戦艦ナデシコに出てきたエステバリスのIFSみたいに操縦ができるようになるらしい。
もっともサイコミュを使ったものだからニュータイプ以外は使えないんだけどね。
原作になかった……いや、ラフレシアがそんな感じの操縦方法だったような?
思念操縦が実現すればアプサラスシリーズももっと使いやすくなるはず……まぁ、他国から問い合わせがありそうだからあまり目立たせたくないが。
まだまだ実用には程遠いらしいから気が早い心配だけどな。
メイはまだまだ若いし、ヒールで延命する予定だからそのうち完成させてくれるだろう。
「そういえばシーマさんがロシア解放作戦の最終戦で指揮以外で足手まといになったことを気にしているようです」
原作よりも戦闘経験がないシーマ様は原作より弱体化してるんだよなぁ。
その分、指揮や政治などの勉強してもらってるから俺達的には重宝してるんだけど。
「後方から指揮が執れない現在の戦いでは指揮官にも戦闘能力が求められますからね。ブートキャンプに参加するか真剣に考えてるみたいです」
クローン兵の投入が本格化すれば指揮官の不足は拍車がかかるからシーマ様がパワーアップしてくれれば助かるのは間違いない。間違いないんだが、シーマ様はニューギニア特別地区ができる以前からの付き合いなだけあって社内どころか国内からも人気がある。
マリオンちゃんやアイナ、メイなんかは外への露出が少ないからなおさらだ。
最近はマレーネも人気を集めているがそれでもシーマ様には敵わない。
そんなシーマ様を前線に出すような緊急事態はあまりあって欲しくないという思いもある。
マリオンちゃんの能力を1番最初に暴露しただけあって代え難い人材だからな。
……だからこそニュータイプになってもらった方がいい、か。
「もし本人が望めば参加させていい。いや、むしろ徹底的に鍛えてやれ」
「わかりました。地獄巡りコースを考えておきますね」
……なんだか新たなトラウマができそうなんだが……頑張って乗り越えてくれるだろう。きっと。
いや、むしろこれで今まであったトラウマ……いや正確にはPTSDか、を克服してくれると思っている。
そしてご冥福をお祈りします。
さて、彼氏彼女がいないものの怨嗟が渦巻く、クリスマス。
原作だとバーニィことバーナード・ワイズマンの命日でもあるが……そういや、この世界のバーニィはどうなったんだろ?
探してみるか、原作だと確かサイド3出身で高校卒業と共に徴兵されたはず。
この世界だとサイド3で徴兵されるほど切羽詰まってはなかったから一般人だろうか?キシリアの諜報部使えばすぐわかるだろう。
こんなことを突然考えているのはなぜかというと……1枚の招待状が事の発端だった。
何の変哲もないクリスマスカード、しかし差出人を除けば、だ。
その差出人とは——
「こうしてお会いするのは初めてね。ファ株式会社社長ファ・ユイリィです」
そう、貴腐人の党のスポンサーであるファ・ユイリィからの招待だった。
「ニューギニア特別地区代表兼ブルーパプワ代表ブルーニーだ」
「同じく副代表マリオン・ウェルチです」
正直、気乗りしなかったんで来たくなかったんだけど、サファイアの件で助力もしてもらっているから一応挨拶ぐらいはしておかないとな。
大人のマナーってやつだ。
クリスマスカードにはどうも俺が転生者であることを知っていると言っているかのような内容だったが、さて。
「それならマリガン中佐から聞きました」
口止めはしなかったから別にいいんだけど……情報漏洩には変わり無いから帰ったら処罰だな。
コロニーの外壁清掃3ヶ月ぐらいやらせとくか、外壁清掃は宇宙空間で宇宙服で長時間作業するから不人気だからちょうどいいだろ。ついでに命綱も無しでいいよな?
「ああ、そういうからにはファ社長も、かな?」
「ええ、私も同じです。それと私はファでいいですよ」
「そうか……それにしてもカミーユを上手く使って成り上がったようだな」
「人聞きが悪いですね。会社を共同運営しているだけですよ」
どうだかな。
しかし、カミーユがパイロットとして戦場に出てこないなら1番危惧していた相手がいなくなったことになる。
後注意すべきはジュドーぐらいのものだ。
『マリオンちゃん、カミーユを感じることができるか』
『バッチリですよ。未覚醒状態ですけど輝く原石があるのでそれでしょう』
へぇ、未覚醒状態でもわかるとか、さすが史上最高のニュータイプだな。